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スペルランカー2  作者: 六青ゆーせー
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屋根の上の戦い

チェコはパックを見て。


「俺、今度、武術大会に出るんだよ。

パック、俺に稽古つけてよ!」


パックは、猫獣人のまんまるな目で、チェコを見ていたが。


ニィと笑って。


「いーぜ、言っとくけど、怪我したって知らないからな!」


二人は楽しそうに外に出た。


ルーンは、えー、と頭を抱えたが、遅れて席を立つ。


バトルシップの横の路地で、二人は刃物を抜いて向き合っていた。


「おいおい、いくらなんでも真剣を抜くなよ!」


チェコは、貴族が常に腰に帯びる細身の護身刀だが、パックは両手に三十センチほどのバトルナイフを、刃を肘側にして握っていた。


「ケケ。

殺しゃしないって…」


目をギラギラと輝かし、パックは喉で笑った。


子供とは言え、刃物を煌めかせた二人を、ダウンタウンの人々も、息を飲んで見守った。


ルーンの腰に、とん、とチェコを呼びに来た子供がしがみついてきた。


チェコが貧民窟で支援をしているのは聞いていたが、子供は、身なりはボロボロだったが、思うより清潔で、臭いもなかった。


それに気がつくと、ルーンは無性に腹が立ってきた。


「おい!

チェコは困った人たちを、助けているんだぞ!

金のために、そんな人間に刃を向けるのかよ!」


ちら、とパックはルーンを見て、


「お前に金の価値は判らねぇーなぁ。

ホントに死ぬほど貧乏になってねーからなぁ」


言うと、パックは、獣人にしか、なし得ない二階の屋根を飛び越えるようなジャンプで、チェコに飛びかかった。


相手から攻撃されない、高高度から、自分だけが攻撃する。


ガニオンがパックに教えた、優れた戦術だ。


が、チェコもひらりと、二階へ飛び上がる。


パックほどの跳躍力はないが、適切に足場を見つけて、三歩で二階の屋根に登ってしまう。


「カカッ、お前、やっぱり鍛えてるね!」


言いながら、しなやかな筋肉でパックは空中で体をひねり、屋根に降りると、同時にチェコに襲いかかった。


パックは、いつの間にかブーツを脱いでいる。


猫の足は、爪先だけで走る事ができ、腿、膝、かかとの三つのバネを使って、しかも肉球で足音を消し、爪という天然のスパイクもつけて走れる。


加速は、人間業ではない。


まさに馬のような速度で、パックは屋根を走った。


チェコは剣を正面に構え、腰を落とす。


ま、基本の構え、って奴だな…。


パックは思う。


基本は大切だが…。


パックは、なお加速する。


基本じゃ俺とは戦えないぜ…。


なにしろ獣人なのだから。

基本は、人と人の戦いのためのもので、獣とは戦えない。

猟師はそれを知っているが、戦闘者は往々にして、それを知らないのだ。


パックは加速を維持したまま、ジャンプした。


飛びかかった、と言ってもいい。


その速度は、もはや矢に等しい。


基本の構えで、交わせる距離ではなかった。


勝ったな…。


微かにパックの頬は緩んだが、チェコは滑るように前に動いていた。


屋根には、当然傾斜がある。

その上を、チェコは、走った。


矢の速度で、至近距離から跳んだパックに対して、チェコが動けたのは、正味二歩だった。


横に登り、一歩踏み出す。


その二歩のうちに、前に出していた剣を脇に構えていた。


パックのバトルナイフと、チェコの剣が、凄い音を立ててぶつかった。


火花が、散った。


素早く着地したパックは、一瞬でチェコの懐に入る。


いつもならチェコの方が圧倒的に小さい事が多いが、パックはチェコより小柄だった。


しかも、ブーツを脱いだパックは、かかとを関節として使っている。


身を沈ませたときの低さは、チェコの比ではない。


そこから、ゼロ距離でパックは、猫パンチを繰り出す。


猫パンチと言うと、愛玩動物らしい、他愛もない手打ちのパンチのように人は感じるが、そもそも四足動物である猫は、片足に体重をかけて相手に拳をぶつける、等という不合理な戦いはしない。


ボクサーを見れば解るように、人のパンチのほとんどは外れるのだ。


その中で、格闘技は、大きくはバランスを崩さぬように攻撃する術を身につける。


ボクシングのステップも、空手の足さばきもそうしたものだ。


そもそも猫は、手に生まれながらの刃物を身に付けている。


相手にぶつけさえすれば、それで敵は傷つき、勝手にダメージを増やしていく。


バックの両手のバトルナイフも、そんな猫の爪と同じものだった。


下手に腰など入れずに、ただ刃を相手に当てれば良い。


人間の首から上ならば、そのどこに当たったとしても、相手は戦闘不能に近いダメージを受けるのだ。


そのパックのみぞおちを、チェコは膝で蹴飛ばした。


パックは手打ちだから、その分、チェコの動きはよく見える。


背後に倒れるように、ふらりとパックは蹴りをかわす。


それを見越していたかのように、チェコはパックの肩口に剣を振り下ろした。


倒れているパックは、ただ使っていなかった方の手のバトルナイフで、チェコの剣を受け止めた。


そのままパックは、チェコの剣を手で掴む。


人間であれば血だらけになるし、指は精密な器官なので、腱でも切れば不治の傷を負う。


が、パックは猫獣人であり、その指には、普段は引っ込めてはいるが、ちゃんと固い爪が収まっている。


バトルナイフと五本の爪が、チェコの剣をロックした。


剣を引かれて、屋根の傾斜の上で、チェコはつんのめる。


そこに、一度はチェコに交わされたバトルナイフが、再び、突き出された。

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