第15話「少女の夢見る人工知能」【Hパート 意外な乱入者】
【8】
「どうして……EL、どうしてっ!」
上空で内宮との戦いを続ける〈ジエル〉。
よりによってビーム・シールドが装備されている左腕を落とされた〈ザンドールA〉は、防戦一方だった。
かろうじてビーム・セイバーの剣閃をかわし、刀身で受け止めいなす。
けれども〈ジエル〉のビーム・スラスターによる素早い動きに翻弄され、内宮は完全に身動きを封じられていた。
『隊長、お助けしますよぉ!』
『騎兵隊参上! うわあっ!?』
応援に駆けつけたのか、複数の〈ザンドールA〉が側面から飛び込んできた。
しかし、正面に向けられたビーム・スラスターが放つ光弾に、一瞬で彼らは手持ちの武器を吹き飛ばされる。
『トニー、セドリック! 何しとんねん!』
『あいつ、狙いが正確すぎますよぉ!』
『隊長、葵曹長はどちらに……?』
『下や、下! それよりも常磐はどうしたんや!?』
『機体が整備途中だったとかで、遅れて到着すると……』
『このままやとジリ貧や。合流まで時間稼ぐでぇ!』
電話越しに聞こえる通信のやり取り。
完全に内宮たちは、ELの救出を考えていない。
このままでは、大切な仲間……いや、家族を失ってしまう。
その最悪の可能性が、咲良の中で渦巻いていた。
※ ※ ※
「くっ……!」
ナイフが刺さったままの肩から、ボタボタと落ちる血。
相手の振るう攻撃、その一つ一つが的確にホノカの体力を削り、そして反撃を許さなかった。
武器を掴んで熱を浴びせれば、刃を溶かすことで無力化はできるだろう。
だがそうすればホノカ自身の動きが止まり、もうひとりからの攻撃を受けてしまう。
相手は殺す気でコチラに向かっている。ともすれば、動きを止めた瞬間に放たれるのは急所を狙った致命の一撃。
頬や腰の切り傷からも流血しながら、ホノカは土につけていた膝を、ふらつきながらも持ち上げる。
前と後ろを挟まれ、逃げ場のない路地で立ち往生。
相手の動きを抑えるための路地という選択が、逆に仇となった状況だった。
(迂闊……すぎたかな)
助けは望めず、アテもない。
ひとりで勇敢に飛び込み、危機に陥る。
傍から見れば、間抜けすぎる。
肩で息をしながら、前後を見る。
構えをとった双子の少女が、槍とナイフの刃先を向ける。
そして二人が同時に頷き、地を蹴った。
(……やられる!)
そう思った瞬間だった。
路地に響く金属音。宙を舞うナイフ。
何が起こったかを理解する前に、一瞬の隙が生まれた槍の動きを見切り、その刃を機械篭手で握りしめる。
同時に手先にガスを放射し点火。
纏うように槍の尖端を包み込む炎が、柄を焼き切り、打ち砕いた。
「大丈夫か、ホノカ・クレイア」
「どうして……先生がここに?」
いつの間にか現れ、ナイフを弾き飛ばした人物。
それは赤い長髪を揺らしスーツ姿で鉄パイプを握る、ホノカたちの担任教師──テルナ・フォクシーだった。
「説明は後だ。この場は私に任せろ」
床に落ちたナイフを拾い上げながら、顎で行くように指示をするテルナ。
なにひとつ状況がわかっていない状態で、ホノカは言葉を詰まらせる。
「任せろって……そんな武器じゃ」
「大丈夫だ、私は鉄パイプ棒術初段を持っている。敵の武器は殺傷力を失っている。行け!」
「鉄パイプ棒術?? ……わ、わかりました」
少々の疑問を振り切り、本来向かっていた方向へと駆け出すホノカ。
進行を止めようと短髪の少女リウが素手で構えを取るが、先生が投げたナイフがリウの耳元を通り過ぎ、その回避のための動きの間にホノカは走り抜けた。
※ ※ ※
『咲良はどこ……? 咲良に会いたい……』
『内宮隊長! なにか言ってますよ!』
『生体反応は無いから、暴走しているのは確かだ。しかし……』
「わかっとる! わかっとるけどなぁ……!」
正面でビーム・セイバーを構える〈ジエル〉から、しきりに発されるノイズ混じりの機械音声。
それを発しているのが機体のAIだとわかっていても、市街地で武器を抜いたキャリーフレームを放置することはできない。
けれどもその言動には引っかかるものがある。
咲良に会えば暴走は収まるのか?
しかし勢い余って〈ジエル〉が咲良に危害を加えないという保証はない。
『ジャマを……しナイでっ!』
「盾使えっ! ビーム来るでぇっ!」
翼のようなビーム・スラスターユニットから放たれる太い線のようなビーム光線。
光の尾を引き飛来したそれを、トニーの〈ザンドール〉が展開したビーム・シールドでかろうじて受け止める。
盾に弾かれ、逸れた光弾は付近の高層ビルの外壁へと直撃。
高熱で溶解したコンクリート壁が、空気の焼ける音とともに数階層の断面を顕にさせる大きな穴を開けた。
内宮たちがキャリーフレームで市街戦を行う際、ビーム射撃兵装は近隣への流れ弾による被害を抑えるために、短射程低火力のショート・レンジ・モードに切り替えている。
しかしいま放たれたビーム・スラスターによる攻撃は、明らかにフルパワー。
「このままやとあかん、コックピット潰して無力化させな! せやけど……」
躊躇いもあるが、もう一つの懸念点。
──単純に、戦闘能力で押されている。
内宮機はシールドを持つ片腕をやられ、部下は遠距離武器を喪失。
ほぼ無傷に近い〈ジエル〉に対し、圧倒的に状況は不利だった。
「なんか……なんか一つでもええんや! 相手に隙を作る何かが……」
「その役目、私が担いました……!」
───Iパートへ続く




