プリンセス・なんちゃら
「目的地は南西の方にある湖の近くですね。それで……依頼の内容が『そこに行くこと』だけなんですよ。何を倒すとか何を探すとか、何も無いです。行くだけ。ユイさんにここまで来て欲しい……それだけの依頼です。なのに、ちゃんと報酬は出るみたいですし、戦闘ができる装備をしてきて欲しいって指定もあるんです。なんですかねコレ?」
受け付けの人は依頼書を見ながら首を傾げている。
「ふ、不思議ですね……」
(でもどうしてわざわざギルドを通してこんなめんどくさいことを……)
多分、ていうか絶対この依頼はお城からだと思う。もっと言うなら前に戦いとかを教えて欲しいって言ってきたメルリア姫。どうしてイブじゃなくてわたしだけなのかはよくわからないけど、絶対そう。直接お城からとかお姫様から頼むのはやりにくいからってこと? 変なの。
「それで、受けるんですよね? 一応、気をつけて下さいね。……何をもってこの依頼の達成としていいのかギルドとしてもよくわかりませんが、『そこに行った』証として、湖の周りにだけ生える草があるんでそれ持ってきてください。そしたら完了認定でいいので。それと、今回の目的地はそんなに遠くないのでゲートは無しでお願いします。……とは言っても徒歩で1時間くらいはかかりますけど。」
たしか、ゲート使いたければ使ってもいいけど、その場合はお金かかるんだっけ。それなら歩くよ。平気平気。
「はーい……それじゃ行ってきます。」
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(……いい天気)
街から出て、湖があると言われた方角に向かって歩く。モンスターもこの辺りには居ないみたいで、時々行商人みたいな人や馬車ともすれ違う。こんなふうな穏やかな草原を歩いていると、いまわたしが置かれている状況も嘘みたいに思えてくる。
(カレン……それにナナミにスティア……3人の女神……か)
現状の序列としては間違いなく『ナナミ>カレン>スティア』だと思う。全ての世界に干渉できる全知全能のナナミ、そのナナミに作られたこの世界の女神カレン、そして『人の願い』から生まれたよくわからないスティア。
でも、このままだとカレンがナナミの力を超えちゃうかもしれないんだよね。全ての世界の神を超える……
(ん?)
ちょっとまってよ……なんか引っかかる。ナナミって偶然この世界にいるってだけで、本当は『全ての世界の神様』なんだよね。で、それぞれの世界にはナナミが作った神様がいるんだとか。カレンもその1人。それはいいんだけど……この世界の女神のカレンがその気になっただけで、ナナミを越えられるかもしれないなら、ほかの世界でもそういうことがあってもおかしくない気がする……ナナミはそれについてはどう思ってるのかな?
(たしかに、わたしがこの世界にいることが特例と言えばそうなんだけど、全ての世界で考えれば他にもあってもおかしくなさそう…)
そう考えると、わたしが干渉、介入出来ないところでとんでもないことが起きる可能性もあるって事だよね。
(なんて、考えても仕方ないか)
人間がいくら心配したところで地震や台風を完全に防ぐことが出来ないのと同じようなもんだよ、わたしが考えても仕方ないこともある。
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「ついた……」
指定された場所。そこは綺麗な湖。どうしてかこの辺りには他の人たちも全然いなくて、すごい静か。風で周りに佇む木が時折揺れて音を奏でるだけで、ほかの音は聞こえない。
(きっとメルリア姫……あ、いた)
緑っぽい色の髪をツーサイドアップにしてて、いかにもお姫様みたいな服装、でも一応鎧としての効果もありそうな服装をしてる女の子……少し離れた場所に立っている。時折服風に髪とスカートが揺れていて、遠くから見ててもどことなく気品を感じなくもない。
(よく見たら剣もってる……)
近くに行くと、右手に剣を持って、地面に軽く刺してる。お姫様があんなもの振り回すのかなあ……。
「あっ……お待ちしておりました。」
「あ、ども」
近くにいくと、向こうも気がついてくれて先に声をかけてくれた。透き通るような綺麗な声で、礼儀正しい。勇者サマとは全然違うね。
「依頼主や明確な目的も記していない依頼を受けてくださった……お優しい方です。」
メルリア姫はこれまた礼儀正しく頭を下げる。そんな、王族なのに……ね。
「ど、どうも……」
(微妙にマリアと被るんだよなぁ…)
「早速で申し訳ないのですが……ユイちゃんにお願いしたいことがあるのです。」
「……」
(ちゃんって……こんな人だったっけ?)
お城にいる時は多少固くしてるとか?
「私と……手合わせをお願いします。」
「……はっ!?」




