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第12話「結成! 魔法少女隊 後編」【Cパート 不幸中の幸い】

 【3】


「ちぇっ……何度やってもツクモ獣になりやしねえ。この状況でストレス無しって……どうなってんだよ、お前」


 ミイナの前で正八面体の何かを投げ捨て、悪態をつく少年。

 両手両足を縛られたミイナは、言動から彼がツクモロズ勢力のものだと勘付いていた。

 自身のパラメーターチェックをし、ストレス値がゼロを維持していることを確認する。

 確かに誘拐され監禁されている状態に多少どころではないストレスを感じてはいるが、華世やももの顔を思い浮かべれば相殺に足る幸福値を得ることはできる。


 今いる場所は真っ暗……というよりは真っ黒な空間に座らされているミイナ。

 柱のようなものは薄っすらと見えるが、窓や扉にあたる物は見当たらない。

 けれども少年の周囲には機種は分からないがキャリーフレームが数機待機しており、不気味なカメラアイの光をしきりにこちらへと向けてくる。


 通信は完全に圏外というわけではないが、こう微かな電波しか通っていないと音声や画像はおろか、短い文章ですらマトモに送れそうにない。

 けれども冷静に、脳内メモリーで現在の状況を伝えるメッセージを送れるように準備を進めていた。

 何かの拍子で一瞬でも電波強度が強くなれば、華世の携帯電話に送信することができる。

 ここまで周到に用意しているのは、ひとえに華世が必ず助けに来てくれると信じているから。

 彼女への信頼が、ミイナを正気でいさせ続けていた。


「暗闇に、拳震わせ、夕焼けぬ……」

「セキバク、茶化しに来たのか?」


 音もなくり足で歩いてきたのは、三度笠さんどがさを被った大男。

 セキバクと呼ばれたその男の目つきは刃物のように鋭く、不気味な和風の外套がいとうを身にまとっている。


「レス、お前が珍しく苦戦しているようだからな。手を貸してやれとバトウが」

「爺さんめ……余計なことを。ザナミの奴も知っているのか?」

「さあな。それよりもこの機械の娘、我らの軍門に降らぬのか」

「ああ。コアをいくら突っ込もうとも反応なしだ。この機械人形をけしかけりゃあ、鉤爪の女とその周りの連中もタダじゃすまないと思ったんだが」

「始末するか?」

「いや、まだ使いみちはある。せいぜい役に立ってもらうぜ? 機械のメイドさんよぉ……」


(お嬢様……)


 影のある表情でジロリと振り向いた少年の顔を見て、ミイナは額に冷却液を浮かべた。



 ※ ※ ※



「それで、ホノカの方はどやった?」

「そっちは順調よ。ほら」


 机の対面に座る内宮へと、華世は携帯電話の画面に表示した写真を見せた。

 それは成長記録と評して撮影した、青春の1ページ。

 顔を赤くしてカズと言い争いをする、年相応の表情を見せたホノカの姿。


「見張りを頼んだカズと仲良くやってるみたい。昼も様子見たけど、問題といえばクラスに馴染めてないくらいね」

「安心したわぁー……。学校行かせた子が問題起こしたら、うちが責任負わされるからな~」


 そういいながらホッとした表情で、調書にペンを走らせる内宮。

 ウィルの時もだが、経過観察としてしばらくは報告書を提出する必要があるのだ。


「このぶんやったら、ももも通わせられそうやな」

「えっ!? あの娘も通わせるつもりなの?」

「当たり前や! 出自がああでも、子供は子供。ちゃんと教育受けなアカンて」

「勘弁してよ……あたし、ただでさえウィルとホノカに手を焼いてるのに。これ以上増やされたら流石に手が回らないわよ?」

「それも、そか。せやなぁ……」


 そう言って内宮は、ペンの頭を額にコンコンと当てながら考え込んだ。

 誰か知り合いに応援でも頼もうと考えているかのような表情。

 内宮の交友関係をすべては把握していないが、学校関係者にツテでもあるのだろうか。


「それよりも秋姉あきねえ。チナミさんからミイナのこと何か聞いてない?」

「ミイナが? どないしたんや?」

「聞いてないのね……。チナミさんが、ミイナからの連絡が急に途絶えたんだって」

「何やて? どういうことや?」


 華世は内宮に、かいつまんで説明した。

 SNSでやり取りしていたのに、連絡が途絶えたらしいということ。

 コロニー内には圏外の場所はなく、通信機器の突然の故障くらいしか途絶した理由が思い当たらないこと。


「……妙やな。電話が故障したとしても、通信が途切れるなんてありえへんで?」

「そうなの?」

「ミイナの身体には、緊急用の通信機能とGPS発信機能が付いてるはずや」

「じゃあ、そのGPSの反応を追えば場所がわかるってこと?」

「ちょい待ち……」


 懐から取り出した携帯電話を、しかめ面で操作する内宮。

 画面を指で押すタップ音と、換気扇の音だけが応接室に響き渡る時間が数秒ほど。

 そして内宮の表情が変化した……悪い方に。


「アカン、特丸デパートのあたりで反応が消えとる。最後のログは……1時間前か」

「1時間前……GPS反応がなく、通信機能が使えない理由として考えられるのは……!」

「通信が使えない隔絶された場所か、あるいは……まさか!」

「物理的に機能を潰されたか……こうしちゃいられないわ!」


 座っていた椅子を蹴っ飛ばしながら立ち上がり、応接室の扉へと走る華世。

 心配そうな表情を浮かべる内宮の腕が、その動きを掴み止めた。


「待てや華世、どこ行くんや!」

「特丸デパートの近くで反応が消えたんでしょ!? 付近で目撃証言がないか探すのよ!」

「待て言うとるの聞けや! あんさんが一人で聞き込みなんてできるわけやないやろ! 通報はうちがするから、捜査はコロニー・ポリスに任せとき!」

「くっ……!」


 歯を食いしばり、扉に拳を打ち付ける。

 確かに内宮の言うことが正しいのはわかる。

 一人で情報を得ようとしても、諜報のノウハウがない華世には無理がある。

 それに華世が人間兵器でアーミィの人間だと主張しても、アーミィは戦闘が専門であり人探しや事件の調査は関連組織であるポリスの管轄。

 子供の身である華世が聞き込みをしたところで、まともに取り合ってはくれないだろう。


「後のことはうちにまかせて、華世は家に帰りぃや。帰るの遅れたら、ももやホノカがあんさんを心配するで」

「え、ええ……わかったわ」


 震える拳を降ろし、華世は静かに応接室を後にした。





    ───Dパートへ続く

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