第12話「結成! 魔法少女隊 後編」【Bパート 不穏な報】
【2】
「うーーん、大丈夫やったかなぁ」
「何がですか~?」
伸びをしながらこぼれた独り言を聞かれたのか、咲良がパーティションから身を乗り出してきた。
尋ねられた以上は黙る理由もなく、内宮は「へぇ」とひとつため息をついた後で椅子の背もたれに寄りかかった。
「こないだ華世が雇った例の灰かぶりの魔女、あの娘の初登校が今日やったんやけど……うまく学校に馴染めたやろか思うてな」
「ウィル君の時も思ったんですが……手続きとかどうしてるんですか~?」
「手続き?」
「ほら、学校に通うには住民票とか戸籍とか要るんじゃないですか? アーミィが根回しすればそういったものってどうにかなるものなんですか?」
その言葉を聞いて、内宮は咲良が留意してることが何となくわかった。
住民が教育を受ける年齢かどうかを記す学齢簿は、基本的に戸籍・住民票をもとに作成される。
無論、そこに記載のない住人……表立った転居・異動手続きのできない素性不明の人間なんかはその名簿に記名されることはない。
「そもそもや、金星のコロニー法やと日本みたいに中学までの義務教育は年齢さえ適正なら、住民票なんか無くても通うこと自体は可能や。それにな、手続きには異星人保護プログラムがある」
「異星人保護プログラム?」
「それはな……」
「地球へ移り住む、地球以外の人類を受け入れる制度だよ。知らないのかい?」
咲良の奥の席からパーティションに肘を置いた楓真が、すかし顔で会話に入ってきた。
彼の言うことに首を傾げる咲良へと、内宮は説明を重ねる。
「30年前に起こった異星文明との接触から、大勢の……昔風に言えば宇宙人が地球圏に移り住んだんや。そのときに混乱を避けるために出来た制度やな」
「ま、そのきっかけとなった異星種族は30年の時の中で地球人とほぼ完全に融和。今じゃ地球人かそれ以外かなんて誰も気にしなくなったけどね」
「へぇ~! それじゃあ、知らないだけで友達がその宇宙人かもしれないんですね~!」
無邪気に笑う咲良の奥で、すこし俯いた楓真。
一瞬のことであったが、その表情の変化は内宮の目にやけに印象深く映った。
プルルルル。
不意に鳴る内宮の内線電話。
手で咲良たちに仕事に戻るように支持しつつ、受話器を握って耳に当てる。
「はい、内宮やけど?」
『内宮少尉、華世ちゃんが見えてます』
「おおチナミはん、うちが呼んだんや。10分くらいしたら向かうから、5分後くらいに応接室に通してもろてくれや」
『かしこまりました』
※ ※ ※
「華世ちゃん、5分くらい待ってから内宮さんが応接室で待っててって」
「ありがと、チナミさん」
受付で手続きを済ませた華世は、携帯電話の表示で時間を確認した。
微妙な空き時間のため、ドクター・マッドに顔を見せる事もできない。
どうやって暇をつぶすか、困り顔のウィルと顔を見合わせていると、チナミが腕を伸ばし華世の肩をチョンと突付いた。
「何? 時間つぶしに付き合ってくれるの?」
「そういうわけじゃないけど……ミイナさんのことで少し」
「ミイナ? あいつがどうかした?」
「それが……ゴニョゴニョ」
「連絡が途絶えた……ですって?」
こっそりと耳打ちされたチナミの言葉に、華世は目を見開いた。
家族の身に起こったかもしれない何かに少し、語気を荒げてしまった。
「あ、別に絶対に何か起こったわけじゃなくて……急に通信が止まっちゃっただけだから」
「通信? 電話でもしてたの?」
「えっと、ちょっとSNSでやり取りをね……」
「ふーん……」
顎に手を当て、考え込む。
ミイナとチナミが繋がっているというSNSのことも気になるが、何よりも通信が途切れたという話が気になった。
スペースコロニー内は通常、全域に渡って無線LANが張り巡らされ電波も通るため、携帯電話が圏外になる場所はない。
そう考えると、通信が途絶したのは通信機器の故障か、あるいは……。
「か、華世……」
「ウィル。あたしが秋姉と会っている間に、家に電話して」
「え?」
「家にいればいいけど、ミイナが居なけりゃミュウか杏が出るはず。出かけたのなら行き先から居場所を特定できるわ。よろしくね」
「あ、ちょっと……」
ウィルが納得するより早く、華世はエレベーターホールへと駆け出した。
内宮にも、早くこの話をする必要がある。
───Cパートへ続く




