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第11話「結成! 魔法少女隊 前編」【Gパート ホノカと学校】

 【8】


 シャッと音を立てて開かれるカーテン。

 眩しい陽光……に見立てた人工太陽光の光が、ミイナの足元を明るく照らし出した。


「んふ、んふふ、んふふふふ~」


 振り返った先にいるのは、昼前にもなったのにまだ寝息を立てている、華世のそっくりさん。

 愛するお嬢様に瓜二つの少女・ ももの存在は、ひとりでにミイナの冷却ファンを高速回転させていた。


(一週間、毎日起こしてるけど……何度見てもかわいいっ………!!)


 華世はクールだ。クールビューティーだ。

 年齢こそ成人と比べれば低いが、その華奢な身体を思わせない大人びた性格は、時として少女という存在を辛くしすぎてしまうスパイスとなる。

 そこに登場したのが、ここにいる天使だ。


 この一週間のやり取りでわかったこと。

 それは彼女が華世そっくりでありながら、まるで穢れを知らない無垢な少女であることだ。

 もしも華世が、悲惨な事件を体験せずにいたら。

 もしも年相応の少女に、平穏無事になれていたら。


 不謹慎な考えとはわかりつつも、そのIF(もしも)が体現された存在に興奮を禁じ得なかった。


「おはようございます、 ももお嬢様っ!」

「むにゃぁ……うーん。おはよー、えと……ミイナお姉ちゃん」

「オーーーウ……イエッ!」


 ミイナお姉ちゃん。

 華世に似た声で発せられたその言葉に、ミイナはこの世に製造された幸福を、少しばかりのストレス値がかき消えマイナスに行かんばかりの衝撃で感じ取った。

 ミイナの返答に首を傾げ、つぶらな瞳でこちらを見つめるまなこ

 そのかわいらしい顔をミイナは毎秒144回の頻度で脳内メモリーに焼き付ける。

 無骨な首輪さえなければもっと記録する価値が高まるのであるが、首輪は彼女がここにいる保証。甘んじて受け入れることにする。


「はぁ、はぁ……ふぅ……!」

「ミイナお姉ちゃん、どうしたんですか?」

「くふっ……何度でもお姉ちゃんと呼んでもらえる……これが役得……ぎひひ!」


 短時間に高頻度のアクセスで熱くなった額から冷却液を拭い、ミイナは部屋に入るときに押してきた衣装掛けを指差した。


「服です! お嬢様の服のどれが合うかわからないので、着せ替え撮影会……じゃなくてファッションショー……でもなく、お試ししましょう!」

「洋服? へぇこんなに! わかりました、やりますやりますー!」



 ※ ※ ※



「気に食わないね。ああ、気に食わない」

「……何がだ?」


 ザナミの玉座を前にして、レスは不満を吐露した。

 不満の根っこは、昨今の作戦の杜撰さ。

 魔法少女と呼ばれる敵対存在を不用意に増やしたくない。

 その題目のために、ホノカとカヨというふたりの魔法少女を潰し合わせた。

 カヨそっくりのツクモ獣をけしかけた。


 しかしその結果、この一週間のあいだにその三人が結託しかかっていることが、アッシュからの定期報告で明らかになっている。


「もう我慢の限界だ、僕に任せてくれ。そうすれば、全部の後始末をつけてあげるよ?」

「こりゃ! ザナミ様になんと失礼を!」

「爺さんは黙ってなよ……!」


 苛立ち紛れに床を踏み鳴らしながら、レスは一歩詰め寄った。

 眉間にシワを寄せるバトウ老人を、ザナミが手で制す。


「何か策があるのか?」

「任せてくれ……って言っただろ?」

「では好きにしろ」

「お言葉に甘えて」



 【9】


「ホノカ・クレイアです。よろしく」


 藍色の髪の少女が、そう名乗ったのは午前9時。

 中学生にして情報屋を営む秋山和樹のクラスへと今日、季節外れの転校生がやってきた。


 彼女の正体を、和樹は知っている。

 お得意様の華世から、数日前に聞いていたからだ。

 それにホノカという人物自体が、ここ数週間もの間、和樹が情報を集めていたターゲットそのものでもある。


「クレイアさんって、何か趣味ある?」

「別に……」

「ホノカさん、どこに住んでるの?」

「教えられません」


 クラスに入った新顔に、周りの皆が質問攻めにしてたのは、それから僅か数刻分の授業の後まで。

 彼女の寄せ付けないオーラというか、近寄りがたいクールさを崩せたものはおらず、来訪前の平穏さを取り戻すのはそう時間はかからなかった。


 そんな中でも、ホノカは静かにひとりで佇む。

 読書用のメガネを掛け、風景の一つのように教科書をめくり続ける彼女。 

 和樹は、華世の「変なことしないか、見張ってなさいよ」の言葉どおり、ずっとホノカを観察し続けていた。


「カズ、お前ずっとクレイアさんのこと見てるよな」


 昼休みに入り、ガヤガヤと騒がしくなった教室で、親友の拓馬が冷ややかに言った。


「別に、そうでもねぇっス」

「ははぁーん、お前……さてはあの娘に惚れたな?」

「違うッスよ! オイラはただ、姐さんの言いつけで妙な動きしないか見張ってるだけッス!」

「言いつけ……? あの子、悪者なのか?」

「えと、味方になったらしいスけど……」


 和樹は拓馬に、前に調べていたホノカの調査資料をチラ見せした。

 炎使いの魔法少女、ホノカ・クレイア。

 傭兵ポータルサイトに登録されている女傭兵・通称……灰被りの魔女。

 的確な可燃ガスの散布と、点火による爆破を使った人を傷つけない施設破壊が得意技。

 コロニー・アーミィに対しての攻撃依頼を優先的に受け、これまでに地球圏で8のコロニーにて基地襲撃を遂行済み。

 その正体は、クレイア修道院という施設に仕送りするけなげな少女。

 華世とどういうやり取りがあって、どういう経緯で転校にこぎつけたかはわからない。

 が、華世から見張りを頼まれている以上、目を離すわけには行かない。

 この見張りも仕事として受けており、すでに前金はもらっているからだ。


「待てよカズ。もし、彼女が味方になったフリをしているとしたら……なにかの合図を送ったりするんじゃないか?」

「いや、裏切ろうとしていると決まったわけじゃ……それに何かって何スか」

「えっと……狼煙のろしとか」

「のろしって……この時代にスか?」

「炎使いだから無いとは……あっ!」


 気がつくと和樹が談笑しているうちに、ホノカが教室を出ようとしていた。

 慌ててカバンを握って後を追い、気付かれないように距離を保ちながら尾行する和樹と拓馬。


「屋上庭園に上がるつもりだ」

「ほんとに狼煙のろしあげるつもりじゃないッスか……!?」

「まさか!?」


 屋上庭園。

 それは学校の屋上のいちスペースに設けられた憩いの場。

 もともと屋上は危険防止のために立入禁止だったが、学園モノのフィクションなどで屋上に上がりたがる生徒は少なくなかった。

 それを受け、花壇などを設け限定的に屋上を開放したのが屋上庭園である。


 とはいえ、開放されると階段を登る面倒さが勝ったのか、利用する生徒はごくわずか。

 そんな場所に上がったのは、明らかに怪しい。


「お前、何やってるッス……何スかそれ?」


 庭園へ繋がる扉を開いた和樹は、目にした光景に張った声を押し戻した。



    ───Hパートへ続く

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