第14話「鉄腕探偵華世」【Fパート 追跡】
【6】
「逃げられると思うんじゃないわよ! ドリーム・チェェェェンジッ!!」
華世は走りながら変身し、ベランダを飛び降りる。
ベランダの下は芝生の傾斜となっており、斜面の先の大通りへと向かうツクモロズを見失わないよう、目を凝らしながら草の上を滑り降りる。
斜面の終わりと大通りの路面には2メートルほどの高さの差があり、ツクモロズは飛び降りると思いきや、道路を走るトラックの荷台へと飛び移った。
そのまま軽快に車両の天板を乗り移り、あっという間に大通りの反対側へとツクモロズが到達する。
「ったく、軽業師かっての!」
華世も負けじと大通りへとジャンプ。
けれども車両の上へと飛び乗ることなく、通りの中央にそびえ立つ街灯へ向けて義手の手首を発射。
ワイヤーを巻き取りつつターザンロープの要領で大きく身体をスイング。
背中のスラスターを吹かせながら距離を稼ぎ、速度を殺すことなく対岸へと着地した。
一方、ツクモロズは正面の塀をよじ登り、そのまま一軒家の屋根へと飛び移る。
屋根伝いに右へ左へ、家から家へと渡っていくツクモロズを追い、華世も屋根へと登り走る。
やがて走る屋根が商業センターのゆるやかなガラス天井へと代わり、登りきったところでビルの屋上へと柵を越えて侵入する。
「来るな、来るなぁっ!」
叫びながら、置かれている資材を引き倒し妨害しようとするツクモロズ。
華世は冷静に倒れた鉄パイプを飛び越え、ゆっくり倒れる鉄板の下をスライディングでくぐり突破。
徐々に詰まる距離だったが、ツクモロズが3メートルはあろう金網をひとっ飛びで乗り越えたため足止めを食ってしまった。
「……それで逃げられると思うんじゃないわよっ!!」
華世は一旦足を止め、義手の手首からビーム・セイバーを引き抜き光の刃を数回振るう。
光熱で焼き切られ、赤熱した断面を蹴りつけ開いたフェンスの穴をくぐり、先へと向かう。
屋上の端から見下ろすと、ツクモロズは配管網を器用に伝って下へと降りていっていた。
「このまま追いかけたんじゃイタチごっこね……だったら!」
華世はすぐには飛び降りず、冷静に眼下を観察する。
あのツクモロズが次に通りそうなのは、施設正面に見える広い緑地帯。
その方向を見ながら後方に下がり、助走に必要な距離を稼ぐ。
「レッグ・ホイール始動! 行っけぇぇぇ!!」
華世の義足の踵ローラーと、靴裏の車輪が連動して回転。
ふたつのホイールがコンクリートの床を切りつけ華世の身体を前方へと走らせる。
猛加速した華世はそのまま建物の角を蹴って跳躍。
スラスターで姿勢を整えながら、緑地へと向かってダイブ。
視界の下では狙い通り、緑地へと足を踏み入れるツクモロズの姿。
細かく位置調整をしながら落下し、ついにその背中を捉えた。
「だりゃああっ!!」
「ぐわあっ!!?」
勢いよく蹴り飛ばされ、前のめりに吹っ飛び芝生を転がるツクモロズ。
華世は動きを止めた相手へと歩み寄り、手首のビーム銃口を向けた。
「ったく、手間ぁかけさせんじゃないわよ」
「違うんだ! 僕は……僕はそんなつもりじゃあ!」
「浜野さんの敵討ちよ。覚悟しなさ────」
「そこまでだ」
華世の後頭部に押し付けられた、筒状の冷たい感触と同時に聞こえた低い声。
銃口を押し付けているであろう相手へと、華世は異議を唱える。
「……デッカー警部補。銃口を向ける相手が違うんじゃない?」
「いいや、間違えちゃあいねえ。ポリスとして被疑者をぶっ殺そうとするのを、見ているわけにはいかねえからな」
「被疑者ですって? こいつは犯人でツクモロズ。容赦する必要なんて……」
「事情も聞かずに決めつけるんじゃねえ。見ろよ、そいつの顔」
デッカーに言われ、ツクモロズの顔を見る。
その顔は涙のような液体でぐしゃぐしゃになっており、死への恐怖に怯える表情で震えていた。
「……チッ」
舌打ちをしながら義手の銃口を下げる華世。
背後を取られ拳銃を突きつけられている格好で、突っぱねることはできない。
「この場は譲ってあげるけど、取り調べはあたしにも立ち会わせなさい。もしもコイツが本気で暴れだしたら、ポリスに止められはしないでしょ」
「疑り深いやつだ。ほら、立てるか?」
そう言ってデッカーは鏡のツクモロズに対して、優しく手を差し伸べた。
───Gパートへ続く




