第12話「結成! 魔法少女隊 後編」【Gパート 暗渠の攻防戦】
【7】
遠くで見える爆発の光。
あれがホノカの放った攻撃であることは、遠目からでも確認できる。
「とりあえず杏ちゃん。俺たちだけでも華世の合流を優先しよう」
「う、うん!」
ただでさえ、戦えない杏がいるので身動きが取りづらい状況。
手持ちの武器が少ない今、加勢に向かうのは無茶がある。
半ばホノカを見捨てることになるが、全員で行って全滅するのだけは避けたい。
「宵闇に 招かるるまま 待ち惚け……斬ッ!」
「何っ!?」
鋭い斬撃が、ウィルの眼前を掠めた。
手すりの金属パイプに幾重もの切り込みが入り、輪切りになった部分がいくつか眼下へ落ちていく。
ゆらりと、ウィルたちの前に現れる三度笠の大男。
その両腕から輝きを放つのは、刀身のような黒光りする刃。
ウィルはコートの裏から短機関銃を取り出し、トリガーを目一杯引いた。
放たれた無数の鉛玉が大男に迫るも、素早い腕の動きがその尽くを弾き返す。
男は口元にニヤリとした笑みを浮かべ、こちらへと飛びかかった。
「このっ!!」
杏をかばいつつ、ウィルは手榴弾のピンを抜いて投げつけた。
けれども投げつけた緑の球体は一閃のもとに切り捨てられ、信管を失った爆弾が奈落の外へと落ちていく。
「このような玩具で我を止めようとは笑止……!」
「オモチャかどうか……これならどうだ!」
ウィルが投げつけたボトル状の手投げ弾を、先程と同じように両断する男。
しかし刃がボトルを捉えた瞬間、赤い閃光が男を包み込んだ。
杏を背負いながら、階段を駆け下りるウィル。
下水道に戻る道はあの大男に抑えられてしまったため、今は降りるしか逃げ道がない。
「いまの、何を投げたの?」
「閃光手榴弾だよ。構造上、破壊されても作動するんだ。……あっ!」
上から降ってくるように逃げ道を塞ぐ、両腕に刃のついた大男。
至近距離で閃光弾を受けたにもかかわらず、男の目は鋭い眼光を放っていた。
「銃も効かない……爆弾もダメとは、化け物か!」
「我らは、人の作りし物の怪なり。常人ごときの力で我は……」
「じゃあ、バケモノだったら対抗できるわけよねッ!」
頭上から、赤く輝く刀身のナイフがふたつ。
ひとつは男の片腕を弾き、ひとつは三度笠の端を切り裂いた。
その一撃が一瞬の隙を貫く、落下を伴った鋭い金属脚の蹴り。
よろめいた男が、階下へと無言で転落する。
「ウィルと杏。ふたりとも無事ね!」
ヒラヒラとした桃色の衣装を身にまとった華世が、ウィルたちの前に降り立った。
頼れる救世主の登場に、ウィルは思わず感嘆の声を上げた。
「華世!」
「華世お姉さま!」
「うう……お姉さま呼ばわり、全然慣れないわねえ。それよりウィル、ホノカは?」
「向こうで戦ってるみたいだけど……キャリーフレームが何機かいるみたいだ」
「なるほどね。ウィル、あんたは急いでこの子を連れて外に逃げて」
「……杏も戦う!」
「何言ってんのよ、あんたは……」
「なんとなくだけど、わかるの! 杏、お姉さまの持ってるそれを使えば、戦えるって!」
聞き入れられるはずがない、要求。
けれども声を張った杏の顔つきは、真剣そのもの。
彼女と華世の顔を交互に見比べたウィルは、華世がどういう判断を下すかを固唾を呑んで待つしか出来なかった。
「……わかったわ。ウィル、こいつを杏に!」
華世が投げ渡した何かを、受け取るウィル。
それは先端に赤い宝玉が輝く、いかにも魔法少女といったデザインのステッキだった。
「でも、杏ちゃんには首輪があるんじゃ」
「麻酔機能なら今は一時的に解除してあるわ。さっきの奴が、これでくたばったとは思えないし……できるわよね、杏」
「う、うん! お姉さまのためなら杏、がんばれる!」
「それじゃあウィル、頼んだわよ!」
そう言って階段から飛び降り、ホノカが戦っているであろう方向へと向かう華世。
彼女が放った「頼んだ」に含まれている意味。それは「杏が不穏な動きを見せたら撃て」ということ。
そうやって保険をかけながらも変身アイテムを託したのは、杏が信用たる存在かを見極める目的もあるのだろう。
ウィルは杏を背中から降ろし、譲り受けたステッキを彼女へと手渡した。
「僕じゃ力になれそうにないけど、君なら……」
「ウィルさんは杏を守ってくれた! 今度は杏の番!」
杏がステッキを握り、スゥと軽く息を吸う。
そして片腕を高く上げ、叫んだ。
「ドリーム・チェェェェンジッ!!」
※ ※ ※
空中をガス溜まりへ向けて走る炎の導線。
そびえ立つ〈ビーライン〉の胸部で爆発が起こるが、装甲表面をススで汚す程度で効いている気がしない。
「く……」
ホノカの攻撃は、あくまでも対人・対建築物に特化したものである。
装甲にある程度の耐爆性能を備えたキャリーフレームには、表面からのガス爆発は通用しづらい。
退こうにもミイナを連れて爆風移動はできないし、背後を見せればレスが刺してくるだろう。
一歩、一歩と近づいてくる3機の〈ビーライン〉。
そのうちの一機が巨大なアサルトライフルの銃口を、ホノカ達へと向けた。
その時だった。
『だらっしゃぁぁぁっ!!』
スピーカー越しの叫び声と共に〈ビーライン〉の1機が、突然前のめりになって床へとその巨体を突っ伏した。
その衝撃と振動にこらえたホノカが見たのは、倒れた背中に突き刺さっていたのは弧状の刃先が光り輝いた一振りのビーム・アックス。
直後に背部スラスターを前回に吹かせ、立っている〈ビーライン〉の後頭部を掴む〈ザンドールA〉。
『こいつで、終いやぁっ!!』
特徴的な関西弁を叫ぶ〈ザンドールA〉は、そのまま回転足払いをかけて敵機を転倒させ、倒れ込んだところに胴体へとビーム・ピストルを一撃放った。
一瞬のうちに2機を撃破した鬼神の如き味方を見ながら、ホノカは空いた口が塞がらなかった。
「その声紋は……千秋さん!」
『無事やな、ミイナ! うちが来たからには、もう大丈夫やで!』
「千秋さんって……内宮さんですか? どうやってここに?」
『コロニー外壁からここに入れる、キャリーフレーム用のエアロックがあるんや。ミイナ、これに乗りぃ』
差し出された巨大な手のひらに、ためらいなく乗るミイナ。
そのまま〈ザンドールA〉の半開けしたコクピットハッチへと運び入れ、彼女を中に収容する。
「内宮さん、残った1機が!」
『大丈夫や。あいつがおる』
内宮の言葉に答えるように、青い光の尾を引いて飛来したひとつの飛翔体。
それは残った〈ビーライン〉の胴体に突き刺さり、炸裂。
よろめいた巨体へと、矢のように飛んできた華世が追い打ちのようにゼロ距離で義腕のビーム・マシンガンを叩き込んだ。
「たかがキャリーフレームごときに手こずり過ぎなのよ、ホノカ」
爆発する〈ビーライン〉の残骸を背に、呆れ顔でこちらを見る華世。
「たかが……って、普通の人間は生身でキャリーフレームなんてっ。それに待ち構えてたかどうかもわからなかったし」
「ミイナからあたし宛てに、キャリーフレームが居るっていうメッセージが来てたのよ。まったく……言ったでしょ、集団行動は大事だって」
「ぐぅっ……」
言い返せなかった。
長らく一人で戦ってきたホノカに、協力するとか合流するとかそういった発想は浮かんでこなかった。
ただ周りにいる者を巻き込まないがための独断先行。
それが自身を危険に晒す行為になっていた。
「鉤爪ぇぇぇっ!!」
キャリーフレームの残骸を突き破って立ち上がるレス。
その顔は先程までの余裕の表情からうってかわって、怨嗟に満ちていた。
『華世、こいつはうちに……』
「秋姉、あたしたちに任せて向こうに! ウィルと杏がもうひとりのツクモロズと戦っているはずよ!」
『わかった!』
スラスターを全開にして飛び去っていく内宮の〈ザンドールA〉。
ホノカは華世の隣に立ち、レスと戦う構えをとった。
───Hパートへ続く




