第13話「人間の敵」【Hパート 緋色の驚異】
【7】
ビーム・セイバーの輝く刃が、空中に幾度も弧を描く。
けれどもそのどれもが敵を捉えることができず、咲良は気味の悪さを感じていた。
「この〈ザンク〉……全然当たらない!? まさかガワだけで中身は最新の……」
『動作開始からの動作スピードより、作業用アクチュエータと推察されます。ただ、こちらの攻撃動作より2.34秒ほど早く回避動作を行われています』
「2秒も早く……? それじゃあ、まるで先読み……!?」
回避に徹していた〈ザンク〉からの、突然の警棒投擲。
咄嗟にペダルを踏み右へと回避するも、直後に被弾アラートが鳴り響く。
『左翼スラスター部に対CF弾を被弾』
「被弾って……どこから銃が? あっ!」
正面に見えた〈ザンク〉の格好。
それは左腕こそ警棒を投げつけた後だったが、右手に恐らくポリス機体から奪い取ったであろうリボルバータイプの銃が握られていた。
しかし、とても狙いをつけたとは思えない体勢。
その状況下で敵は、回避している〈ジエル〉に対して偏差射撃を行ったことになる。
「このツクモロズ……強いっ!?」
『提言します。生体センサーに反応あり、敵機内に人間1』
「人間!? ツクモロズじゃないの……!?」
※ ※ ※
「魔法少女じゃない……?」
『そうだミュ! 華世が戦っているその女の子から、魔法の気配がまったくないミュ!』
ナイフを構え、こちらの出方を伺い続ける緋色髪の少女。
その存在に関して華世が一番恐れていた事実をリボンを介してミュウから伝えられ、頬の冷や汗を禁じえなかった。
少なくとも最初のやり取りで、相手が変身した華世よりも身体能力が優れているのは確かだった。
それが魔法か、あるいはツクモロズによってゲタがはかされた結果であればよい。
しかし情報を整理するに、どうやらそのようなインチキ抜きに生身でその動きを実現させているようだ。
(それに、絶えずあの子から発される耳鳴り……)
この耳鳴りが、何によるものかというのは勘付いている。
能力によって生まれるテレパシーが干渉し合うことで起こる脳波障害……。
それ即ち、あの少女が華世と同等かそれ以上のExG能力……エクスジェネレーション能力を持っていることに他ならないのだ。
戦いにおいてExG能力が驚異となるのは、主に能力が必須の専用兵器ガンドローンが使用可能となるキャリーフレーム戦。
しかし高レベルの能力者ともなれば、肉弾戦において相手の動きや場の状況から的確に動きを読む超洞察能力も恐るべき武器となる。
言ってしまえば、相手の動きを先読みした上で、スローモーションで見てるかのように瞬間的に判断を下せるのだ。
(状況は……あたしたちの方が断然不利よね)
華世の側には、少女とで挟んだ位置の廊下端で倒れ込む生徒が二人。
彼らの身を案じるなら、跳弾や流れ弾が起こりうる実体弾の射撃戦は厳禁。
撤退しようにも建物の外には避難した民間人が多数。
人質にでも取られれば厄介さは更に加速する。
パラパラ……と、天井から細かい破片のこぼれ落ちる音。
外の戦闘の揺れで床が脆くなりつつあるのかもしれない。
(こうなりゃ……イチかバチかよね)
華世は義手の手首から2つ伸びる銃口のひとつを左手で握り、そのまま引き抜く。
そしてボタンを押し、ビームを発振させ輝く刃を出現させる。
チリチリと空気中のチリが焼ける音を響かせるビーム・セイバー。
これを床を這わせるように回転させる方向に投げつければ、少女がどう動くかは簡単に予想できる。
(頼むから、思ったとおりに動いてよね……!)
頭の中のイメージ通りに、ビーム・セイバーを投擲。
残光で弧を描きながら回転するその刀身は、光の円盤のような輝きを放ちながら少女へと接近。
すかさず正面に向け、手首の残った銃口を構える。
「……!」
緋色の髪の少女が取った行動は、斜め後方へのバックステップ。
足元を掬う光輪と正面からの直線射撃には、一度距離を置くのがベター。
そして、これこそが華世の狙いだった。
「そ・こ・だぁぁぁっ!」
叫びとともに、華世の手首から放たれる一発の光弾。
空中を走る熱粒子の塊が、回転するビーム刃の上へと接触。
ビーム同士の反発反応により、散弾のように上方へと光弾が炸裂した。
光熱を帯びた粒子を受け、線状に赤熱する天井。
ただでさえ振動で脆くなったコンクリートの面が、熱で亀裂を入れられ限界を超える。
「あんたたち、こっち!」
倒れていた生徒二人の腕を掴み、崩れ行く天井からむりやり離れる。
この位置はちょうど、さっき華世が入った資材倉庫の真下。
ジャンクパーツ混じりの瓦礫の山が廊下を塞ぐ中、華世たちは急ぎ階段を登った。
※ ※ ※
「……引き際。了解、マスター……」
瓦礫の向こうでひとり、赤髪の少女がそう呟いたが、華世はその言葉を聞くことはなかった。
───Iパートへ続く




