第2話「誕生、鉄腕魔法少女」【Eパート 妖精とアーミィ】
【5】
「鉤爪って、物騒な呼び方ね。まあ良いわ、もう大丈夫……よ?」
助ける対象がいた場所に視線を移し、ここで初めて少年が姿を消していることに気づいた。
辺りを見回しても人の気配は感じられず、かといって逃げ出したような痕跡も見られない。
「どこにいった? 人をこんな格好にしておいて無責任な奴ね」
「僕は逃げてなんかないミュ!」
「みゅ?」
声がした方へと視線を向けると、そこにはふわふわと宙に浮かぶ青い体毛のハムスター……のような小動物の姿。
華世が掴もうと手を伸ばすと羽を広げて飛び上がり、華世の目の前で滞空した。
「あんた……もしかしてさっきの?」
「助けてくれてありがとうだミュ。僕は妖精族のミュウだミュ。君に魔力を与えたことで、このような姿になってしまったんだミュ」
「妖精族ねぇ……」
急に飛び出したファンシーな単語だったが、なぜかすんなりと受け入れられた華世。
その態度を見てか、ミュウも流石に違和感を感じたようだ。
「華世……だっけ。君は一体なに者ミュか? 初めてにしてはなんというか……」
「手慣れすぎてる?」
「そうだミュ! 魔法は使わないし、右腕は変だし、ツクモ獣の弱点も知ってたし……」
それに関しては、華世にもわからないところだった。
記憶の奥底にこびりついたかのように、未知の敵勢力にもかかわらず、何となくわかってしまったのである。
そんな事を考えていると、ミュウがハムスターの首で左右にキョロキョロ見回しながら
「それよりも、ココはどこの街ミュか? 見たところ日本の……東京都の郊外あたりだと思うんだミュけど?」
「にほん? とーきょー? 何それ」
聞き慣れない単語に華世がキョトンとしていると、ミュウが空中でポカンと小さな口を開けたまま高度を落とし始めた。
頭をポリポリと生身である左手で書きながら記憶をたどってみる。
そういえば、社会科の授業の時になにか聞いた覚えがある。
「ああ、思い出した。地球の地名のことね」
「地球の地名……と言われると、まるでここが地球では無いような言い方だミュけど……」
「地球じゃないわよ。だってここは──」
「そこの人物に告ぐ! 速やかに武器を捨て投降せよ! 我々はビィナス・リング防衛組織コロニー・アーミィである! 繰り返す、速やかに武器を捨て投降せよ!」
空からけたたましく響くスピーカー越しの声に、華世は諦めの表情を浮かべながら真上に顔を向けた。
雲越しに反対側の街が見える見慣れた空の景色に、上空から華世に銃を向けたまま飛行する人型機動兵器・キャリーフレームの1種〈ザンドールA〉。
「うっわ……ふつう人間相手にアーミィの人型機動兵器出してくる? ……って出すか。あたし、いま住宅街で銃を乱射した超危険人物だものね。降参しまーす、こうさーん」
両腕をまっすぐ上げ、抵抗の意志がないことの示しとする華世。
ただひとり……というか一匹、状況の飲み込めていないのであろうハムスターだけが滞空しながら呆然としていた。
「もうすぐ喋れなくなりそうだから行っておくけど、ここは金星中域のスペースコロニー群、ビィナス・リングのひとつであるコロニー“クーロン”よ。わかった?」
「金星……? スペ……?」
ミュウが聞き返そうとしたようだが、そのときにはすでに華世の身柄は屈強な制服の男たちによって取り押さえられていた。
───Fパートへ続く




