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第13話「人間の敵」【Eパート 出撃命令】

 【4】


「暗殺、強盗、スペースジャックに立てこもり。人間の世界も大変なもんだねぇ」


 部屋中にケーブルが張り巡らされ、無数のコンピューターが暗がりに光を放つ研究室。

 フェイクは端末でニュースサイトを眺めながら、熱心にキーボードを叩くバトウへと冷めた声で言った。


「わしらツクモロズにとっては、都合のいいことじゃ。特に今はレスの奴が無茶をしたせいで計画の練り直しを強いられておるしな」

「仲間が一人、散ったというのに呑気なもんだね」

「フン、奴がああなるのは計算の内じゃよ。ザナミ様は鉤爪の女どもを利用する方向に舵を変えたのじゃ」

「利用だって?」


 ふぅ、と一息入れたバトウが椅子ごとフェイクの方へと向き直る。


「我らの目的は、ツクモ獣から放出されたモノエネルギーを集め、ザナミ様の完全覚醒を遂げさせることじゃ」

「完全覚醒? そもそもザナミって何者なのさ?」

「様を付けい! ザナミ様は我々ツクモロズに自由を与えてくださる救世主。魔法少女を打倒することで、我々は解放されるのじゃよ」

「……よくわからないけど、要するに鉤爪どもにはいい感じにツクモ獣を叩いてもらって、なんとかってエネルギーを溜めこみゃあいいってことか」

「そうじゃ」

「そのために、仲間が何人やられても気にしないと……」

「そうじゃ」

「…………」


 繰り返し頷くバトウに対し、舌うちをするフェイク。

 その野望のために捨て石にされるのもいとわないという老人の姿勢に、内心で腸が煮えくり返る思いが湧き上がる。

 ただ、人間としての生活を望むフェイクにとって、ツクモロズとして殉じるのは馬鹿げた行為にほかならない。


(命あっての物種だろうに、このクソジジイは……)


 再びコンピューターに向かったバトウへと、フェイクは心のなかで悪態をついた。


「で、爺さんは何をしてるんだい?」

「アッシュの奴から、わしらの同志となる連中を紹介したいとあってな」

「紹介? まさか採用面接だなんてするんじゃないだろうね」

「フン、実力を見せるための事件を起こすそうじゃ……まったく」


 アッシュ。ツクモロズの幹部クラスでも謎多き存在。

 人間に紛れ込み、スパイ活動を行うキレ者のツクモ獣だという。

 フェイク自身もあまりあった事はないが、彼はツクモロズの活動を裏から支える重鎮。

 その男が紹介するという人物……フェイクは胡散臭さに眉をひそめた。



 ※ ※ ※



 コロニー・アーミィ・クーロン支部の一角。

 清潔な廊下の奥に位置する支部長室の扉を、咲良はコンコンとノックした。


「入りたまえ、葵曹長。……やけに不満そうだな」

「ポリスとアーミィの雌雄をかけた決勝の手前に呼ばれれば、こうもなります」


 窓の外からワッと沸き起こる歓声。

 たった今、デッカー警部補と内宮による戦いが始まったのだろう。

 運命の悪戯かあるいは必然か、決勝はこのふたりによるものとなった。

 そんな騒がしい窓にカーテンをかけたウルク・ラーゼが咲良へと近づき、あまり大きくない声で耳打ちをする。


「まあ聞きたまえ。つい先程、コンビナート帯のキャリーフレーム整備工場にて、ツクモロズの発生および無人キャリーフレームの暴走が報告された」

「本当ですか!? だったら大会を中止して、急いで部隊編成したほうが……」

「聞けと言っている。報告を受け、警戒に当っていたポリスのキャリーフレーム部隊が突入したのだが……」

「したのだが?」

「奇妙なことに、ツクモロズと思われる未確認機のひとつが同士討ちを開始。三つ巴の戦闘となったらしい」

「仲間割れ……ですかね?」

「わからん。建物内部でもツクモロズが発生し現場は混乱しているらしい。曹長には〈ジエル〉にて葉月華世嬢と合流して現場に急行。ポリス部隊と共に民間人の避難を助けてやってほしい」


 咲良の愛機である〈ジエル〉には、他のアーミィ機体にはない推進装置・ビーム・スラスターが搭載されている。

 その機動力を持ってすればコロニーの反対側にあるコンビナートへと、中央シャフト付近を通って迅速に駆けつけることができるだろう。

 けれども、ウルク・ラーゼ支部長の命令には、いくつもの疑問点がある。


「なぜ、私一人を呼びつけての指令なのですか? それと、どうして大会を続けたままなのですか?」

「そのふたつの理由は1つ。どうやら、ツクモロズ側のスパイがアーミィ内にいるようなのだ」

「えっ……」

「私も信じたくないが、これまでの出来事からアーダルベルト大元帥が導き出したのだよ。なにやら、大元帥には引っかかるものがあったらしい」


 説明を続ける支部長。

 大元帥から報告を受けたウルク・ラーゼは、次のツクモロズ事件でスパイを洗い出そうと考えた。

 その方法とは、事件発生時にあえて泳がせ、不穏な動きを見せる者がいるかを確認すること。

 ツクモロズが活動している時に、いつまでもスパイが動かないままなはずはないと踏んでの作戦だった。


「でも、だったら尚更、どうして私にそのことを?」

「複数回に渡りツクモロズと正面から戦っている功績、および葉月華世との関わりの深さからスパイの疑惑は無しと判断した。それに〈ジエル〉で駆けつけて欲しいということもある」

「……わかりました」


 疑われる立場でないことは幸いだが、アーミィの仲間が疑われているのは気分のいい話ではない。

 咲良はモヤモヤとした気持ちを抱えながら、キャリーフレーム格納庫へ向けて支部長室を飛び出した。





    ───Eパートへ続く

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― 新着の感想 ―
[良い点] 敵ツクモロズの内情が見えるの凄く面白いです! 敵も知らない、アーミィ側へのスパイの事について、とても気になってしまいます! これで、スパイが確実にいるという事が分かって、誰がスパイなのか気…
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