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スペルランカー2  作者: 六青ゆーせー
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銀嶺山へ

銀嶺山には、途中まで街道道を使う。


これは馬車の走りやすい、石で舗装された道で、速度もだいぶ出る。


一時間ほどで、コクライノの丘の北側から小さく見えていた銀嶺山は、灰色の岩壁のような山脈なのが分かってきた。


やがて森の中の砂利道に入っていき、銀嶺山麓の町、サラについた。


遅い昼食を、馬車を預ける宿屋で取った。


糸のように細いヌードルの入ったスープと、驚くほど太いソーセージが二本、それにマッシュポテトの昼食だ。


そこからリュックを背負って銀嶺山に入っていく。


山道かと思ったチェコだが、五十段の階段を登ると、藁屋根の、木造の巨大な建物に出た。


「これはエルフの寺院だ。

協会とは違う教義を持っているが、それはおいおい話すとする」


花を捧げて、寺院の横の階段を登ると、二百段、長い石の階段が続き、その先に、小さな祠があって、やっと山道になった。


階段の苦手なパトスを下ろせたので、チェコはだいぶ楽になった。


「ナミのいる山小屋に、日が暮れるまでに登らないとめんどくさい。

なにしろ、話したように吸血鬼がいるからな。

まず、急ごう」


黒龍山の神の道、のようなものは無いようだった。

それは普通の山道だった。


「もっと上にはあるぞ」


と、ヒヨウ。


「黒龍山にも、麓の道は白砂利なんて敷いていなかったはずだ」


そういえば、そうだった。

チェコがキノコ狩りに入ったような麓には、特に神の道などはなかった。


「あの辺は、そもそもゴロタの縄張りだ。

ゴロタに出会う危険はあるが、その分、ゴロタに守られて、とんでもない化物はいないはずだ」


まー確かにオバケの類いは、一撃で食われるようなのはいなかった。

山女、夜の子供、気を付ければなんとかなる奴らだ。


ジャガーや食中植物、ドゥーガなど、自然がかなり危険ではあったが、今のチェコなら、スペルで対抗できる。


「まあ、この山はエルフの霊山だから、あの辺よりはだいぶ安全だ。

今は安心して歩けばいい」


「鬼の古井戸は霊山じゃないの?」


チェコはてっきり、あれがエルフの本拠地なのかと思っていた。


「あそこは、エルフが安全のために守っている場所だ。

もし、あの辺の価値に気がついた、前のマッドスタッフのような頭のおかしい魔術師、錬金術師などがいたら、殺してでも我々はあの場所を守る義務があるのだ」


「ふぅん、価値?」


「あそこには世界樹ネルロプァもあるし、そもそも冥府に繋がった場所だ。

冥獣アドリヌスがどうなったか覚えているだろう。


つまり、あそこにはある種の魔法的エネルギーが絶え間なく大量に集まっているのだ。

過去には邪悪な魔術師があそこに目をつけたことが何度もある。

そのために、俺たちが居を構える事に決まったわけだ」


なるほど、冥府に直結する穴が、あそこにはあるわけだ。


チェコは納得するが。


「なんか、この森、いい匂いがするね…」


なんとも清々しい、爽やかな香りだ。

花の香とは、また違う気がする。


「ああ。

これは塩杉の木の匂いだ。

エルフの聖地なので、ここには大量の塩杉がある。

その芳香は、例えようもなく素晴らしい」


森は、エルフによって整えられた歩きやすい道で、チェコたちは、軽やかに森を歩き、二時間ほどで山小屋についた。


「あれ、木の家じゃ無いんだね?」


話しに聞いたプラゥモゥルのようなものを、チェコは期待していた。


「ここは聖地なので、あーいったものは建てられない。

神様より上に住む、事になるからな」


「あーなるほどー」


と、思いつつも、チェコは。


「でも、ここでも、あの寺院より、だいぶ高いよね?」


「神がいらっしゃるのは、銀嶺山の山頂なのだ。

高さは、つまり標高ではなく、地面をゼロとしたときの高さ、と言えば分かりやすいかな。

それが完全に正しい訳ではないのだが、聖地の考え方は複雑だから、そう思ってくれていればいい」


「なるほど。

塩杉の木の家には、高さが寺院より高くなるから住めないんだね」


「そうだ。

古井戸の森は冥府に近い場所なので、我々はわざと高い住居に住まう。

あれはあれで理由がある」


山小屋は、ウェンウェイが作っていたログハウス的なものだ。

ただし、村のように集落を作って沢山並んでいる。


簡素な柵が巡らしてあり、入り口に番人がいた。


「おー、チェコか。

久しぶりだな!」


「え、タカオ!

生きてたんだ!」


戦争になって、最初に杣人の村のイガたちとグループを組んだとき、リーダーになったタカオだった。


確か、裏切り者アイダスの策にはまった責任を取って囮となって森に消えてしまった。

ヒヨウは生きている、と言ったが、まろびとの村でも会わなかったし、死んだもの、と思っていた。


「俺は、そのままエルフの仲間と、木の上で敵軍を撹乱していたからな。

皆には心配をかけてしまったな」


「そーだよ。

みんな、きっと死んだと思ってるよ!」


チェコは、やや不満げに語った。


「生きている、とは教えたはずだが?」


とヒヨウは首をかしげている。


「いや、あの状態だし、気休めにしか聞こえないでしょ!」


「こいつは、ちょっとこーいう奴なんだよ。

人情とかに疎いんだ」


ヒヨウなりには、深い情を持っているが、やや他人とはかけ離れている、ところがあるのかな、とチェコは思った。


「あの戦争で、エルフも千人規模で出撃していた。

顔を会わせられなかったのは悪かったが、戦うことが一番だったからな。

怒らないでくれ」


タカオはチェコの肩を叩く。


確かに。


二万の敵が押し寄せて戦争になっていたのだ。

みんな、全力で戦ったし、まず勝つことが一番だった。


「無事を知って安心したよ。

でもイガたちは、知ってるのかな?」


杣人たちは、死者も出たし、本当に大変だった。

その他、アイダスも元々、あの村の出で、亡くなった一人だった。

確か、許嫁もいたはずなのだ…。


「あー、葬式のとき、俺も顔を出したから杣人の村では分かってるよ」


「葬式なんかやったんだ。

俺、全然急がしくって…」


チェコは恥じたが、


「俺が教えなかったのだ」


と、ヒヨウが語った。


「アイダスの事とかになったら、難しいと思ったのでな」


確かに…。


あの村で、アイダスは英雄だった。

とにかく、それの命を奪ったのは、確かにチェコだった。


外道となって不死の怪物だったアイダスを、辛くも倒した、というのが真実だったが、親しい人には理解しずらいかもしれない。


「ま、その辺の事情は、実はちゃんと話していないんだ」


とタカオ。


「え、そうなの?」


「なにしろ、アイダスはあの村の英雄だからな。

名誉の戦死、と信じている」


なるほど。

その方が良かったのかもしれない。


「お前が殺した、とは話していないから、特に村でお前を恨む者はいない」


とヒヨウも語った。


それで良かったのかもしれなかった。

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