第16話「桃色メランコリック」【Aパート 不定の定例会】
人と関わるということは、傷つくこともあるということ。
だから私は、必要以上に関係を作らない。
傷つきたくないし、傷つけたくないから。
だから、関係を作りに行って傷ついたのだったら……それは、自業自得と言えるのかもしれない。
それがぬくもりを求めた果てだとしたら、悲しいけどね。
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鉄腕魔法少女マジ・カヨ
第16話「桃色メランコリック」
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【1】
「では、これより特別定例会議を始める」
早朝6時のアーミィ支部。
会議室の壇上で、低い声を発するドクター・マッド。
華世は両隣に座る内宮と咲良と同時に、頷きを返すことで了承をした。
「まず……」
「ふわぁ~あ……最初に聞きたいことがあるけど、いいかしらドクター」
「華世。どうした?」
「いつもと時間が違うのと……ウィルと、咲良以外のハガル小隊、それから支部長が不参加なのはどうして?」
特別定例会議、それは華世がアーミィに所属してから定期的に行われていたツクモロズに関する報告会。
華世と協力者のウィルはもちろん、ツクモロズと交戦経験の多いハガル小隊と、責任者ゆえにウルク・ラーゼ支部長が夕方に集まり行われるのがいつもの状態だった。
けれども今回は早朝に、しかも会の日をいつもとずらした上で参加者を絞っている。
しかも不参加の面々には情報を隠した上で。
「……もっともな意見だ。まあ、隠していても仕方がない。スパイ対策のためだ」
「アーミィ内に、ツクモロズのスパイが居るって話でしたよね?」
「先日のEL暴走の際、彼女は男のツクモロズから誘いを受けたという」
「なるほどな、それで男の参加を禁じとるわけか」
言われてみて確かに、この場にいるのは女性のみ。
外されているのは皆男性。簡単なことだった。
「スパイの正体に関しては僅かな断片のみしか明らかになっていない。くれぐれも口外するなよ?」
「わかったわよ。それで? 報告があるんでしょ、ドクター」
「ああ。君たちがアーマー・スペースにて撃退した少年型ツクモロズ……レスと名乗ってたか。彼が残した頭骨から身元が判明した」
「えらい長うかかったなまどっち。あれもうひと月くらい前やで?」
「DNAの欠損が激しかったのと、金星外のデータが必要だったからな。それで、出た結果がこれだ」
ドクター・マッドがリモコンを操作すると、彼女の背後に光る大型ディスプレイに書類が映し出された。
それは、一人の人物の個人情報と証明写真が刻まれた住民票のような資料。
その写真の顔は、紛れもなくあのとき華世が戦った少年・レスのものだった。
「少年の名前はティム・ジョージ。地球圏コロニー出身の子供だった」
「地球圏の……コロニー出身者?」
「なんでそないなところからわざわざ……待てや。よぅ見たら享年書いとるやんけ!?」
「そこなんだ、問題は」
そう言ったドクターが、いくつかの書類へと画面を切り替え、報告書のような形式の文章だらけの資料で止めた。
そこに書いてあったのは、一人の少年の人生の顛末。
研究施設で働く父親を訪ねたところで、運悪く爆発事故に巻き込まれ、死亡……。
追記として、上半身の遺体が発見されなかったとも記されていた。
「じゃあ、事故で死んじゃった子がツクモロズになって襲ってきたんですか~?」
「せやけど、人間がツクモロズになるんか? 今までそないなことなかったで?」
「我々が掴めていないのか、あるいは例外だったのか。それは今の所なんとも言えないが……ヒントを既に一つ、我々は持っている」
「……杏ね」
表向きは華世の妹として暮らしている、華世そっくりな少女、杏。
彼女は最初、ツクモロズからの刺客として華世達を襲ってきた。
また、その際にホノカがはっきりとツクモロズ特有の気配を杏から感じている。
しかし、しかしだ。
一度、魔法少女へと変身して以降……彼女の髪は金から桃色へと変わり、同時にツクモロズの気配は消えた。
そして、残っている謎がもう一つ。
杏は、いったい何を依り代にしたツクモロズなのか。
「華世、あれからあの子の様子は?」
「全然何も。今日も学校に通ってるし」
「アーマー・スペースの時から変身もさせとらんし、大蛇みたいな姿にもなっとらんで」
「私も何度か会ってますけど、普通に良い子ですよ~?」
「……ふむ」
顎に手をあて、考え込むドクター。
しかし答えが出なかったのか、数秒してから大型ディスプレイを消灯した。
「引き続き経過観察はしておいてくれ。くれぐれも……」
「あの子を危険な目に合わせないように、でしょ?」
「そうだ」
以前にアーマー・スペースで杏が戦いに参加した後のこと。
叔父でありコロニー・アーミィの大元帥でもあるアーダルベルトから深く注意されたのは、杏の身の安全についてだった。
(あたしは、心配されたことないのにな)
別に妬んでいるわけではない。
彼の放任主義がなければ、華世は行動を制限されリンのようなお嬢様生活を強いられていただろう。
内宮たちと共に暮らしているのも、人間兵器として戦えているのも、ひとえに唯一の肉親であるアーダルベルトの許可の賜物である。
ただ、そんな彼がどうして杏の身を執拗なまでに案じるのか。
それだけが、不思議だった。
「私からの報告は以上だ。何もなければ解散にするが」
「……そうね。改めて思い返して感じたことだけど、レスの奴……秋姉のキャリーフレームが来たときやたらとキレてたわね」
「怒っていた?」
「うちも妙やな思ったわ。その日ダメ元でCFFS照会したら、うちの機体だけ待機状態になっとった。いつもやったら格納庫にあるはずやったのに……」
あの日の戦いは、敵のキャリーフレーム隊に苦戦するホノカを助けに、内宮と華世がほぼ同時に現場に到着した。
実際は華世が先に向かっていたのだが、後から追いかけた内宮がキャリーフレームで駆けつけたので、追い抜かれる形となった。
あのときのレスの怒りようは、余計な横槍に対してか、あるいは他に理由があるのか。
答えのない問題に結論が出ないまま、この会はお開きとなったのだった。
───Bパートへ続く




