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第13話「人間の敵」【Aパート 欲望の発露】

 綺羅びやかな電飾。

 生演奏のピアノBGM。

 様々な色のドレス・スーツで着飾り、芳醇な香りを放つ高級料理を前にワイングラスを傾けるのは、政財界で名を知られた人物たち。

 ある者はコロニーの領主。

 ある者は財閥の総帥。

 またある者は、巨大企業の経営者。


 ひとりバーカウンターに座り、彼ら彼女らの背中を遠巻きに眺める一人の男。

 オリヴァー・ブラウニンガーもまた、金星クレッセント社を束ねる、支社長ハワーズ・ブラウニンガーの御曹司であった。


(地球産のヴィンテージワイン……さすがはこのパーティの会場となるだけあって、これを揃えているとは恐れ入る。だが……僕にとっては、飲み飽きた味だ)


 この24年余りの人生において、オリヴァーは欲しい物を全て手に入れられていた。

 学院の主席の座も、著名芸術家の描いた絵画も、最高級と言われた食物も全て。

 それはオリヴァー自身の持つ才能と、近世随一の資産家でもある父親によってもたらされたもの。

 あらゆる贅沢を若いその身で経験し尽くしてしまった……と自負するオリヴァー。

 彼にとっては、この華やかな社交界ですらも、退屈な日常の一幕でしかなかった。


 不意に放った「ふぅ」というため息。

 その音が、ひとつ椅子を挟んだ右隣に座っていた、一人の女性のものと重なった。


 まるで作り物のような艷やかな黒髪。

 吸い込まれそうな青色を放つ、サファイアのような瞳。

 均整のとれた美しい顔立ちと、彼女の美貌を引き立てるかのような空色のドレス。


 政財界ではありふれた美。

 けれども、彼女が纏う不可思議な雰囲気に、オリヴァーは興味を抱いた。


「もし……マドモアゼル。パーティは退屈ですか?」

「ええ、私ですか? いいえ……と言えば嘘になりますね。私は待つばかりで、すこしも楽しめていませんから」

「待つ……それは友人ですか? それとも……」

「強いて言うならば、出番ですかね」

「出番……? ではあなたは歌姫でしょうか?」

「それは……」


 彼女の唇が言葉を紡いでいたその時、突如として会場は漆黒の闇に包まれた。


「停電?」

「どうなっているんだ!?」

「誰か明かりを……!」

「お客様、落ち着いて壁を背に、壁を背にしてください!」


 狂騒がホールを包み込んだとき、乱暴に扉が開く音とともに、会場中央から何かが弾ける音がひとつ。

 それが煙を発生させる何かだと気づいたとき、暗闇に慣れた目でも1メートルすらも先が見えないほどに視界が閉ざされていた。

 何が起こったのかとうろたえるオリヴァーは、ふと自身の身体に向けて、一筋の赤い光伸びていることに気がついた。


(これは、レーザー照準器ポインター!?)


「目標、オリヴァー・ブラウニンガーを発見!」

「よし、撃て!」


 男の声とともに放たれる銃撃音。

 自動小銃を連射する、その音を聞いたとき思わず目を瞑ったオリヴァーの脳裏に走馬灯が浮かんだ。 


(ああ……僕は、ここで死ぬのか……)


 音が止み、まぶたの向こうが赤く光る。


(……どういうことだ、痛くない?)


 狙われたはずなのに、ひとつも傷つかない自身の身体。

 銃撃音の代わりに聞こえるのは、ウォンウォンという機会が唸るような低音。

 置かれている状況がわからないまま、恐る恐る目を開き……そして、驚愕した。


 オリヴァーの身体を庇うように立っていたのは、先程まで言葉交わしていた黒髪の美女。

 けれども身代わりになったわけではなく、まっすぐ前に突き出した右の手の平。

 その前方で鉛玉が煙とともに渦巻くような動きで宙を舞っていた。


「……ったく。返すわよ、この無粋な贈り物!」


 次の瞬間、鉛玉が空中を走り、煙のカーテンを切り裂きながら武装した男の肩へと突き刺さった。

 うめき声を上げながら銃を落とすテロリスト。

 そんな敵対者には目もくれず、女性はオリヴァーへと視線を向ける。


「オリヴァー。あんた、無事よね?」

「ぼ、僕は大丈夫だ……! き、君は一体!?」


 オリヴァーが訊くと同時に、左手で黒髪を掴む美女。

 そのまま剥がすように投げ捨てた黒いウィッグの下からは、輝く長い金髪が顕となった。


「ドリーム・チェェェンジ!!」


 右手を振り上げ、叫ぶ金髪少女。

 激しい光が彼女の身にまとう装束を吹き飛ばし、入れ替わるようにして鮮やかな桃色を放つヒラヒラした衣装が現れる。

 そして、彼女の右腕と左脚が光の中で、黒鉄色に輝く装甲を纏う義手義足へと姿を変えた。


「鉄腕魔法少女マジカル・カヨ見参! 逆らう奴は、八つ裂きよ!!」

 

 避難したカウンターの中から、高らかに名乗る華世を覗き見るオリヴァー。

 武装した男達は目標を切り替えたのか、怒声を発しながら彼女へと銃を放つ。

 けれども弾丸は宙を貫き、狙っていた相手は伸ばした手首ワイヤーを巻きつけたシャンデリアを視点に弧を描きながら接近。

 そのまま振り子のような勢いで降下し、テロリスト達の懐へと飛び込んだ。


 一瞬。


 ほんの僅かな時間に華世は高速回転しつつ周囲の男たちをなぎ倒す。

 倒れた者の中には腰のホルスターから抜いた拳銃を放とうとする者もいたが、武装義手の手首から放たれたひとつの光弾がその銃身をグリップだけ残して抉り取った。


「さ、作戦は失敗! 退却する!」


 伸びた仲間たちを見捨て、廊下へと逃げ出そうとする者が数人。

 拳銃を向けた男を殴り倒した華世は、冷静なまま髪を結ぶリボンを指で抑えた。


「……ウェポン・フォール! コード045・MRT-04テーザーネット!」


 彼女の声とともに、ガラス窓を突き破ってホールへと入り込む、先の尖った円柱状の何か。

 壁に突き刺さったその中部の蓋が開き、銃のような形をした武器が放物線を描いて華世の手へと収まる。

 そのまま、犯人たちが逃げた廊下へ向けて発射。

 銃口から放たれた網は逃げる男たちをひとり残らず包み込み、電撃が流れる音を鳴らし静寂を取り戻した。



 ※ ※ ※



 その後は、コロニー・アーミィと思われる連中が乗り込み、パーティを舞台にした捕物とりもの劇は終わりを迎えた。

 狙われたオリヴァーも、事情聴取のために彼らへと快く協力を申し出る。


 けれどもオリヴァーの頭の中には、先程の光景が何度も繰り返されていた。

 サファイアのような青い瞳、可愛らしくも凛々しい表情。

 流れるような動きに追従する美しい金髪ブロンド

 それらを携えた、完璧なる戦姫。


(僕は、あの娘が欲しい……!!)


 それは、オリヴァー・ブラウニンガーが初めて持った“欲望”であった。



◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■


       鉄腕魔法少女マジ・カヨ


        第13話「人間の敵」


◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■



    ───Bパートへ続く

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― 新着の感想 ―
[良い点] 華世ちゃんに恋する(?)男子キャラが増えましたね!!(嬉々) 今回はOPが長く、いつサブタイトルが来るのかワクワクして今したが、まさか最後とは!いいですねぇ! 今回も話の続きが大変気になり…
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