第14話「鉄腕探偵華世」【Hパート 取材の成果】
【9】
「……思い出した。華世ちゃん、あのデッカーって人……ポリスで一番強いキャリーフレームパイロットだよ!」
見舞いの帰りの病室の廊下。
一緒に歩いていた結衣が、唐突に声を張り上げた。
「声が大きいわよ結衣。……待って、一番強い? でもキャリーフレームを扱う特殊交通機動隊じゃなくて、現場仕事してたわよ?」
「わからないけどあの人……この前のアーミィとポリス合同の大会で、決勝戦まで行った人で間違いないよ」
「ほーう、俺も有名になったもんだな」
エレベーターホール前のベンチで、缶コーヒーを煽っていたデッカーが、得意げにつぶやく。
華世は顔をしかめつつ、エレベーターのボタンを押しつつその顔へと視線を向けた。
「俺も思い出したぜ。おまえさん、内宮が預かってるっつう大元帥の子供だろ」
「書類上の、だけどね」
「お前さん……あの内宮って女が何者か、知ってるか?」
「え、秋姉のこと?」
投げかけられた質問に、答えが浮かばない華世。
内宮の経歴など、今の今まで考えたこともなかった。
「保護者やってる奴の素性くらい知っておけよ」
「なんであんたなんかに、そんなこと言われなきゃいけないのよ」
「へっ……世話んなった奴への、心ばかりの手土産だよ」
「手土産……?」
言葉の意味がわからないまま、エレベーターの扉へと消えるデッカーを見送った華世。
しばらくその場に突っ立って考え込み……まんまと呼んだエレベーターを横取りされたことに気がついた。
「あんのムッツリポリス親父ぃ……!」
「まあまあ華世ちゃん。次に来たエレベーターに乗ればいいじゃない。でも、千秋さんの素性って、なんの事かな?」
「さあね。適当ほざいて、煙にまいたつもりなんじゃないの?」
眉間にシワを寄せたまま、華世はもう一度エレベーターの呼び出しボタンに左拳を叩きつけた。
※ ※ ※
数日後、退院した浜野は無事に職場へと復帰。
華世へと行った取材は予定より二週間ほど遅れて掲載されることとなった。
「華世、すごくいい記事になってるじゃないか」
リビングの椅子に座り、記事が載っている週刊晩秋を眺めていたウィルが、嬉しそうに微笑んだ。
決して短くないインタビューではあったが、良いという意見が出るのはやはり浜野の手腕の高さか。
「ま、ざっとこんな」
「えへへ、そうでしょうそうでしょう! いやぁお嬢様、ありがとうございます!」
「え? 何でミイナが照れてんのよ」
「だって……ウィルさん、もう少し先のページ開いてみてください」
「あ、うん……。こ、これは!?」
ミイナに言われ、ペラペラとページを捲る。
華世もミイナの言うことが気になり、急いでウィルの後ろから本を覗き見た。
「えーと……戦う女の子のファッションコーディネート。家政婦ミイナの服選び極意!? ちょっとミイナ、これどういうこと!?」
「この前、浜野という方がぜひ私に取材をしたいって言ってくれて、こっそり受けちゃいました!」
「華世、君の取材記事よりページがかなり多いよ、ミイナさんの記事」
「……ったく、なんでミイナに負けなきゃなんないのよー!」
記事になった喜びは、ページ数でミイナに負けたという屈辱に塗りつぶされたのだった。
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登場戦士・マシン紹介No.14
【鏡のツクモロズ】
身長:1.7メートル
体重:不明
浜野の家の洗面所で発生した、大きな鏡のツクモロズ。
青い肌の青年といった風貌だが、胴体が幾多もの鏡が巻き付いたような構造になっている。
身体能力は高く、華世から逃走する際は軽業師のような軽快な動きを見せた。
戦う意志を見せなかったため、どのような能力を持っていたかは不明。
初めて、コアを破壊されることなく消滅したツクモロズとなった。
【次回予告】
咲良のキャリーフレーム〈ジエル〉の支援AIであるEL。
パイロット自らが愛機を清掃する日、咲良はELの言動に違和感を感じとった。
華世が裏で調べを進める中、ついに恐れていた事態が起こってしまう。
次回、鉄腕魔法少女マジ・カヨ 第15話「少女の夢見る人工知能」
────伝えられない想いが、重くのしかかる。




