表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
101/321

第11話「結成! 魔法少女隊 前編」【Hパート 光と闇】

 【10】


 同年代の無邪気な喧騒。

 不自由ない平和しか体験したことがない、憩いの空間。

 ホノカは照りつける光を嫌うように教室を離れ、ひと気のない屋上へと自然に足を運んでいた。


「まだ……私には明るすぎる」 


 コロニーを吹く風、空気の流れを肌に感じながら青く輝く空を見上げる。

 青みの中に薄ぼんやりと見えるシャフトを見つめながら、懐から小箱を取り出す。


「お前、何やってるッス……何スかそれ?」


 静寂を破って聞こえてきたのは、一人の男子の声。

 一人の時間を邪魔されたことに眉をひそめながら、一つ小さなため息をつく。


「何って……食事。ブロックフード」

「ブロックフード?」


「拓馬、知らないんスか? 乾燥圧縮した食べ物ッス。胃の中で水を吸って膨らむから、一粒でそこそこ満腹になるっていう究極の簡易飯ッス。……けども」


 ずいずいとホノカの前に出てきた和樹は、カバンから取り出したビニル袋をひとつ、押し付けるように差し出してきた。

 クリームパンと書かれた袋の表面を、面食らったホノカは視線を左右に巡らせ、再び正面の少年を見据える。


「これ、何……?」

「そうやって味気ない食事しちゃダメっすよ。コレでも食えッス」

「どうして? 安くて時間もかからない。合理的な食事じゃ……」

「違うッス。そんな食事をしてたら……」

「してたら?」

「只者じゃ無いってバレバレッスよ!!」

「…………え?」


 和樹の叫びに、後方でずっこける拓馬とポカンとするホノカ。

 意外な反応をされたかのように、当の和樹は頭をポリポリと掻いていた。


「姐さんが見張れって言ってたのはこういうことだったんスね……。確かに誰か見張ってないと大変なことになるッス……!」

「カズ、僕はてっきり健康とか美容とかに結びつけるものかと」

「何言ってるッスか拓馬! この娘は魔法少女スよ、姐さんの同業者すよ! エージェントとして潜伏先の集団に紛れ込むのは基本中の基本ッス! それがこんな一人でブロック飯なんて浮いてるッス!」

「……ま、まあ、一理はあるわね」


 もらった食べ物を突き返すのも何なので、袋を開けて一口ぱくり。

 ふわふわのパンと、その中のクリームの甘さが口いっぱいに広がる。

 食べ慣れない甘味に、思わず頬が緩んでしまう。


「良い顔するじゃない、ホノカ」

「あ……あなたは!?」

「姐さん!」


 扉に寄りかかった格好で、風に金髪をなびかせ姿を表したのは華世だった。

 大物ぶった登場のしかたと、油断したところを見られた不満でホノカはじっと彼女の青い目を睨みつけた。


「私を見張らせてたの?」

「見張るなんて失礼ね。あんたがボロ出さないように見守らせてたのよ。どうせ、にぎやかな教室に追い立てられて上がってきたんでしょ?」

「う……」


 言い当てられ、言葉を失うホノカ。

 二人続けて自分の失態を予測され、フォローに回られていたのはかなり恥ずかしい。


「ま、これに懲りたらひとり勝手な行動は慎みなさい。集団行動も学校教育の一貫よ?」

「…………わかった」


 華世の言葉に、ホノカは何も言い返せなかった。

 学校教育を受けたいと華世に申し出たのは自分である。

 真正面から正論をぶつけられては、返す言葉もない。


「じゃ、そういうことで。あたしたちもランチタイムに相席させてもらうわね」

「たち?」

「たっくん! 姉弟でたまにはお昼ごはん食べよ!」

「ゆ、結衣ねえちゃん!?」

「良いじゃないっスか、にぎやかに食べればご飯も美味いっす!」


 目の前で盛り上がる一同を見ながら、ホノカはもうひと口クリームパンをかじっていた。



 【11】


 日が傾く時間帯となり、空から投影されるオレンジ色が街を覆いかぶさる頃。

 両腕に人間ではとても持てない量のズッシリとした紙袋を10個ほど下げながら、メイド服姿でミイナは歩道を歩いていた。


「グヒッ……帰ったら ももお嬢様を着せかえ人形に、好きなだけファッションショーができる……!」


 妄想をメモリの中に浮かび上がらせ、変な笑いをこらえきれないミイナ。

 普段着・よそ行き・ドレス・学制服・きぐるみパジャマ…… ももという秀逸なモデルを着飾らせるための衣装を一日がかりで買い漁っていたのだった。


 家にある華世の服は、体格が一致する ももにもぴったりである。

 けれどその服はあくまで、華世の人間性に合わせたもの……つまりは、性格は無垢で無邪気な ももには合わないものだった。

 家でファッションショーを行っていたミイナには、そのズレが気になってしょうがない。

 そういった経緯の後に、ミイナは彼女の人柄に合った服を見繕ってきたのだ。


 とは言え完全に私利私欲の買い物ではなく、華世や内宮の分の衣服も買い揃えている。

 そのため、このような量の買い物になってしまったわけなのだが。


「うう……ジョイントが軋んでる音がする。やっぱりウィル様に荷物持ち頼めば良かったかな?」

「お姉さん、ずいぶん重い荷物持ってるね」

「え?」


 背後から聞こえてきた少年の声。

 つられて振り返ったミイナのカメラアイが捉えたのは、声を発した少年の足元から黒い影が伸びる光景。


「僕が荷物運び、手伝ってあげるよ。だけど……」


 足元からまるで床がなくなるように、一瞬の浮遊感。

 声を発する暇もなく、ミイナの視界はブラックアウトした。


「行き先は、鉤爪の女の家じゃないけどね……!!」


 ──────────────────────────────────────


登場戦士・マシン紹介No.11


【マジカル・モモ】

身長:1.53メートル

体重:42キログラム

挿絵(By みてみん)


 華世そっくりの姿をした少女・ ももが魔法少女へと変身した姿。

 衣装は華世のものに似ているが細部のデザインが異なっており、またメインとなるカラーリングもピンクではなく赤となっている。

 変身することにより髪の色も変化し、人間離れした桃色の髪となる。


 手に握るステッキは先端部に幾何学的な形状をしたパーツで構成された、花のツボミを思わせる部位が存在する。

 この部分が展開することでビームに近い性質の光の球体を発射する事が可能。


 熟練した魔法少女が使えるという「天使の翼」を背中に持ち、空を飛ぶことができる。

 この翼はネオンで作られた翼のような見た目をしており、強力な防御ユニットとしての働きもある。

 けれども激しい攻撃を受け続けると魔力を消耗し、飛行能力を低下させてしまう。



 【次回予告】


 捕らえられた家族、誘い出される少女たち。

 漆黒の闇を背負うレスの魔の手が、彼女たちを嘲り笑う。

 だがしかし……凶行に怒る華世の、クロガネの腕が軋み吠えた。

 

 次回、鉄腕魔法少女マジ・カヨ 第12話「結成! 魔法少女隊 後編」


 ────光と闇が、ぶつかり合う。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ホノカちゃんの学校初登校回非常に熱かったです! いいですねぇ。 これ、情報屋の和樹くんとホノカちゃんのカップル無いですかねぇ……全力で期待しちゃますねぇ…!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ