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第13話「人間の敵」【Dパート 屋上の昼食会】

 【3】


 陽の光を模した輝きに照らされる明星みょうじょう中学校の屋上。

 いつの間にか恒例となっていた、魔法少女支援部で集まっての昼食会。

 とはいっても、今日に限っては諸用で男子連中は未参加ではあるが。

 女子だけの食事会の中で、クリームパンを笑顔で頬張るホノカの姿を、華世は横目で見ていた。


「あんた、そのパン食ってる時はいい顔するのね」

「なっ……別に私が何食べててもいいでしょう」


 彼女が食べているパンが、以前にカズから与えられたものと同じだということは把握している。

 貧しい暮らしをしていた彼女が、与えられた菓子パンにほだされる。

 展開としてはベタだが、それでホノカが幸せそうな顔ができるなら良いことだろう。


(……あたしは、幸せなのかな)


 ふと、空を見上げて頭に浮かぶ疑問。

 ウィルから、彼自身やホノカが華世によって幸せを手にしていると言われたことを思い出す。

 故郷を滅ぼし、両親友人諸々を殺した何者かへの復讐を心に誓ってはいる。

 その中で、自身の幸せなど華世は一片たりとも考えたことがなかった。


 ここ最近、戦いが頻発しているから疲れているんだと、一人で首を振る華世。

 自然発生しているツクモロズの増加に加え、先日のような傭兵を使ったテロまがいの事件の対処も増えてきている。

 コロニー・クーロン唯一の人間兵器である華世は、週の出撃回数は一度や二度では済まなくなっていた。


 けれども、弱音を吐くわけにはいかない。

 ホノカは対ツクモロズのみの契約をした傭兵。ももに至っては戦闘を可能にする手続きすらしていない。

 戦える人間が一人であると自覚しているからこそ、華世は自身に対しても休むことを許さないのだ。


 気がつくと、ぼんやりとしてから首を振った様子を見ていたからか、結衣が心配そうな顔でこちらを見つめていた。


「華世ちゃん、どうしたの?」

「別に、前髪にゴミがついてただけ」

「そっか……あっ、ねえねえ。華世ちゃんExG能力検査どうだった?」

「いーえっくす……なんですか?」


 キョトンとした顔で華世に問いかけるもも

 どう説明したものかと頭を悩ませていると、横からリンが身を乗り出した。


「中学2年生になったら受ける、ExG能力の検査ですわ! ExGというのはエクスジェネレーションの略で、宇宙生活をしていると不特定多数に発現する第六感のことですのよ」

「第六感……超能力ということですか?」

「確かにテレパシーみたいなこともできる人もいるようですが、ほとんどは高度な並列思考が可能になる程度のものですわ」


 知識でマウントを取れる絶好の機会と言わんばかりに、早口でまくしたてるリン・クーロン。

 検査の結果、個人の能力の強さは0から9までの十段階で表される。

 統計によると5割の人間が3以下。

 そこから高いレベルになるほど該当者が著しく減っていくという。

 高レベルになると、無意識のうちに能力者同士でテレパシーが行われる能力障害が発生。

 慢性的な耳鳴りや頭痛、重度になると意識の混濁や精神汚染に及ぶ場合もあるという。

 そのようなことが起こらないよう、ExG能力の成長速度が一定化する13、14歳から検査する……と、リンが説明を締めくくった。


「ちなみにわたくしは優秀ですから、レベル4の能力者でしたわ!」

「クーちゃんすごーい! 私なんて1だったよー。華世ちゃんは?」

「6だったわ」

「ロク……ですってぇっ?!」


 両手をワナワナと震わせ、歯ぎしりしながら華世を睨むリン。

 通常、この年齢で能力レベルの限界は5とされている。

 けれども華世はその枠から外れた存在となっていた。


「わたくしに負けたくなくて、適当を言っているのではなくて?」

「失礼ね。間違いかもしれないって3回くらい検査してもかわらなかったから、そうに違いないはずよ。ま……こんな話よりも、あたしはももの初登校が気になるところだけど」

「お姉さま、ももは学校を満喫しています!」


 話を振られて、ぱあっと顔を明るくして片手を挙げるもも

 どうやら彼女はホノカよりも社交性が高かったようで、クラスに馴染むのに1時間もかからなかったらしい。

 といっても、話を聞く限りは学内でそこそこ名の知れた、華世の妹ということで興味を引いた人間が多かったのもあるらしいが。


「あ、ねえねえみんな! ホノカさん、今日テルナ先生に褒められたんですよ!」


 話の腰を折るように、ももが突然声を上げた。

 その話を聞いて首をかしげたのはリン・クーロン。


「ホノカさん。テルナ先生とはどなたですの?」

「今日から私達のクラス担任になった人。軍人かっていうくらい堅苦しい喋り方する変な人よ」

「テルナ先生ねぇ……」


 華世は、今朝の出来事を思い出した。

 職員室前で僅かに言葉をかわしただけではあるが、あの赤髪の先生からは只者ではない気配を感じていた。

 それに教職の事情に詳しそうなリンでさえピンと来ない存在ともなれば、なんとなくで片付けるには危険な存在かもしれない。


「テルナ先生、優しいんですよ! 今日から通うももを気にかけてくれたし、おかげで友達もできたんです! ね、ホノカさん!」

もも、それはあの人の仕事だから。私が褒められたのだって、ちょっと虫食い問題を埋めただけ」

「でもー……」


「ね、ね! ホノカちゃんってさ、本当は大人だったりしない?」

「へ?」


 唐突に結衣から放たれた素っ頓狂な質問に、皆の食事の手が一斉に止まった。

 その問いを投げかけられたホノカに至っては、目を点にして固まっている。


「だってホノカちゃん、一人で傭兵やってて、強くて、クールで、頭もいいんだよ! とても私の一学年下の中学一年生とは思えないもん!」

「わかりますよ結衣さん! もももホノカさんは只者じゃないと思ってたんです!」


 二人でキャッキャと盛り上がる結衣ともも

 ようやく理解が追いついたのか、フリーズしてたホノカが顔の前で手のひらをブンブン振った。


「そんなことありません。私は……自分で言うのも何ですけど、苦労ばかりしてきましたから。大人のようにならないと、生きていけなかっただけ。それより……」


 ビッ、と鋭い動作で華世を指差したホノカが、目を細めて睨みつける。

 その顔つきからは、遠回しに年増呼ばわりされた恨みか不服感。あるいは不公平感がにじみ出ていた。


「それを言うなら、華世のほうが怪しいと思わないんですか? 戦闘力に人心掌握術。度胸に洞察力。知識も料理の腕も年齢サバ読みしてないと納得いきません」

「失礼ねぇ……」

「えー、違うよ! だって私、小学校の時から華世ちゃんとずっと一緒だもん!」


「……どうせ結衣、あんた最近に再放送された未来探偵だかの影響でも受けたんでしょ? あたしもホノカもサバ読みはしてない。これでいい?」

「夢がないなぁ華世ちゃんは」


 呆れつつも、平和そのものな結衣の顔つきに、華世は表情をほころばせた。






    ───Eパートへ続く

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