資金源
「俺は、外から来たんだ」
チョコが陵墓の森にポツンと立っている獣人に答えると、チェコより小柄な、猫の顔の獣人は鼻を鳴らして、
「俺さー、あっちから枝を伝って来てたんだよ」
どうやらハイロン準爵の屋敷の方向から、木の枝を伝ってここまで来たらしい。
普通の人間には、絶対不可能な行程だが、この猫の獣人ならば、確かに、ずっと崖にも、木というか、草というか、蔦というか、植物はポツポツと生えており、また岩場も、足場には不自由しなさそうなので、辿れそうだった。
「大変だったね…」
チェコは内心、興奮していた。
獣人と会うのは初めてだったからだ。
可能ならトレースしたい。
「えーと、向こうの、なんとか言う貴族のところの子?」
あえてハイロンの名は知らない風に、チェコは聞いた。
「俺はパックってんだ。
この森にゴブリンがいると聞いて、見に来たのさ!」
ヘヘン、とパックは勝ち気に笑った。
ではドリアンが雇ったとか言うスペルランカーか!
思ったが、それにしてはパックはあまりにも幼い。
他人から見れば、チェコも、同じようにみられている、とは気がつかずに、チェコはスペルランカーの弟、と言ったところか?
と考えた。
だが、ベルトを見ると、パックの腰には、一周回るほどスペルボックスが付けられている。
当のスペルランカーか、その仲間かは判らないが、パック当人もかなりのスペルの使い手であるのは、間違いなさそうだった。
警戒すべき相手だが、しかし獣人でありスペルランカーだと言う興味の方が先に立った。
「スペルボックスがたくさんあるね?」
つい、聞いてしまった。
「そうだろ!
ジモンやガニオンにもらったんだぜ!」
躊躇なく中身を見せた。
軍事スペルが充実していた。
ロープ、ナイフ、携帯食などや、地雷、火山弾など禁止カードも豊富に入っている。
赤と緑のスペルランカーらしく、その色のカードも多かった。
が。
それ以上に、石化や石のゴーレムが満載だった。
「凄い量だね?」
と聞くと、
「へへへ。
人でも動物でも、相手の武器でも石にできるんだぜ。
そして、石のゴーレムでこっちの召喚獣に変えられるんだ。
スゲー、便利なんだぜ!」
確かに便利だよなー、とチェコの心も動いていく。
ただし、ゴーレムデッキ同士の戦いになると、いかに相手にダメージを与えるのか、ダメージソースに苦慮することになる。
チェコが、遊びでデュエルをやってる子供を装ってそう語ると、パックはムフフン、と鼻の穴を広げて、
「緑なら、このイカロス。
五/五飛行で、アンチスペル。
つまり、これは敵も味方も、どんなスペルもかからないのさ」
これはチェコは初見のカードだった。
「スゲー、どこで買ったの?」
んー、とパックは考えて、
「アンテルタンだったかな?」
パウリー候国の隣国の小さな国、とチェコも判った。
チェコはさっさと春風亭へ急いだ。
ここなら、世界のカードも手に入る。
なにしろ名門カード卸し問屋なので、しばらく待たされたが、木の箱に入ってイカロスが運ばれてきた。
「高いよなー、五百リンだって…」
ブルー弟の脱色代がパーになってしまった。
この際、錬金術師の看板でも出せればいいのだが、名門ラクサク家がそのような商売を始めるわけにもいかない。
ブルー弟の方は、チェコの施術のかいもあり、あのゴリラの寵愛を得たものらしく、すっかりチェコに心を許してはいたが、しかし、誰も彼もが同じ髪を手に入れてしまったら、それも台無しだ。
なので評判を流してはくれなかった。
「なんか、パッとお金が稼げないかなー」
「ああ、チェコ様!」
僧侶姿の少年が声をかけてきた。
コクライノ大聖堂で神学を学んでいる少年牧師の一人だ。
「今、ちょうどあなたを探しているところだったのです」
へ?
少年牧師とは、挨拶しか交わした事はなかった。
至極真面目な性格の少年のように見えた。
「実は、大聖堂のパイプオルガンが壊れてしまいまして、その修理ができるのは、なんでもリコ村のダリア様だけだ、という話なのですが、チェコ様はダリア様とお知り合いとかお聞きしまして…」
「俺が直すよ!」
どのみち、チェコとパトスがいなければ、ダリアにも修理は無理だった。
狭いオルガンの中には入れるのはパトスだけなのだ。
「あー、芯が折れてるねぇ…」
チェコとパトスはオルガンの中に入って、調べた。
「なんか、あまり手入れが良くないけど?
パイプにも幾つも亀裂があるし、錆びてる部分も多いし…」
「なんとかならんかの?」
チェコたちに講義をしてくれた司祭も、心配そうだ。
「全部いっぺんに、六百で直せますよ」
サービス価格だったので、二つ返事でチェコは仕事を得た。
「教会で口を聞いてくれないかなー」
チェコはホクホクと屋敷に帰りながら、財布を叩いた。
定期的に錬金術の仕事でもあれば、ランカーとして満足いくデッキも作れそうだが、そうでもないとスペルを買うのは、なかなか難しい。
まあ、そう言いつつも、まだ自分のデッキも固まっていないチェコだったが…。




