第12話「結成! 魔法少女隊 後編」【Hパート 爆熱の決着】
【8】
男が跳躍し、暗がりの電灯の光を反射した刃が残光を放ちながら一閃する。
その切っ先が喉元を捉える前に、杏が光の翼をはためかせながら空中で翻り攻撃を回避。
斬撃を回避され空中に留まる男へと、杏はステッキを構える。
蕾のような杖の先端部が展開し、その中心に光が収束した。
「イオン・ブラスタァァッ!」
少女の叫びとともに放たれるビームにも似た無数の光弾。
けれども男はまるで空中を蹴るかのように軌道を変え、V字を描くように床を経由して杏を下から急襲する。
「牴牾よ。貴様には覚悟が足りぬ」
「悪い人に悪く言われる謂れはありません!」
「愚かなり……斬ッ!」
放たれる攻撃に対し、杏は輝く翼で前面をガード。
男の腕の刃によるアッパーカットを、正面から受け止めた。
しかし受け止め来れなかったのか、彼女の身体は空中でよろめき体勢を崩し落下してしまう。
「ああっ!!」
「黄泉へと送ってやろう……む?」
「俺がいることを忘れるなよ!」
空中で軌道修正しようとする大男へと、キャットウォークからサブマシンガンを放つウィル。
けれども男は弾幕の中をジグザグに動いて掻い潜り肉薄。
振るわれた鋭い斬撃を、ウィルは咄嗟に抜いたサバイバルナイフでギリギリ防御する。
「力なき人間、命惜しくば手出ししないことだ」
「非力かどうか……試してみればいいだろ!」
ウィルは鍔迫り合いをしながら、足を持ち上げ男の胴を蹴り飛ばす。
衝撃でのけぞった隙に手早くリロードを済ませ、再び短機関銃を掃射。
跳弾の音を響かせながら吹っ飛ぶ大男へと、間髪入れずに焼夷手榴弾を投げつける。
空中で爆発し、男の身体が炎に包まれる。
しかし、燃え尽きた外套の下から現れたその身体は、金属光沢に包まれていた。
空中で飛び上がった男が、再びウィルの眼前に降り立つ。
「それが……お前の本体か!」
「我が名はセキバク。脆弱な人間よ、我が手の中で朽ち果てるが良い……む?」
『ウィル、そこ伏せぇやぁっ!』
内宮の声とともに遠方から矢のように飛んできた〈ザンドールA〉から叩き込まれた、キャリーフレームの巨大な拳。
そのパンチはウィルの頭上のキャットウォークを、セキバクと名乗った大男ごと粉砕した。
「や……やったんか!?」
静寂を感じ取ったからか、〈ザンドールA〉のコックピットハッチが開き、中から内宮とミイナが顔を出す。
「内宮さん、足元に気をつけて! 杏ちゃんが……」
「ちゃーんと捉えとるから心配いらへんで! それにしても……」
すくい取るように、倒れた杏を〈ザンドールA〉の手に乗せる内宮。
魔法少女姿の杏を見て、彼女の表情が渋くなる。
「華世……ステッキでも取られたんかいな。迂闊やなぁ……」
「あ、いや……華世が自分から手渡したんだ。大丈夫だろうって」
「ホンマか? 華世……何考えとんねんアイツ」
内宮が眠りながら胸を上下させる杏を見てから、華世が戦っているであろう方向へと顔を向けた。
※ ※ ※
床から伸びた黒く鋭いトゲを、後方へ飛び退き回避する。
しかし影の針は途中で直角に伸びる方向を変え、華世の頬を掠めた。
カウンター気味に手首のビーム・マシンガンを発射する。
けれども放たれた光弾はいくつかレスの身体に当たりはしても、余裕の表情を崩すには行かなかった。
「無駄だよ、鉤爪! 僕の弱点を捉えることは不可能だ!」
「だったら当たるまでぶちかますだけよ!」
斬機刀を抜き、一気に詰め寄り一閃。
レスの首を撥ね飛ばすが、切り離された頭部は闇の中に消え新しい頭が再生するように生えてきた。
間髪入れずに華世の後方から空中をホノカの炎が走り、爆炎が少年を包む。
けれどもレスは上半身の大半を失った格好から再生しつつ飛びかかり、華世の首へと黒い腕を伸ばしてくる。
「汚い手で、触るんじゃない……わよッ!!」
義足の足裏から赤熱したナイフを飛び出させてのハイキック。
レスの腕を切り裂くと共に後方へ飛び退いた華世は、回し蹴りと共にナイフを射出した。
「てめェら……何度も何度も僕の邪魔をしやがってェ!」
「ここまで攻撃を叩き込んでもケロッとしてるなんて……つくづく人間じゃないわね」
「人間なんかに人間呼ばわりされたくねぇよ!」
胴体の、人間で言えば心臓があるであろう場所にナイフが刺さったまま声を張り上げ近づいてくるレス。
明らかにレスは冷静さを欠いていた。
かつて学校で戦った時は、一撃を与えるまでにあれほど苦労していた相手。
それが今や放つ攻撃全てを浴びながらも、向かってくることをやめない羅刹となっていた。
「華世、普通の攻撃じゃこいつは……!」
「そのようね。やるならあいつの身体を均等に、周辺ごと吹き飛ばすくらいじゃないと……」
「さっきの様子じゃ爆発程度じゃダメ。もっと威力のある武器といえば……!」
ホノカが視線を上げた先、そこにあったのは赤赤としたビームの光を放ち続けるビーム・アックス。
人の身ではありあまりすぎるその巨大な武器。
それを奴に叩き込むことができれば……。
「なにをコソコソと話してるんだぁっ!!」
「くっ!」
ムチのように伸び、しなるレスの腕が横薙ぎに払ってくる。
華世とホノカはほぼ同時に攻撃を飛び越え、やや後ろへと着地した。
「ホノカ、あんたのガスの残量は!」
「あと大きな爆発を2~3回出せるかってとこ。キャリーフレームの攻撃を凌ぐのに結構使っちゃって……」
「それだけあれば上等。あんたの頭なら、アレを奴にぶちかます方法くらい思いつくでしょ?」
「……無茶させるつもり満々かぁ。これが本当にあなたの思っている方法かはわからないけど」
「要はやれればいいのよ! 時間はあたしが稼ぐ!」
足元から伸びた棘を宙返りでかわし、着地と同時にビーム・マシンガンを連射しつつ突進。
ビームの嵐を受けながら両腕を刃物状に変形させたレスが、迎え撃とうと構えを取る。
その動きを見てから、華世は両足を床につけかかとのローラーを逆回転させ急ブレーキ。
そのまま斬機刀を鞘に収めたまま抜き、地面をかすめるようにして切り上げた。
稲妻をまとった鞘が削り上げた床の破片と散らばっていたキャリーフレームの残骸へと電撃を移送。
スイングの勢いで弾き飛ばし、雷を纏った弾幕がレスへと襲いかかった。
「ぐううっ!!?」
以前の戦いから、この攻撃だけはレスに通用することは確認済み。
華世は急いで斬機刀を背中に戻し、義手の手首を射出。
電撃を受け動きの止まったレスをワイヤーでグルグル巻きにする。
「む、無駄だよ! 痺れさえ取れればこの程度の紐切れなんて数秒で……!」
「その数秒が欲しかったのよ! ホノカッ!!」
華世の声に答えるように、レスをひきつけているうちにビーム・アックスの柄の下へと移動したホノカの足元が爆発した。
爆風を受け跳躍したホノカの身体は、数倍もある大きさの斧を持ち上げ宙へと浮き上がる。
立て続けにビーム・アックスの刃の反対柄、斧頭と呼ばれる部分が爆発。
ホノカが掴んでいる部分を支点として、空中で斧が縦回転を始めた。
「まさか……その斧で僕をっ!?」
「く・た・ば・れぇぇぇっ!!」
ホノカの手から放たれ回転しながらレスへと飛ぶビーム・アックス。
電撃で痺れワイヤーで身動きを封じられた少年にその一撃をかわすすべはなく、声にならない悲鳴とともにその身体はビームの光に消えた。
かろうじて残った上半分だけの頭が、床で数度バウンドし……やがて鼻の部分を下にして止まった。
「まさか……ここから再生を?」
「……いや、それは無さそうよ。見て」
レスの見開いた目が、白目をむき動かなくなる。
同時にまるでかき消えるように髪と皮膚が消滅し、跡には鼻から上だけの頭蓋骨が残った。
「いま、向こうの方も決着がついたって秋姉から連絡があったわ」
「魔法少女隊の初陣、初勝利ってところ?」
「魔法少女隊?」
「だって、あの妖精くんがそう言って……」
「ぷっ……あはは! あいつの言うこと、真に受けなくていいのに!」
「なっ! 私はただ……そういうのも悪くはないって思ってたのに!」
静寂を取り戻したアーマー・スペースで、華世の笑い声だけが空気を震わせていた。
───Iパートへ続く




