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第17話「埋め込まれた悪意」【Bパート 始動する計画】

 【2】


 換気扇の音がブーンと静かに唸る病室。

 純白のシーツの上で寝息を立てるももの隣で、華世はドクター・マッドの報告に思わず額を抑えた。


「仮説とはいえ、強いストレスがこの子を再びツクモロズにしちゃうなんてねぇ……」

「華世ちゃん、ごめんね……。私が無理にでも連れ出したから」

「結衣は悪くないわよ。家で一人でいて、そこで巨大化させられるよりはマシだったし。それにしても……」


 振り返り、眠るももの顔を見る。

 首元で光るチョーカーは、先程ドクターがつけ直した新品だ。


「麻酔が効いてなかったらと思うと、ゾッとするわね。それから、謎の狙撃手の援護も無かったら……」


 ホノカからの報告で聞いた、怪物化したももの鎮圧の大部分を担った鉄塊の弾頭。

 調査の結果、それが対キャリーフレーム用の歩兵用大型レールガンから発射されたものであることがわかった。

 空から降るように飛来したということは、狙撃ポイントは中心軸を挟んでコロニーの反対側。

 しかし、そのような大型武器を振り回していたにも関わらず、ポリスの捜査でも付近から目撃情報は何一つとして得られなかった。


「少なくとも味方……とは思いたいけど、偶然や気まぐれでの利害の一致かもしれないわね」

「ああ。アーミィの監視下でなくそのような武器を使う人物を野放しにはできん」

「問題はツクモロズの行動ね。逃げ際の抵抗でももに手を出したらしいけど……」


 ツクモロズの目的に関しては、今も何一つとして具体的な情報は得られていない。

 目的なく怪物を振りまいている……と考えることもできるが、そうなると昨日の出来事に説明がつかない。

 ミュウ曰く、この世界というより金星圏を脅かそうとしている事だけは確かなのだが。


(いよいよ……行動を開始するっきゃないわね)



 ※ ※ ※



 脈動する玉座後方にそびえ立つ、モノエナジー貯蔵クリスタル。

 その輝きが青からオレンジ色へと徐々に変化する様子を、ザナミはひとり見上げていた。


「それが、私が取ってきた巨大な核晶(ヒュージ・コア)の効果かい?」


 背後から聞こえたフェイクの声に、ゆっくりと振り向き頷くザナミ。

 彼女の活躍で、ようやく長い停滞から脱する事ができる。


「フェーズ2への到達は間もなくだ」

「その言い方……フェーズとやらが上がった瞬間に、なにかが起こるって口ぶりだね」

「そうだな。既にアッシュが埋め込んだタネが開花するだろう」

「もったいぶった言い方だね」


 不満そうな顔をするフェイク。

 けれどもその表情は前よりはずっと穏やかだった。


「我々が鉤爪の女と呼ぶ少女。彼女の内に眠る悪魔の力を強めるために必要なことだ」

「それって前にあの鉤爪モドキをけしかけたときにも言ってたね。悪魔って何なんだい?」

「ひとつ言えるのは、強大な力を持つツクモ獣であること。それこそあの鉤爪の女を遥かに超える力を持った、な」

「ふーん。でも、あの女の歪んだ顔が見れるなら……フェーズが進む瞬間ってのも楽しみに思えてきたねえ」


 不敵な笑みを浮かべる彼女の態度は、鉤爪の女……華世という名の少女への憎悪を感じさせる。

 多くの憎しみ、多くの犠牲、多くの屍の上に成り立つ自由。

 それを得るための大いなる一歩を、ザナミは今か今かと待ち焦がれていた。


(イザナ……お前の仇を討つその時まで、私は強く生きるから。どうか見守っていて……)


 ひとり心のなかで、ザナミは決意を固め直す。

 最愛の人物の名を思い浮かべながら。





    ───Cパートへ続く

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― 新着の感想 ―
[良い点] 序盤の各支部の番号が光り会話を繰り広げていく様子は、とても胸が熱くなる描写でした。 ウルクラーゼ支部長の頑張りが功を奏して、遂にツクモロズの存在が金星の住民に公開されると思うと、ワクワクし…
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