センターに立つのはわたしだけ……!
「……じゃあ、遠慮なく倒しちゃってもいい?」
許可さえ貰えばこっちのもの。ババリザリスだとか立派な名前がついてるけど、所詮は角が生えたでかいトカゲだよ。わたしなら余裕。
「はい。このままでは向こうに気が付かれて、襲われるのを待つだけ……それなら、ユイちゃんが戦うところを見てみたいのでぜひお願いします。」
迷いも躊躇いもなく、やっぱりあっさりと言うメルを見ると、何故か安心する。
「……メル、最高のお姫様だね。」
「え?」
「じゃ、そこで見ててね!」
もう迷いなんてない。この手に握られた最高の武器とわたしの魔法と力があれば法律と世間体以外は何も怖くないから!
岩の影から出て走り出すと、向こうも直ぐにわたしに気がついた。さすが野生の生き物。鋭いね。でも、今更気がついてももう遅い……!
「先手必勝って決まってる!!」
距離を詰めたら飛び上がり、思いっきりバットを振り下ろす。もちろん狙いは頭……というより2本の角! へし折る!
「ユイちゃん!! 角は危険…!」
「え」
メルのその声が聞こえた時はもう遅かった。角にバットが直激した瞬間、全身に痺れるような感覚が走って、その場に倒れて動けなくなる。見上げるしか出来ない視線には、わたしを見下すババリザリス。その感情の籠ってない瞳と、半開きの口から溢れる吐息と唾液……捕食者だ。
(な、なに……)
でも、すぐに気がついた。こいつの角……目で見てわかるレベルで、尋常じゃなく帯電してる。そりゃあ金属バットでそんなもの殴ったら痺れる……って先に言ってよ……。
(………痺れたら動けないのか……大して強くないじゃんわたし……)
なにがチートじみた力なの……この程度で動けなくなるなんて、全然弱い……。
ババリザリスは動けないわたしをじっと見つめている。何してるんだろ……食べたり、トドメをさしたりしないの? 体が動けば今のうちに攻撃できるってのに
「あれ」
動いた。普通に起き上がれた。ん? もう痺れ消滅したの? いや、だからやっぱりわたし強いのか……実際、急に動いたわたしをみてババリザリスも驚いたように距離をとった。すごい勢いで後ろに下がってる。トカゲのくせに……。
「ふふん……油断したね! 痺れた獲物は動けないからじっくり考えてた? 甘い甘い、甘すぎ!クリームたっぷりマカロンより甘い! 自然の中で学んで事なんてわたしには一切通用しないから! 自然界の反逆者だからわたしは!」
モンスターは人間の言葉なんてわからないはず。それでも、いまのわたしが挑発行為をしてるってことくらいはわかるみたいで、ババリザリスは唸り声をあげながら角をわたしに向けて突進してきた。闘牛みたいに一直線。でも!
「ムキになった時点で負けだよ……残念でした。」
そんな突進、軽くかわせる。横に1歩だけ動いて紙一重でかわせば、後は目の前をとおりすぎたババリザリスに魔法を撃つだけ。
「今日の気分は氷と雷……かな。凍てつく冷気よ……紅き雷と融合し混沌の衝撃を創り出して! 紅雷の猛吹雪!!!」
それは自然界では到底ありえない……いや、もしかしたら標高8000メートル級の山とかならあるのかもしれないけど、少なくともこんな湖のほとりで巻き起こるとは思えない、天変地異のような魔法。晴天の平原に雷鳴と吹雪が舞い踊る。そして、その中心に立つのはもちろんわたし。魔法というか、最早天候すらも自由に操れちゃいそう。
「……えっ」
魔法が消え、平穏が戻った平原。そこに立つのはわたしだけ……のはずなのに、ババリザリスは傷1つなく、ノーダメージかのごとくそこにいた。4足で地面にどっしりと構え、角は帯電している。あれ? どうするべきか考えてた睨み合ってると、岩の影からメルが叫ぶ。
「ユイちゃん! ババリザリスの鱗は食性による特殊な成分が含まれてて、魔法の力を消し去るんです! どんなに強力な魔法でも、あの鱗には無力……!」
「だから先に言ってよ!? ……あっ!!」
一瞬油断した。メルの方を向いちゃった。向き直った時にはもう遅く、目の前にババリザリスの角が2本見えた。それを認識できた時には避けることも攻撃することも出来ない。一瞬の油断が命とり、それが自然界の絶対ルール……




