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第2話「誕生、鉄腕魔法少女」【Cパート 魔法少女】

 【3】


 老紳士のそばに立つ男が、幼い少年を殴りつける。

 その一撃を受けた男の子はよろめき後ずさり、塀にもたれるように倒れ込む。

 華世が駆けつけたときに眼前に広がっていたのは、そんな光景だった。


「ちょっとあんた達! 何やってるのよ!」

「ほっほっほ……? おやおや?」


 老紳士が華世の声に振り向き、ギョロリとした不気味な眼球を向ける。

 人ならぬプレッシャーを放つ老人から少年を守るように、華世は飛び出した。


「過剰なしつけ、あるいは育児ストレス? ……なわけないか」

「いけませんねぇ、お嬢さん? 大人の事情に首を突っ込んでは」


 クックッ、と気味の悪い笑いを浮かべる老紳士の動向に気を配りながら、自分の右腕に目をやる。

 いざとなれば自分の“武器”を使うことも考えながら、一歩も退かずに老人と、その隣に立つ奇妙な男を睨みつける。


 奇妙な、というのは男の外見がおおよそ人間ではない様相をしていたからである。

 例えるならば、特撮番組で主人公に立ちはだかる怪人といったところか。

 ゴツゴツとした奇妙な赤茶色の格好に全身を包み込み、顔面に至ってはギザギザの口をむき出しにし、目は簡略化された怒り目といった突飛な風貌。

 その両拳の甲からは鋭い刃物が飛び出していて、路地に差し込む光を妖しく反射させている。

 その刃物をしきりに交差させ、シャキンシャキンと音を鳴らすものだから、おっかない。


 背後の少年はというと、倒れたまま動かなかった。

 全身は傷だらけであるが、細かくゼェゼェと息を吐く音が聞こえているから、死んではいないだろう。


「見られては仕方がない。ブッタギリー、その小娘から先にやってしまいなさい」

御意ぎょいぃぃ!!」


 甲高い声を放ちながら、ブッタギリーと呼ばれた刃物男が華世へと飛びかかる。

 交差した2枚の鋭い刃物が、まるではさみが切断対象へとそうするように挟み込もうとする。


「その腕、もらったぁ!!」

「くっ!」


 華世はとっさに右腕を顔の前に出し、攻撃をガード。

 肌へと刃物が痛々しく食い込み、突き刺さる。

 けれども、金属音とともに刃物が止まり、華世の腕にそれ以上の傷をつけさせなかった。


「ゲッヘッヘッヘ! ……ゲヘ?」

「ったく……このハサミ野郎っ!」

「ぐへぇっ!?」


 怪人の胴体へと、華世の鋭いキックが突き刺さる。

 おおよそ格闘に向いていないローファーでの蹴りではあるが、男一人を後退りさせるのには十分だった。


「ほうほう……ツクモ獣の攻撃を受けて微動だにしないとは。あなた、何者ですか?」

「さあね。誰だっていいでしょ?」

「そうですねぇ、念には念を入れますか」


 老紳士が指をパチンと鳴らす。

 すると、付近にあったゴミ捨て場から黒いゴミ袋や粗大ゴミが浮遊し、老人の周りを漂い始めた。

 そして、それらはまるで人の形になるように集まり、2メートルほどのゴミ人形3体へと姿を変えた。


「「「ジャンクーールーーー」」」


 低い唸り声を上げるゴミ人形たちに、さすがの華世も一歩後ずさる。

 これで一見すると戦闘力のなさそうな老人を除いても、相手はよくわからない怪人が4人。

 こちらは“武器”があるにせよ、守る相手をかばいながらの1人。


 この状況を、いかにして打破するか。

 頭の中でグルグルと、いろんな策を巡らせていた……その時だった。


(このままでは君はやられてしまうミュ。僕の力を貸してあげるミュ!)

「え……?」


 脳の奥へと響く声。

 老紳士はその声に気づいていないのか、ホッホと不気味な笑い声を浮かべている。


(誰よ、あんた?)

(君の後ろにいる……君が助けようとしてくれている存在だミュ。このままじゃ……君も僕も、奴ら“ツクモロズ”にやられてしまうミュ!)

(だから力を貸すって? 借りたらどうなるのよ?)

(説明している暇はないミュ。秘密の呪文を叫ぶんだミュ……!)


 頭の中に伝えられる、鍵となる言葉。

 その呪文も、ツクモロズという老紳士勢力を指しているであろう言葉も、なぜか華世には既視感があった。

 そして、その呪文を唱えればこの状況を打開できると、謎の自信が湧いていた。


「ふふっ」

「ホッホッホ、何を笑っているのですか? このあまりに絶望的な状況で、おかしくなりましたか?」

「絶望的? これが? ……舐めんじゃないわよ」

「ホヒョ?」

「今からあんた全員、血祭りにあげてやるわ。覚悟しなさい、ドリーム・チェェェェンジッ!」


 叫ぶやいなや、華世の全身がまばゆい光に包まれた。

 輝きの中で、華世が身に着けていた制服が霧散するように消えていく。

 そして次々と代わりに身につけられる、桃色を基調としたフリフリの衣装。

 金色の美しい髪は赤いリボンで結われ、ツーサイドアップの髪型へと変化。

 何よりの最大の変化は、華世の右腕を覆う人工皮膚が服と共に消え去ったことであらわとなった、鋼鉄の義手。

 むき出しになったグレーの指先、その先端部をスライドさせて鉤爪状にし、華世は高らかに名乗りを上げた。


「魔法少女マジカル・カヨ! 逆らう奴は、八つ裂きよ!!」




    ───Dパートへ続く

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