第2話「誕生、鉄腕魔法少女」【Aパート 少女の朝】
「そうだ、せっかく時間が有るし……華世ちゃんが魔法少女になったきっかけとか聞きたいな~」
帰り道の電車の中で、駅弁を食べていた咲良がそう言った。
正午辺りに5キロ近くもパスタを食べたのに、まだ食べるのかと華世は呆れ顔をする。
別に華世は過去の詮索をされるのは嫌ではない。
それに思い出さなければならないのも、ここ二週間ほどのことである。
「しょうがないわねぇ……」
華世は窓の外を流れ行く風景を見ながらゆっくりと、少しずつ思い出しながら語り始めた。
それは、始まりの物語。
ひとりの少女が、力を得るまでのストーリー。
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鉄腕魔法少女マジ・カヨ
第2話「誕生、鉄腕魔法少女」
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【1】
「ふぁぁ~っ」
ベッドからゆっくりと降りた華世は、眠気まなこを指でこすりながら、寝間着を脱ぎ捨てた。
そして衣装棚の引き出しから取り出した白いブラジャーを、同級生の中では比較的大きめな胸へとかぶせ、身につける。
ハンガーに掛かっている濃い藍色の上着、その下にあるワイシャツを取り出して腕を通し、学校指定の黄色いラインの入った純白のスカートを腰に回した。
部屋の中の鏡を見ながら、櫛を使ってボサボサの長い金髪を梳き、最低限の身だしなみをする。
「さて、と」
制服の上着の代わりにエプロンを身に着け、リビングに足を踏み入れる。
そこで華世が出てくるのを待っていたように立っていたのは、メイド服姿の一人の女性。
彼女は物欲しそうな表情で、空色の長いストレートなおさげ髪を揺らしながら、華世に向かって両腕を広げた。
「華世お嬢様、脱いだお召し物をこちらにどうぞ」
「あ、ええ。……ミイナ、それ吸うんじゃないわよ?」
「そりゃあもちろん、スゥーーーッ。ぷはぁー! やっぱり朝の寝間着は格別ですね!」
「言ってるそばから吸ってんじゃないわよ! 鼻からコールタール漏れてるし!」
「おっと、つい忠誠心が鼻から出てしまいました……失敬失敬!」
唇までたれてきていた赤褐色の液体を、メイド服のポケットから取り出したハンカチで素早く拭き取るミイナ。
飽きるほど繰り返したやり取りではあるが、寝汗でこびりついた体臭を目の前で嗅がれるのは、いつも不快感を感じてしまう。
そう思いながらも華世はキッチンに向かい、フライパンを乗せたコンロに火を入れつつ、冷蔵庫から卵を3つ取り出す。
それらを手際よくひとつずつボウルへと割り入れ、熱されたフライパンへとバターをひとつ。
ボウルの中の黄身を菜箸で潰し、加え入れるのはマヨネーズとコーヒーミルク。
それから牛乳とマヨネーズを混ぜ合わせ、塩コショウで味付けを整えてから、最後に柔らかい袋チーズを加えてかき混ぜる。
今日の朝食のおかずは、スクランブルエッグだ。
「ったく……変態気質だし、料理作れないし。あんた、本当にメイドロボなの?」
「はい。私がコズミック・ドロイド社の誇るサービス・ドロイド317号で有ることは、型番やインプットされたプリセットからも確かでありますとも! スゥーーーッ。ぷはぁー!」
「人が目を離した隙に、もう一服かましてんじゃないわよ!」
繰り返し華世の寝間着を顔に押し付けるミイナへと、フライパンに溶き卵を入れながら再びツッコミを入れる華世。
彼女────ミイナは人間ではない。
10年ほど前から驚くべき速度で発達した人工知能分野、及び機械人間製造技術の結晶によって誕生した存在。
家事手伝いアンドロイド「SD-317」である。
発達以前までは機械的な受け答えしかできなかったAIという存在が生活に浸透したのは、こと人類史においても驚くべき進化である。
しかし、ことこのメイドロボ・ミイナに至ってはどうも特殊な性癖というのだろうか。
メイドロボという存在は、古今東西さまざまなフィクションで描かれた夢の存在らしい。
けれども、主人の体臭を嗅ぎ悦に浸るなんて個体は、恐らくはこの変態以外には存在しないだろう。
「最後にゆっくりかき混ぜて……できたっと」
皿に盛り付けて完成したのは、チーズのとろりとした食感も楽しめる、ふわふわスクランブルエッグ。
同時に予めミイナがセットしていたであろう炊飯器が、タイミングよくご飯が炊けたことを主張した。
華世は手際よく茶碗に白米を盛り、木製のダイニングテーブルへと3人分の朝食を並べてゆく。
その間にミイナも、ケチャップなどの調味料やふりかけを取り出し、テーブル中央に配置。
箸を並べようとしたところで、奥の部屋からゆっくりとボサボサの明るい茶髪が顔を出した。
「むにゃ……おはよーさん、華世。とミイナはん」
「おはようございます、内宮千秋さま」
「秋姉、ご飯できてるわよ」
「おほーっ、今日はツイとるなぁ! うち華世の炒り卵めっちゃ好きやねん!」
ドタドタと騒がしい音を立てて席につく内宮。
華世も調理に使った道具を洗ってから、音を立てずに椅子へと座った。
「じゃあみんな揃ったし……」
「「「いただきます」」」
華世とミイナ、それから内宮の三人で声を合わせてから箸を手に取り、一斉に朝食を食べ始めた。
───Bパートへ続く




