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スペルランカー2  作者: 六青ゆーせー
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金塊

急ピッチで貧民窟に畑が作られていた。


地質により、下水が浄化させられるので、陵墓の池は養殖池に転用出来たのだ。


それならば味の良いタニシなどを育てられ、川魚の種類も増える。


だけでなく、池には、海老など取ってきた覚えのない生き物まで泳ぎ始めていた。


畑の土壌改良にどぶ貝を使ったのだが、下水道の下に溜まった汚物は、ちょうどよく水に晒され、質の良い肥料となった。


日に日に活気の出てくる貧民窟を見ながら、ドリアンは複雑な胸中に顔を曇らせていた。


ゴブリンを狩るなど、到底ドリアンの手に追える作戦ではないのだ。

もし、それほどの戦いの腕があったなら、ドリアンは憲兵になどなっていない。


憲兵は、兵士のうちで、憲法の理解などの高いものが任命されることになってはいたが、現実には実戦についていけない兵士が、必死に憲法を覚え、勤めているのだ。


人を食う怪物などとどう戦えと言うのか…?


しかし、ハイロン準爵の意向に逆らえば、ドリアンに出世の道は閉ざされる。

偶然知り合ったハイロン準爵の便宜を図ることで、ドリアンは今の地位を築いていた。


今のヴァルダヴァの社会で、貴族でないものが地位を得ようと思ったら、とにかく細い糸でも草の葉でもたどって、貴族にすがるしか仕方がないのだ。


それにしてもチェコとかいうラクサク家の五男は変わっていて、山の民だの貧民だのに肩入れをして飽きる事がない。


今も泥だらけになって下水から出てきて、貧民と一緒に清水池で体を洗った。


貧民の子供とゲラゲラ笑ってふざけている。


到底、まともではなかった。


だが、彼は山の英雄であり、二万の軍を退けた猛者であった。


つら…、とドリアンは考えた。


この猛者とゴブリンが戦えば良いのにな…。


この考えは、徐々にドリアンの中で膨れ上がっていった。





ゴーレムデッキは、既に猛威をふるい始めていた。

初手で出てくるゴーレムは三/三、四アースと凡庸なのだが、殴られるには三ダメは痛すぎる。


しかしブロックすれば、それもゴーレムに代わり、除去すれば、最後に強化装置で巨大化したゴーレムを防ぐ除去の手数が減ることになる。


なにより石化という優秀なスペルを失ったデッキは、動きが鈍かった。


「通常の除去スペルじゃ、必ず押し負けるんだよ!」


今日のルーンは怒っていた。


「なにしろ、忘れられた地平線が出たら、もう手も足も出ないんだからさ!」


アイテムを全破壊する錆びの嵐、も常備しているのだが、溶鉱炉を守られるとヒドイ事になる。


一つ一つのカードは注意して打ち消しスペルを使えば良いのだが、問題は、数が膨大、という事だった。


石化、岩のゴーレム、岩のゴーレム化、忘れられた地平線、軍隊旗、どれも無視できない。


打ち消しスペルが間に合わない、となると、早いデッキを画策しなければならなくなる。


ゴーレムより早く動き、速度でゴーレムデッキを制するのだ。


だが、それには黄金虫でも、まだ遅かった。




「ふむ、兵がもっと必要か?」


ハイロン準爵は、ガウン姿でくつろぎながら、パイプを燻らせた。


たばこは高級な輸入品で、準爵風情が普通は自由に吸えるようなものでは無かった。

ダリアは吸っていたが、それは自分で育てていたためだ。


「はい…」


とドリアンは絨毯から外れた板の間に跪き、


「しかも兵士を動員する事はできません」


元々、陵墓は不可侵のものであり、だから、陵墓の周りに貧民が集まり、貧民窟を形成しているのだ。


だから、貧民が周りの国土を耕したり国家のものである木を切ったりするのは罰する事が出来るが、貧民窟そのものへ手出しは出来ない。


確かヴァルダヴァ国王の名を持ってしても不可能であったはずで、地下は別な、おそらく陵墓の所有者の管轄なのだった。


だから、下水は貧民が大手を振って働けるのであり、これを憲法では裁けない。


「ですからゴブリンを狩るには兵士では無いものを探さないとならないのです…」


事実上、不可能、とドリアンは言いたかったのだが…。


「ホホホ…」


ハイロン準爵は高笑いと共に、どさり、と金の詰まった袋を投げた。


「これで無頼のものを雇うが良い。

なんであったか?

そう、スペルランカーとやらだ!」


これだけの金をどこから、とドリアンは目を丸くしたが、ハイロンは甲高い笑い声を屋敷に響かせた。




朝、チェコが学校の廊下を歩いていると、昨日戦ったブルー弟が目敏くチェコに近づいた。


あいにく、ヒヨウはどこかへ歩み去っていた。


無論、戦って負けることはないだろうが…。

嫌な感じだった。


「やあ、ラクサク伯爵、昨日は済まなかったね」


ブルー弟は、卑屈そうに薄笑いを浮かべた。


「え、いや…、こちらこそ、授業の事とはいえ、先輩に失礼を致しました」


戸惑いながらも、チェコも社交辞令を返した。


「実はね…」


猫なで声で、ブルー弟はチェコの頭を撫でた。


「僕、君の髪が気に入っちゃったんだ。

確か薬を分けてくれる、って言ってたよね?」


ああ、とチェコは笑った。


ルーンのレシピに手を加えれば、髪色などいかようにもなる。


「簡単ですよ。

それに、もっと綺麗な髪にも出来ますよ。

水に濡れても落ちないような、ピカピカの金髪に」


ブルー弟の顔が輝いた。

シルプルに彼の琴線は美容であったらしい。

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