運命に射抜かれた女神
「……例え凶暴で鋭利な角で貫かれようとも、神さえも超える力を宿したお嬢さんなら死ぬことはございません……とはいえ、無傷というわけでも済みませんな。多少なりとも傷を負い、堕ちた女神を捉えることが出来なくなる……それはワタクシにとっても大変困り事。」
「は……?」
刺される……そう思った瞬間、わたしの視界に映る世界は動きとをとめ、色を失った。ただ1人、突如現れた女神……ナナミを除いて。
「とはいえ、このようなことは今後一切ございません。毎度毎度このように助けてしまえばお嬢さんの世界からは生きるか死ぬかの紙一重の緊張感もなくなり、味のしないガムのような価値のないものに成り果てますな。これは忠告、改めての宣言……七海ユイ、おまえは本当にあの黒き女神を止めて世界を救う覚悟がございますか?」
ナナミは飄々と、寄席かなにかでもしてるかのように語りかけてくる。相変わらずその真意はまるでわからない。けど……
「覚悟って……やれって言われたからやってるだけだよ。そりゃあほかの世界に迷惑かかるみたいだし、それがわたしの元いた世界とかだったら嫌だけどさ……覚悟とか、そんなふうに言われたらわたしの答えは『そんなの知らない』だよ。女神の勝手な争いに巻き込まれて、色んな人の協力を得るとか……わたしの知ったことじゃないから! そんなの、全知全能の女神のナナミがやってよ!! それともなに!? 口だけでホントはナナミは何も出来ない無能の女神なの!? どこの世界でも現実でも創作でも神様ってのはみんな自分勝手すぎ!!」
「ふむ……ふむふむ…………たしかにワタクシも、何の因果も背負わない一般人にはこんなこと押し付けなりはいたしません。が、しかし。お嬢さんもわかっているでしょう。七海ユイという人間は最早単なる一般人とは言えません。一度その命を散らし、女神の関与せぬ何処かで人智を超えた力を手にして再び現世に君臨せし少女……ワタクシ出なくともそれを知れば皆言うはず……『お前は人間では無い存在に成り果てた』と。」
「っ……」
周りの時間は止まって風は吹いていないはずなのに、急に寒くなってくる。
「ありとあらゆるエレメントを司り、異国の勇者が身につけた極限の力も見様見真似で成し遂げる……言い出せばきりのないほどにお嬢さんはなんでも出来るわけでございます。……その力は全知全能すらも超える可能性を秘める。…………ワタクシはそんなお嬢さんだからこそ、期待して、世界を救う期待をしたわけでございます。そうでなかったら今助けずに見殺しにしていたでしょう。」
「全然何もわかんない……意味わかんないよ……好き勝手に一方的に喋って、大切なことは全部ぼかして何も言わない……そんなんじゃ信頼なんて出来るわけないし、そんな女神のために命をかけて世界なんて救えない!! やっぱりわたしには無理だよ!! 見返りもないし!」
そう言い切ると、ナナミはすこし考える仕草をして、言う。
「ふむ、そうですな……ならばこうしましょう。ワタクシの望みを一方的に叶えてもらうのは確かに不平等。ならば、あの黒き女神を収めた果てにはお嬢さんの望みも叶えましょう。ええ、それはもちろんどんなねがいも叶います。極限を超えた力が欲しい、異性からも愛を受け取りたい、一国の王になりたい、時間を遡りたい……」
「……」
「あの日あの時あの場所、お嬢さんが5分遅れてそこにたどり着いていたならば……ご自由に。」
「えっ、それって……」
ナナミの怪しい笑顔。なら、その言葉の意味するところは……
(……そう。わたしが巻き込まれた事故は考えられないくらいの偶然の積み重ね。なら、そこに五分でも遅れてたら……間違いなく、わたしは巻き込まれてないし、事故は張本人たちしか関与してはいはず。……でも、ナナミにそんなことができるの?わたしの転生には関与してないくせに……)
「おや、どうされましたかな?」
「……うそ、ついてないよね? 」
「女神は嘘をつきません。お嬢さんの望み、なんでも叶えて差し上げましょう。故にまずは、目の前の問題を解決して頂きたい所存。時間をほんの少し戻すので、死を招く悲劇の再演にはならぬように。では、ワタクシはこれにて。」
(……カレンを倒せばわたしは元の世界に帰れる……帰れる……帰りたいの、わたし?)
元の世界、そりゃあ楽しみなこともあるし友達もいたし、学校も嫌じゃなかった。でも、この世界に来てようやく見つけて叶えられそうなあの夢……それを捨てることになるし、この力もきっと消えちゃう……それでも、わたしは元の世界に帰りたい? そこまでして、帰りたい理由……
(ある!! わたしはもう一度会いたい人がいるんだ!!)
そう、口には出したこともないし考えても悲しいから考えないようにしていた……けど、1人だけ、ただ1人だけ友達よりも、もっと大切な子がいたんだ。リズやマリアやエルザ、イブもカレンもスティア……この世界で出会ったみんな、誰とも似てない子。わたしはその子の幻影を無意識に追いかけていたけど、みんな違った。やっぱり、あの子は世界に……いや、全ての世界で1人だけなんだ。もう一度会える……それなら、そのためなら……女神の不条理な頼みだって応えてみせる!
「よし、いくよ! もう1回! 次はもう失敗しないから! 女神の助けももう借りない! 次会うときは元の世界に帰る時!」
そして、周りの世界に色が戻って、時も戻った……魔法がきかなくて驚いてたところだ。
「ユイちゃん!魔法は……」
後ろでメルが叫ぶ。大丈夫、もう平気。視界にはちゃんとババリザリスを入れておいて。
「おっけー! 魔法は効かない、角は帯電……それならこれだよ!」




