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第14話「鉄腕探偵華世」【Aパート 未来探偵エドガー】


 華世ちゃんって不思議な子。

 物知りだし、大人っぽいし、すっごく強いし!


 やっぱり本当は大人だったのが、子供になったのかな?

 それともファンタジー小説でよくある、転生だったりして!


 そのどれが真実だったとしても、私は華世ちゃんの親友だよ!



◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■


       鉄腕魔法少女マジ・カヨ


       第14話「鉄腕探偵華世」


◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■


 【1】


 ピポピポピ、とインターホンの呼び鈴がリビングに鳴り響く。

 自宅で夕飯を食べていた華世たちの箸が、その音を聞いて同時に止まった。


「お嬢様、誰かお客様が来る予定でしたか?」

「あっ……私が行きますね」


 音を立てて箸を置き、真っ先に立ち上がったのはホノカだった。


 ミイナに先を越されまいと早足で廊下に出たホノカは、藍色の髪を揺らしながら玄関へと急ぐ。

 その背中を、華世は皆に向けて口の前に人差し指を立ててから、気付かれないようにこっそり追いかけた。


「笹山急便でーす。ホノカ様でございますね? サインお願いしまーす」

「はい、はーい!」


 声を弾ませて手渡された端末にサインを書くホノカ。

 彼女はそのまま手渡された大きなダンボール箱を、配達員が立ち去った玄関で抱え続けていた。

 しばらくそのままでいたホノカの肩を、華世は優しくポンと叩く。


「ひぃっ!!?」

「驚きすぎでしょ、ホノカ。何頼んだの? どうせ機械篭手ガントレットの部品とか……マンガ全巻セット?」


 覗き込んで確認した伝票に書かれていた文字に、華世は目を疑った。

 そういったサブカルチャーとは無縁と思われたホノカの、意外な買い物。

 いろいろと衝撃的な事実だが、冷静に考える。

 最近のホノカの行動と、今見た単語を照らし合わせ、箱の中身を推測した。


「その中身、もしかして“未来探偵エドガー”だったりしない?」

「なっ……なんで!?」

「簡単な話よ。この間、昼食の時に結衣があんたを大人じゃないか……って、からかってたじゃない? その時にあの子が影響を受けたと思われるタイトルがそれ。たしか単行本の第100巻発売記念で再放送が大々的に行われていたし、結衣は再放送の度にマイブームを再発してるからね」

「で、でもアニメやマンガだったら他にも……」

「その箱の大きさと、あんたの腕の震えっぷりから、中身は50や60冊ってレベルじゃないはずよ、ホノカ。そんなに長期連載している漫画、いまどきそんなに多くないわ。さっきも言ったけど、エドガーの単行本はいま100巻あるんだったわよね」

「う…………」

「あんたは自分が疑惑を持たせたその作品に、興味が湧いたんじゃない? それで結衣に単行本を借りたんでしょ。あたし、あんたが結衣から本を受け取ってたのを見てたのよ」


 その本自体にはペーパーカバーが掛かっていたが、サイズからして漫画の単行本ではないかと勘ぐっていた。

 友人から借りた一冊が存外に面白く、たまらず全巻セットを購入するという流れは決して珍しいものではない。

 華世が結論に至った過程を説明し終えると、ホノカはぽかんと口を半開きにして唖然としていた。


「……よくもまあ、見たことのように言い当てられるものですね。探偵エドガーそのものって感じ」

「フィクションの名探偵サマには負けるわよ。で、どんな話なの? その未来探偵って」

「えっと……」


「長う続く話やったら、飯戻ってからじゃアカンか?」


 眉をハの字に曲げた内宮に、半開きの扉越しに言われ、華世とホノカは顔を見合わせた。



 ※ ※ ※



「────つまり、そのエドガーっちゅう探偵は謎の組織に殺られてもうて、気がついたら意識そのままで子供時代に戻ってたっちゅうわけやな?」


 リビングの傍らに置かれた大きな箱をチラと見ながら、内宮がホノカから聞いたあらすじを言い返す。

 塩をかけた唐揚げを飲み込んだホノカが、うんと大きく頷いてから言葉をつなげた。


「そうなんです。それで子供の姿になったエドガーは、未来で発明された探偵道具を現代で用意。それらの道具と大人のままの頭脳を駆使して、学生生活を送りながら未来で自分を殺した組織を追っていく……っていうミステリー漫画なんですよ」

「す~っごく、面白そうですね!」


 ホノカが述べたマンガのあらすじを聞いて、ももが色めき立った。

 ももは年相応の無邪気さゆえに、アニメやゲームに目がない。

 この間も黄金戦役をモデルにした、内宮が眉をしかめるドキュメンタリーアニメ「エクスデッカー」をネット配信で一日中見入っていた。

 労せず新しいマンガが読めそうなのを察して、はしゃいでいるのだろう。


「それにしても結衣といいあんたといい、わざわざ紙の本を買うなんて酔狂ねぇ」

「いいじゃないですか! 端末の容量も取らないし、紙の質感は紙の質感からしか得られない良さがあるんですよ!」

「全巻セットを買ったってことは、結衣にマンガ返すんでしょ? 明日、朝から結衣に会う用事があるから預けてくれたら返しておくわよ」

「あっ、じゃあ後で渡します。華世も読んでみたらどう?」

「遠慮しとくわ。100巻なんて読み終わるのに何日かかるんだか……」

「華世、結衣ちゃんと何の用事なんだい?」


 満腹を主張するように腹を擦るウィルが、華世へと訪ねてくる。

 華世はうろ覚えだった記憶を呼び覚ますために、携帯電話のメモアプリを起動。

 画面をチラチラ見ながら、自分で書いた文章を確認する。


「えーと……ああ。週刊晩秋って雑誌に、あたしのことを書きたいって記者がいるから軽く取材を受けるのよ」

「晩秋いうたら、金星でも有数の週刊誌やないか。うちも美容院でよく読んどるで。なんでも、テレビとかでやらへんようなネタを報道するんがウリや言うてたかな」

「有名な雑誌に載るってことは、お嬢様の名声が世に広く出るんですね!」

「まあ取材するのが、結衣の知り合いで新人記者らしいからそこまで大きな記事にはならないでしょ。あたしが受けるの了承したのも、社内で功績が少なくて困ってるその記者の手伝いをしたい……っていう、結衣の気持ちをんでの事だし」

「それにしては嬉しそうやないか」

「まあ、取材されて記事になるっていう事に、憧れがないといえば嘘だからね。……そうだ、ウィルも来る?」

「え、ぼ……僕は良いかな。ほら、僕の出自って、あまり褒められたものじゃないから、さ……」


 言われてみれば確かに、と華世はウィルの言葉に納得した。

 ウィルは自然環境保護コロニーに不法滞在していた、推定脱走兵の少年。

 彼の人格や行動は立派なものであるが、出自に関わる部分を並べると……褒められる部分がひとつも存在しない。


(そういえば、ウィルの過去……まだ教えてもらえないわね)


 今の所、身内で唯一素性が不透明なのがウィル。

 元ツクモロズのももはともかく、ホノカですら修道院出身という素性がわかっている。

 けれどもウィルだけは、彼自身が明かしたくなったらと言った手前、カズに情報を洗ってもらうことすらやっていない。


 いつか、彼の口から素性が明かされる時が来るだろうと、華世は明日の待ち合わせ時間をチェックした。




    ───Bパートへ続く

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