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スペルランカー2  作者: 六青ゆーせー
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カーマ神

チェコたちは、エルフのログハウス村に入っていった。

村では、大きな釜を出し、蒸気を集めていた。


「おー、お酒を作ってるのか」


「ああ、ちょうどエルフ酒の仕込みだな。

今月はずっと、あれに忙しい」


ヒヨウは言いながら、エルフたちの間を抜けて行く。


蒸留した酒は、樽に流し込んでいく。


エルフの村人十数人が、五つの釜を出して賑やかに騒ぎながらの作業だった。


子供たちが走り騒ぎ、老犬がめんどくさそうに追いかけている。


猫は屋根で昼寝をしており、豚、ニワトリ、ヤギ、牛が午後の時間を飽きたように欠伸をする。


思うより、ずっと普通の村の風景だった。


チェコはしかし、珍しそうに村を眺め、


「大きな子供はいないね?」


「ああ。

子供は早くから読み書きや計算を習い、十の頃から本格的に山に入る。

その頃には、みなナイフや山刀、弓は使えるようになる。

十五には成人の儀式があるからな」


「あー、先祖に会う、とか言う」


凄くワクワクする儀式だった。

直接、先祖と出会って話ができるのだ。


「まー、やりたければ十五ですればいい。

今回は十三の儀式だな」


「あ、なんか聞いた気がする」


「守護聖獣を選び、右手に入れ墨を彫るのだ。

それでアースが増える」


「おお、たった三日でアースが増えるなんて、さすがエルフ!」


チェコは飛び上がるように喜んだが、


「楽だと思うのは今のうちだけだぞ」


背後から声がした。


「あ、ナミ!

久し振り!」


チェコは飛び上がった。


「よーチェコ!

今じゃ御殿に住んでるんだって?」


「ヒヨウも住んでるよ!」


アハハとナミは笑い、


「今日からは穴蔵を這い、泥水を飲む三日間だ。

特にカーマの儀式は過酷で有名なんだ。

泣くなよ」


ヒヒヒ、と意地悪くナミは笑った。


「そうだ!

俺の神様なんだよね?

どんな姿なんだろう」


教会では、神は一人であり、聖堂の中央には白髭の全能の神の立像があった。


「おー、見てみたいか?」


というナミに、ヒヨウが慌てた。


「ナミ!

それは非公開なんじゃ!」


「構わんよ。

何でもかんでも隠し過ぎるんだ、上は」


と言って村の奥に進んでいく。


井戸を過ぎ、倉庫らしき建物の並びを通り過ぎて、巨大な塩杉の並ぶ森林を過ぎると、前に見た寺院より小さな、藁屋根の小屋があった。


一メートル程度の高床になっているのを、トントンと階段を上り、正面の閉じた分厚い両開きの木の扉を、ギィと開けた。


蝋燭が二つ、間隔を開けて灯っていた。


入り口を除く三方に、壇が築かれ、像が幾つも並んでいる。


「さて、一番こっちの神は農業神ミギィ、そこからズラッと十三神が並んでいる。

中でも、最もレアで、ほとんどいないのが、このカーマ神」


とナミは反対側の端まで歩いた。


木の枝に、カーマ神が止まっている姿らしい。


木の枝は、おそらく原木のままだ。


そこに、鷲のような、頑強な爪を食い込ませ、獣とも鳥ともつかない、だが両手は人間によく似た神が、身を伏せるように休んでいる。


目は、宝石でも入れているのか赤く輝き、鋭い嘴が開いて、太い舌が、叫びを上げているように空中に突き出ている。


片手に両刃の剣を持ち、片手に五角形の立体を持っている。


「左手に剣を持ってるね?」


「ああ。

武器というのは、左利きだと、それだけでも有利だ。

相手の盾を無力化できる」


「おー、俺、今度から左利きになる!」


チェコは喜ぶが、ヒヨウは、


「無理にやってもダメだ。

本当の左利きというものがある」


「本当の左利き?」


「ああ。

ま、どっちが力が強いか、ってのだな。

生まれつき、体の筋肉が左利きか右利きか、決まってるんだ」


と、ナミ。


「俺、両利きなんだよな…」


と、チェコは悔しがった。


「まあ、そんなのはいい。

右手の五角の立体は、魔法を現す。

ま、今で言えば、カードと思えば良い。

カーマは、どちらにも秀でた、まさに武の神なんだ」


「エルフの暦では十二の神が並び順に巡っているが六十年に一度、カーマの年が来る。

日にちも同じで六十日に一度、カーマの日が来る」


ヒヨウは解説した。


「おー、俺はその年に当たったのか!」


「カーマの年の、カーマの日に当たった者だけがカーマ神の守護を受けるのだ」


「おー、レアだね、俺!」


さすがに、アルギンバにしてカーマ神の星の下に生まれる者など、そうはいない。


さすがに儀式を授けるのか迷ったヒヨウだが、長老は、必ず授けなさい、と語り、担当をナミとした。


これは相当リアルな儀式になりそうだった。


最近は簡略化され、軽い祈祷で済まされる事も多い守護聖獣の儀式だが、大真面目にやるとなると、三日間、山をさすらうことになる。


チェコはまだ、何も知らずに、嬉々としていた。

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