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第16話「桃色メランコリック」【Dパート 曇天気分】

 【4】


「ミュウを先生に没収されたぁ?」


 昼食時の屋上庭園。

 いつものように集まった魔法少女支援部──と言っても、ウィルとリンが委員会仕事に借り出されて不在だが──の面々が弁当に手を付けたところで、華世はホノカから受けた報告に裏返った声を出した。


「ったく……こういう面倒が起こるって想像にかたくないからアイツを閉じ込めてたってのに」

「華世ちゃん、やめなよ。ほら、ももちゃん落ち込んでるよ?」


 結衣に言われて、ゆっくりと箸を動かすももの方を見る。

 彼女は弁当の中の千切りキャベツを一本ずつモソモソと食べるほどに、どんよりと暗い顔をしていた。


「気にする必要はないわよもも。あとであたしが付き添って回収しに行ってあげるから」

「あ、いや……ももが落ち込んでる理由は他にあって」

「どうかしたの、ホノカ?」


 華世の問いかけに、ホノカは頷いてから答えた。



 ※ ※ ※



「近寄らないでっ!!」


 それが開口一番、ももへと放たれた言葉だった。

 長い間、登校していなかったクラスメイトの望月もちづき

 彼女と友達になろうと、休み時間にももが話しかけた矢先のことだった。


「え……」

「その顔で話しかけてこないでよ。せっかく……ミミが死んだことを受け入れられそうだったのに……!」

「違う、私は……!」

「あなたもそうなんでしょ! あいつと同じように……可愛そうなモノたちを殺して回ってるんでしょう! ……人殺し!!」


 走り去る望月。

 その後、彼女は授業に現れなかった。


 そして暴言の数々を受けたももは、それからというものずっと俯いてばかり。

 放っておくとふらりとどこかへ消えてしまいそうな気さえする彼女の落胆っぷりに、ホノカは無理矢理にでも屋上へ連れてきた。

 華世ならなんとかできると思って。



 ※ ※ ※



「……なんとかできるわけ無いでしょ。カウンセラーじゃないのよ、あたし」

「だよね……」

「それにしても望月の奴、あたしに直接文句言うのならともかく……ももに八つ当たりなんてね」


 その行動原理自体は理解できなくもない。

 ももは髪の色と性格、それと若干の体格の違いを除けば華世と瓜二つな存在。

 家族同然に大事にしていたヌイグルミ、それが依り代となったツクモロズを華世が倒す過程を、望月は見ていた。

 心の奥に押し込めて忘れようとしていたが、ももの顔を見てトラウマが蘇り、暴言を吐いてしまった……というところだろう。


「……でも、ももはなんとかしなくちゃね」


 相変わらず、千切りキャベツをひとつずつ口に運ぶももを一瞥し、つぶやく華世。

 彼女はこれまで、言ってしまえば人間の悪意というものとは無縁な生活をしていた。

 社交的な性格で健全な友人関係には困らなかったし、家族代わりの内宮たちも暖かく接している。

 なにより、未だ実態がよくわかっていないももの精神を不安定にさせるのは、リスクが高い。

 だからこそ、無菌室同然で育った彼女には望月の暴言が深く心の傷となったのだろう。


「まーまーまー! 難しいことは抜きにして、どうやったらももちゃんの元気が出るか考えよ!」

「あのねぇ結衣、あたしたちは部外者よ。ホノカ、あんたももの友達にでも頼んであの子に優しい言葉でもかけさせたりしなさいよ」

「……それは、できない」


 気まずそうに華世から目線をそらすホノカ。

 その態度とカズのヤレヤレといった仕草を見て、華世はまさかと思いながらも一つの推論を出した。


「ホノカ……あんた、この期に及んでまだ友達できてないの?」

「う……で、でも私にはカズがいるし」

「聞いた!? ねえ華世ちゃん今聞いた!? やっぱり、ホノカちゃんってそうなんだ!」


 ホノカの言葉に色めき立ち、目を輝かせてはしゃぐ結衣。

 彼女に「このこの~」と肘で突かれているカズは、何もわかってないのかキョトンとしている。


「これはもう、フラグ立ってるよ~! 今日あたり一緒に帰ったらなにかあるかもよ~!!」

「……はぁ、よくわかんねえッスけど、今日の放課後は用事があるっスよ」

「用事?」

「ちょっと知り合いに会いに行く用があるッス」

「それって……女の子?」

「そうッスけど……いけねっ、次の授業の準備手伝う係なの忘れてたッス! それじゃあまた!」


 逃げるように走り去るカズ。

 彼の言うことが嘘ではないことは華世から見て明らかであるが、隣の恋愛脳の目にはには別に写っていただろう。

 とんでもない地雷を残して消えていったもんだと、華世は一人ため息をつく。


「む~~~っ! ホノカちゃんがせっかくラブな心を出してくれたのになんてヤツ! 相手の女が誰か、突き止めないといけないよ、ホノカちゃん!」

「あっ、うん……そうだね」


 狼狽えながらも据わった目で了承するホノカ。

 ドンヨリ娘に朴念仁、それから嫉妬と恋愛脳。

 同時多発的に起こった面倒事をどう片付ければいいか、華世はボンヤリと空を眺めながら考え始めた。




    ───Eパートへ続く

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