第1話「女神の居る街」【Jパート 帰路】
「華世ちゃんってさ、ひどいよね~」
ガタンゴトンと揺れる、列車の中。
華世の正面に座って駅弁を食べていた咲良が、唐突に前のめりにして顔を近づけながら言った。
「……咲良、何が言いたいの?」
「リリアンって娘のこと。お母さんが死んだとわかってすぐなのに、あんなに突き放すことは無いんじゃないかな~?」
「あたしはね、弱者を虐げる連中も嫌いだけど……自立しようともしない弱者も嫌いなの」
屋敷から離れる時に変身を解除したことで、元の人工皮膚に包まれた右腕を窓枠に乗せながら、華世は外の風景に目をやる。
流れるように過ぎ去っていく田園風景が、いやに眩しい緑を放ちながら華世の目を刺激する。
「華世ちゃんは厳しいね~。それはそうと、今日の戦いでやっぱり魔法使ったの?」
「は? 言ってなかったっけ。あたしは魔法は使わないの」
「魔法少女やってるのに~? ほら、シャンデリア受け止めたり銃弾投げ返したりしたじゃん」
「あれは、義手の手のひらに内蔵されているV・フィールド発生装置の力。あたしは火力として信頼できない魔法を使うつもりはないの」
「ちぇっ、つまんないの~」
ふてくされたような顔で頬をふくらませる咲良。
しばらく華世と一緒に窓の外を見ていた彼女は、ふと思い出したかのように手のひらに拳をポンと置いた。
「そうだ、せっかく時間が有るし……華世ちゃんが魔法少女になったきっかけとか聞きたいな~」
「ええー……」
「だって私が来たときにはもう魔法少女だったでしょ? だからそれ以前のこと、相棒として知っておきたいかな~って」
「別に……いいけど。面白くないかもしれないわよ?」
「華世ちゃんの体験談だから面白いに決まってるでしょ。んでんで、魔法少女になった経緯は何かな~?」
「はいはい、仕方ないわねえ。どこから話そうかな……あれは2週間くらい前だったかしらね」
緩やかに走っていく列車の中で、華世は少しずつ思い出を綴った。
それは、始まりの物語。
ひとりの少女が、力を得るまでのストーリー。
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登場戦士・マシン紹介No.1
【マジカル・カヨ】
身長:1.56メートル
体重:63キログラム
葉月華世が「ドリーム・チェンジ」の掛け声で魔法少女に変身した姿。
変身の際に義手を覆う人工皮膚が衣服の一部という判定を受けるため、この姿だと鋼鉄の右腕が顕になる。
義手は様々な機構や武器が搭載されているため非常に重く、体重の内10キロほどは義手の重量である。
魔法少女に変身することで、恒常的に身体能力の強化、および耐久性の上昇を受けることができる。
しかし華世はこの恩恵以外の魔法を使うことを拒んでおり、攻撃はすべて身体能力と義手を使ったものとなっている。
義手の機能として、手首のあたりから切り離し、ワイヤーで繋がった手を発射する機構がある。
これは離れた場所にある物を掴む他、相手を掴んで手繰り寄せたり、壁を掴んで移動することが可能である。
また、手の指先にはスライドして鉤爪となるパーツが備え付けられており、肘のあたりの軸から高速回転する機能と合わせて凶悪な貫手を行うことが可能。
加えて、手首の付け根には殺傷力の低い極小口径の機関砲も存在するため、低火力であるが遠距離攻撃も可能である。
防御兵装として、義手の手のひらにV・フィールド発生装置が取り付けられている。
これは、装置正面に物体の運動ベクトルを操る渦状の力場であるヴォーテックス・フィールドを形成することで、銃弾や落下物などの運動エネルギーを消失させることが可能。
また、逆にフィールド内に確保した物体に運動エネルギーを与え、任意の方向に射出することもできる。
銃弾を投げ返すなど非常に強力な機構であるが、非常に多くの電力を消費するため連続稼働には向いていない。
義手と生身の境目となる肩の辺りにはマグネットで「斬機刀」と呼ばれる太刀が備え付けられている。
この刀はカイザ鋼という特殊金属によって作られており、戦闘兵器の装甲であっても豆腐のように切り裂くことが可能。
様々なギミックを備えた鋼鉄の右腕を持つことから、「鉄腕魔法少女」という通り名を持つ。
なお、「マジカル・カヨ」を略して「マジカヨ」と言われることを華世は非常に嫌っている。
【次回予告】
それは運命の日の記憶。
力を欲する少女と、少女を欲する力の出会い。
たったひとつの願いのために、少女は戦いに身を投じる。
次回、鉄腕魔法少女マジ・カヨ 第2話「誕生、鉄腕魔法少女」
────少女の狂気に、怪物は慄いた。




