二度と繰り返しはしないで……
(魔法はだめ……角は危険……ならやることは1つ!)
ババリザリスはわたしに向かって突進してきている。このままじゃさっきと同じ、刺される。でも、同じミスなんてしない。
「わたしは強いよ!」
助走もなく地面をけって、自分の身長よりよっぽど高く舞い上がる。常人じゃ絶対にありえないこの跳躍。わたしの下をババリザリスが通り抜け、止まることが出来ずに走り抜けていく。
「魔法は攻撃に使うだけじゃないよ!」
最高点に達したところで、風の魔法を上空にに向けて放つ。その反動で、わたしの体は普通の落下速度より早く、そして斜めに角度が付いてババリザリスに向かう。まるで、空中で地面をけったかのような、ありえない動き……!
そして、なんとか止まりきったババリザリスの背後 (上空?)から、一気にバットを振り下ろす……!
「えいやっ!!!」
『ボコ』ってすごい鈍い音がして、ババリザリスの体の鱗の一部が割れて、地面に落ちた。それと同時に本体も地面に倒れ込み、数秒まって、触れてみたりしても全く動かなくなった。死んだフリ……とかじゃなさそう。倒しちゃった。一撃で。
「ユイちゃん! 大丈夫ですか!?」
もう安全、そう分かったのか髪を揺らしながらメルが走ってきた。……自分の名前を呼びながら心配そうに走りよってくるお姫様、悪くないかも……なんてね。
「平気だよ! 知ってるでしょ、わたしは強いって。」
(まあ、ホントは死にかけてたけど……)
安心したのか、メルは屈みこみババリザリスに触れながら喋り出す。
「……それにしても、ババリザリスを一撃で……私が思っていたよりも強い……です。なんだか、ユイちゃんに戦いを教わる自信が無くなってきます……。」
少し覗き込むと、安心感と不安の混ざる表情で呟くメル。そんな顔されても……っていうか、
「一撃は確かにわたしもヤバいと思うけど……普通の人、普通のゴールドランク冒険者はババリザリス倒すとしたらどれくらい時間かかるの?」
よくよく考えたら、わたし……普通の冒険者のことなーんにも知らない。リズとかマリアは普通の冒険者だけど、一緒に依頼とかちゃんと行ったことないし、エルザは付き添いに来てもらっただけ、イブはそもそもなんか違うし。カレンは知らんです。
「私も詳しく知っているわけではないですけど……お父様の話を聞いたり、ギルドマスター様とお話させてもらった時に聞いたこと、そこから考えると……ババリザリスはかなり危険で手強くて、そもそもゴールドランクと言えども一人で討伐に行くようなモンスターではないらしいんです。少なくとも2.3人程度で……日が昇る頃に遭遇したとすると、夕日に照らされ夜が始まるくらいの時間に討伐が終わればいい方……との事です。」
「えっ」
(モンスターの退治ってそんなにおお仕事なの?)
ゲートとか使ってワープして、ちょろりと討伐して帰って終わり! とかだと思ってた。複数人で一日がかり、しかも命懸け? 超報酬高くないとやってられなくない????? 割に合う?
「……ユイちゃんが強すぎるのは凄いことですけど……その、あまりその力を言いふらしたり、自慢したり見せつけたりはしない方がいいと思います。」
立ち上がって、突然妙なことを言い出すメル。…………………………
「…………ああ、なるほど。」
だけど、すぐに理解出来た。正しくCheatって訳だ。みんなはきっと、場合によって年月をかけてやっとゴールドランクになって、そこから更に時間と命とお金をかけて、さらに沢山のお金を稼ぐ……そして、魔法は生まれながらの才能で、覆せなくて諦める人もいるはず。なのに、わたしは? 何もしないで、なんでも出来て、1分足らずで討伐完了。しかも、お姫様まで味方についてる。もしわたしが一般人側でわたしみたいな奴の存在を知ったら、考えられないくらいムカつく。許せないでしょ。
ナナミも言ってたね。『本当に人間と言える存在なのか』って。この力がライズヴェルのみんなにバレたら……きっと、そこにはいられなくなる。こんな常識外れの人智を超えたなにか、許されない。
「……メルはわたしのこと、受け入れてくれ……あ、やっぱなんでもない」
「?」
メルは首を傾げて、でも直ぐにまたババリザリスの方に向き直って何かを始めた。
(ここがまた複雑なんだよなぁ……そんな力があって人から恐れられそうなのに、女の子から好かれる……と。)
まあ、ここまで何とか上手いことできてるし、なんとかなるでしょ。何もかも偶然の積み重ねだけど、それも面白いってことで。
「ねえ、メル。倒したモンスターはどうするの?」
メルの隣りに座って、問いかける。……近くで見るとババリザリス気持ち悪いなぁ……。目とか直視したくない。爬虫類よりキモイ。
「ギルドを通した通常の依頼ならばギルドの職員の専門の人達が回収に来てくれます……が、今回は勝手にやってしまったので、あとで私が城の兵士に伝えておきます。今回だけ、特別です。」
笑顔で、『約束』とでも言いたげなポーズのメル。
「はーい」
(特別、なんて言うけどメルのせいじゃん)
ここに呼んだのも、倒していいって言ったのも……。
「だいぶ予定と変わってしまいましたが……流石に今日は帰りましょうか。ユイちゃん、私に掴まってください。」
「……! もしかしてあれ!?」
メルの手には不思議な石が。あれってあれだよね、あれするやつ!




