第12話「結成! 魔法少女隊 後編」【Dパート 杏とホノカ】
【4】
「ねえ、ミイナお姉ちゃんはどこに行ったの?」
夕食の席で杏が投げかけた素朴な疑問に、食卓を囲んでいた華世たちの箸が一斉に止まった。
現状、ホノカには事情を話してはいるが杏には伝えていない。
決して信用していないということではなく、巻き込みたくないという思いがあるからだ。
一応、杏が変身するためのステッキは華世が預かっている。
ステッキがなくても、彼女の身が危険にさらされたときに防衛反応であの大蛇に変身しないとも限らない。
どちらにせよ無論むりやり変身しようとすれば、彼女の首につけられているチョーカーから麻酔針が飛び出て気絶させる。
そうならないためにも、杏を今回の騒動に巻き込みたくないのが華世たちの考えだった。
「お昼に出かけたっきり、帰ってこないんだよ! おかしくないの?」
「あ……ああ、ミイナはな急に用事ができて……」
「でも杏のために服を買ってくれるって言ってたのに……」
うつむき悲しそうな顔をする杏。
その小さな頭をひと撫ででもして慰めようと華世が立ち上がろうとすると、それより早くホノカが椅子を引いた。
「みんな、いろいろな事情があるものだよ。……あとで私のテントに来る?」
「テント? 行く行く! 杏、テントって見たことないの!」
「じゃあホノカも杏も早く食べ終わりなさいよ。片付けをするのはあたしなんだからね」
「「はーい」」
華世の言葉を受けて、再び野菜炒めに腕を伸ばすホノカと杏。
その様子を見ながら、華世はフカヒレスープに手を付けた。
(……今日のは会心の出来ね。ミイナ、フカヒレスープ好きだったから食べてもらいたかったけど。無事に帰ってきたらまた作るか……あら?)
ふと顔を上げるといつの間にか内宮が席を離れており、ちょうど自室から出てくるところだった。
その手には、柔らかい輪っか状の何かが握られていた。
「秋姉、それ何?」
「こないだな、杏と一緒に買い物いったら華世と勘違いされたんや。この子は背格好もほとんど華世とそっくりやからな。せやから、判別つくように外出るならちょっと髪でも結ってやろ思うたんや」
そう言って、杏の名前の由来となった桃色の髪に手を伸ばした内宮。
そのまま手際よく耳元の髪を束ね、持ってきたヘアゴムでその根本をキュっとまとめた。
ポカンとする杏の眼前に内宮が手鏡を添えると、ヘアゴムについた丸い飾りを指で突付いた。
「わぁ、サイドテールだ!」
「似合うとるで。そのヘアゴム、昔うちが使うてたもんなんや。大切にしぃや」
「ありがとう、千秋お姉ちゃん!」
「うんうん、君みたいな子は素直がいちばんや。うちのはチィと捻くれとるからな。なかなか今のような感謝の言葉は聞けへんで?」
「……悪かったわねー、素直じゃなくて」
内宮を睨みながら、華世はスープの入ったお椀を強めに机に置いた。
食べ終わった食器を重ねながら、考えるのは今後のこと。
今夜いっぱいはコロニー・ポリスに捜索を任せるが、翌朝までに見つからなかった場合はそのままにするつもりはない。
そうなった時にどうミイナを探すか、そのことで頭がいっぱいになっていた。
※ ※ ※
「おじゃま……しまーす。わぁ~!」
ホノカの後を追うように、恐る恐るテントの入口をくぐる杏。
年相応……いや、それよりも少し幼い内面の杏が、テントの中を感嘆の声を上げて見て回る。
その様子を見ながらホノカは、自分の感覚を研ぎ澄ました。
(……やっぱり、気配はないか)
ツクモロズを前にすると、脳裏に走るズキリとした痛み。
ホノカはそれを“匂い”と呼び、ツクモロズを見つけるセンサーとしていた。
華世の話を聞く限り、これはどうやら自分しか感じられないもののようだった。
初めて敵として退治したときは、たしかに杏から感じられたツクモロズの匂い。
これだけ近くに彼女を置いたのに、全然あのズキズキした感覚は得られなかった。
「ねぇ、これなあに?」
「それは飯盒。焚き火でお米を炊く道具」
「炊飯器いらないんだ~ふしぎ!」
「まあ、私は仕組みまでは知らないんだけど……え?」
ふと目をやった外の景色。
暗がりの中に薄っすらと、見覚えのあるメイド服が浮かんでいた。
「あっ! ミイナお姉ちゃんだ! 帰ってきたんだよ!」
ぱあっと明るい顔でテントの外に飛び出す杏。
けれどもミイナのものと思われる人影は、闇の奥へと消えていった。
「ミイナお姉ちゃんが行っちゃう……! 杏、追っかける!」
慌てて後を追おうとテントを飛び出す杏。
ホノカはこのことを華世たちに連絡しようと思ったが、そんな時間は無さそうだった。
携帯電話は持っておらず、伝える相手は遥か上の最上階。
「待って、杏!!」
夜の帳に消えゆく杏を見失わないことが先決だと、ホノカもテントを飛び出した。
───Eパートへ続く




