第12話「結成! 魔法少女隊 後編」【Fパート 暗闇の居城】
【6】
「ホノカと一緒にマンホールに入った!? あたしを待ちなさいよ!」
ウィルから入ってきた電話に、声を荒げる華世。
華世は今ウィルのバイクについている盗難防止用のGPSを頼りに、足跡を追って夜の街を駆け回っている。
『ごめん、杏ちゃんが降りて行っちゃって……その後を追ってホノカちゃんも』
「あんたが居たのに、なんて体たらくよ! 今どこ!?」
『どこって……どこだろう。後を追うのに夢中で……』
「このマヌケッ! ……待って、いま下水道にいるのよね?」
『ああ。だけど本当に、ここにミイナさんがいるのかな? 確か電波が通らない場所にいるんだろ? でもここは電話が通じる……』
「そうね。未だにミイナのGPSからの信号は無し……まって、下水道……地下……!? そうか、そうだったのね!!」
華世の中に電流が走った。
真っ暗で、かつキャリーフレームが入れる密室。
ミイナがいるであろう、奇妙な場所に該当するところがこのコロニーに一つだけある。
『華世? 何かわかったのかい?』
「いい、ウィル。ミイナはたしかにその近くにいるわ。ミイナからの情報だと、真っ暗でキャリーフレームが立てる密室に居るらしいの!」
『ええっ、でもここは電波が……それに屈んでもキャリーフレームなんて入れないぞ?』
「コロニーの地下に一層だけ、電波が通らない場所があるわ。それは……対衝撃用のアーマー・スペースよ!」
『アーマー・スペース?』
「外部からコロニーへの攻撃の威力を低減させるための空間よ。スペースド・アーマー……空間装甲とか中空装甲って聞いたこと無い?」
『ああ。中に空間を開けて二重構造にすることで、装甲の内側に伝わる衝撃を軽減する構造だよね』
「あれと同じ要領でコロニーの外装部には頑丈な外壁と、居住区の地底部分との間に大きな空間があるの! そこは有害な宇宙線から居住区を守るための特殊金属装甲に覆われてるわ。だから電波が通りにくいのよ!」
『なるほど……そこならめったに人が訪れないから、監禁場所としては最適だ。……そこに空気はあるのかい?』
「ええ。ビーム攻撃を減衰させるために、かなり気圧が高いけれど空気がちゃんとあるわ。地下道から人が入ってメンテナンスできるから! ……あたしが来るまで突入するんじゃないわよ」
『ごめん……もうホノカちゃんがハッチを開けて入り込んじゃった』
「……あのバカッ!」
※ ※ ※
金網と鉄板で組まれた作業員用のキャットウォーク。
ホノカは金属の手で後ろ手に杏の腕を握り、カンカンと金属の床を足で鳴らしながら、長い螺旋階段を一段ずつ降りていた。
(この先に……いる)
下れば下るほど強くなる、頭の奥に響く鈍痛。
間違いなく、この奥にツクモロズがいる。
「ホノカちゃん、待ってよ!」
数段飛ばしで追いかけてきたウィルが、ゼェゼェと息を切らせながらホノカの肩を掴んだ。
階段を降りる足を止め、振り返ってウィルへと杏の腕を押し付ける。
「……この下にツクモロズがいます」
「ツクモロズが? ってことはミイナさんもそこか。いったん華世と合流してから……」
「あいつらはそう悠長に待ってくれませんよ。杏を頼みます!」
「あ、ちょっと!」
手すりを乗り越えて、飛び降りるホノカ。
感覚が導く方向へ、背後でガスを爆発させて一気に前進する。
床に着地してすぐに跳躍、再び爆発の勢いで大きく前方へと加速した。
「居たっ!」
前方に座り込んだ人影を捉え、着地位置をコントロールしてブレーキを掛ける。
速やかに可燃ガスを放ち、点火。
ミイナの周囲を警戒していたツクモロズ兵ジャンクルーを吹き飛ばした。
「ああっ……うっ! ほ、ホノカ様!」
「ミイナさん、無事ですか!」
ミイナに駆け寄ったホノカは、彼女の両手両足を縛るロープを軽く炙って焼き切り解放。
肩を貸しながら彼女に目立った外傷がないのを確認した。
「ミイナさん、乱暴はされなかったんですか?」
「え、ええ……。男の子に何度か、変な立体物を押し付けられたくらいです」
「男の子? それって……くっ!」
突如、足元から伸びてきた影のような鋭いトゲ。
ホノカは咄嗟に飛び退こうとしたがミイナと一緒では躱しきれず、機械篭手の表面装甲に小さなキズが入った。
「この攻撃……」
「勇敢だねぇ、マジカル・ホノカ。ひとりで助けに来るなんてさ」
「やっぱり、あなたね……!」
地面から生えるように姿を表したのは、すまし顔の少年。
それは、前に下水道でホノカを襲ったツクモロズ。
華世から聞いた話によると、その名はレスというらしい。
「その機械人形を模した影を見せたら、まんまと誘き寄せられるなんて。ちょっと単純じゃないかな?」
「あれはあなたの仕業だったの? でも、万全の状態ならツクモロズひとりくらい……」
「おやおやぁ? まさか僕一人だと思ってる? 甘いよ、甘すぎるね!」
そう言って、片腕を上げるレス。
同時に闇の中に赤い光が次々と点灯。
ホノカは咄嗟に機械篭手の手のひらから炎の障壁を展開。
直後に雨……いや、霰のような銃弾の嵐が、上方から叩きつけるように降り注いだ。
「大口径ライフル弾……そしてこの連射。まさか!」
闇に浮かぶ巨大な影が、輪郭を帯びてその姿を現す。
それは3機のキャリーフレーム〈ビーライン〉だった。
───Gパートへ続く




