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第13話「人間の敵」【Fパート 現場へ急行】

 【5】


「あー……はーい、了解」


 食事の片付けをしていた華世は、通信機を兼ねた髪留めから指を離し、ため息をした。

 ウルク・ラーゼから事件のことを知らされた華世は、もうすぐキャリーフレームが飛来してくるであろう空を薄目で見上げる。


「華世ちゃん、どうしたの? 仕事?」

「ええ、そうみたい。もうすぐ咲良が迎えに来るって」

「……私も同行しましょうか?」


 やや目を輝かせながら、ホノカが片手を上げる。

 彼女にとっては貴重な稼ぎどきなので、同行したい気持ちもあるのだろう。


「ダメよ。ホノカ、あんたせっかく学校通ってるんだから、勉強の方に精を出しなさいよ」

「む……でも、私がいないと」

「いいから……あ、リン。あたしの代わりに後の日直仕事、よろしくね」

「まっ! なんでわたくしがあなたの尻拭いなど……!!」


 文句を叫ぼうとするリンの声をかき消すように、華世たちの頭上に現れる〈ジエル〉。

 ホバリングする機体から放たれる風に皆がスカートを抑える中、華世はひとり差し出された巨大な手の平へとよじ登った。


「お姉さま、いってらっしゃいませ!」

「晩飯までには帰れるようにするからね。咲良、中入れて」


 コンコンと拳でノックしたコックピットハッチが、半開きになる。

 その中に滑り込んだ華世は、パイロットシート横の予備座席を倒し、ドスンと腰を下ろした。


『搭乗を確認。ハッチをロックします』

「ありがとう、EL(エル)。ゴメンね~華世ちゃん。お友達との談笑を邪魔しちゃって~」

「しょうがないわよ、仕事だもの。強いて言うなら、日直仕事を押し付けちゃったウィルとリンにゴメンってところかしら」

「日直だったんだ~。それじゃあ、行くよ!」


 咲良がペダルを踏み込むと同時に、一瞬のうちに眼下で小さくなる学校の屋上。

 そのまま正面にコロニーの中央シャフトが徐々に大きくなっていき、やがて通り過ぎていく。


 スペース・コロニーは様々なタイプが存在するが、華世たちの住むクーロンは、いわゆる円筒形のシリンダー・タイプといわれる部類である。

 長い筒の中心を軸として回転し、発生した遠心力を人工重力装置で調整し、地球上と変わらぬ重力感を作り出している。

 その構造上、上空に向けて飛び続けるとやがて反対側の面へと一気に移動が可能である。

 重力の関係で危険なため、普段は使用禁止な航路であるが、今回は現場に急行するために特別にこのルートが許可されている。


 シャフトのそばを通り過ぎてから数秒。

 グリン、と急旋回して機体が上下を反転させた。

 コックピット内には高性能な慣性制御システムが働いているため、僅かな揺れしか感じることはない。

 けれども、急に周囲の景色がグルグルと回るのは、なんとも言えない不快感を華世の顔に浮かび上がらせた。


『重力反転への対応完了』

「華世ちゃん、大丈夫~?」

「あたしは平気。だけど咲良は単機で大丈夫なの?」

「現場は整備工場といっても、せいぜい作業用に扱われている旧式機くらいしかないから大丈夫だいじょうぶ~。問題は、施設内の方かもね」

「なにかあるの?」

「華世ちゃんの学校から、そこそこの人数が社会科見学に訪れているみたいだって~」


 その言葉を聞き、華世は今朝にウィルと話したことを思い出した。

 三年生のクラスが、社会科見学にでかけたということを。

 咲良から聞いた情報によれば、事件発生は今から一時間ほど前。

 ある程度は避難が完了していると思われるが、逃げ遅れていないとも限らない。

 すんなりと解決しそうにない可能性が浮かんだ直後、華世の頭の中に言いようの無い違和感が現れ始めた。


「何、この音……?」

「どうしたの、華世ちゃん? なにか聞こえる?」

『音声センサーに異音検知なし』

「耳鳴りのような音が……って、咲良には聞こえてない? ……もしかして?」


 駐車場に〈ジエル〉が着地した瞬間に、華世は開いたコックピットハッチから外へと飛び出した。

 そして施設入り口からやや離れたところにある人混みへと駆け込み、責任者らしい人へと詰め寄る。


「ちょっといいかしら?」

「はい? 君は……見学の生徒さんかな?」

「コロニー・アーミィ所属の葉月華世よ。中に逃げ遅れた人はいない?」

「アーミィ……? 先程点呼をしたんだが、職員は皆無事だ。しかし……」


「う、うちの生徒が3人、足りないんです!!」






    ───Gパートへ続く

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