創世神話
「……って訳です」
本当は話したくなかったけど、仕方ないからギルドマスター(そういえばアレスって名前だった)に、ナナミのことを話した(もちろんわたしが異世界から来たのは秘密)。なんとなく、カレンのことは伏せておいた。冒険者としてギルドに登録してるみたいだったし、ギルドマスターには話しにくい。
「……霊峰ベルズバインには世界を創成した女神がいる……それはオーリン教が信じる神とは一切関係なく、さらに上位存在で、他の世界も司る……か。」
「は、はい……嘘はついてませんよ。」
しばらく黙って頷いたあと、ギルドマスター口を開く。
「ギルドがあの山をゴッドランク以外立ち入り禁止にした理由……本来なら君のようななんでもない冒険者に話すことは絶対にしないが……こうなってしまっては仕方がないな。話そうか。」
「……それは気になります。わたしがあの山を歩いてても、何も危険な要素はなかったし……モンスターも何もいませんでした。」
「……それが原因……なのさ。」
「?」
(真面目な顔で何言ってんだこの人……)
「君を発見した者たちのように、ギルドや城の兵士は時々あの山の巡回を行っている……が、それは山頂までの決まったルートだけだ。……しかし、モンスターと遭遇したこともないし、痕跡を発見したこともない。街や村など、人の手が入った場所ではなら何も驚くことでないが、人の手が入っていない自然の中に置いて環境的要因も無くモンスターが全く存在しない場所などありえない」
ギルドマスターはどこからか紙を取り出し、わたしに見せてくれた。どうやらそれは大雑把な地形図みたいなもののようで、それを指さして話を続ける。
「環境的要因に左右される場所ならモンスターがいない場所もある……例えばここさ。ここは長い時間をかけて積もった、生き物たちの死骸で常に毒素を含むガスが作られている……モンスターとはいえ、こんな場所には生きることは出来ない。……しかし、君もわかるように、霊峰ベルズバインは何も無い。……本来であれば『霊峰』などという名前も似合っていないのさ……。」
「……ギルドの人やお城の人はあの山に女神がいるって知ってたんですか?」
わたしの問いに、ギルドマスターは首を振る。
「いいや……考えたこともなかった。そもそも、オーリン教で謳われる、原初の火を灯したスティアなんていう神も多くの人は信じていないさ……。神が世界を作ったなんて、流石の俺でもそんなことはないとわかる。世界は化学的に、物理的に、有機的に出来ている。そこに人智を超えた神などの介入はないのさ……ふっ、これが現実だよ。」
(……残念だけど、それは間違い。)
別にギルドマスターがふざけてるわけじゃないのはわかるけど、知ってる身からすると少し滑稽に見えちゃう。
「……話を戻すけど、どうしてもあの山を『霊峰』と呼び、ゴッドランク以外の立ち入りを禁じたか……それは単なる『予防』でしかないというわけだ。常識では説明出来ないことが起きている山になど、人を入れる訳には行かない。だからわざわざ、『霊峰』などという仰々しい名前をつけ、恐れさせる……それだけの話しさ。……ただ、もし君が嘘を着いていないとすれば、この目論見は全くの見当違い……さ。ま、どちらちせよ人の立ち入りを禁じたことだけは間違いでは無いようだ。……話してくれて感謝する。今回は特別に罰もなにもなしにしてあげよう。狂獣を倒した…………ユイに免じて。」
「エレメントマスターですよ、わたしの通り名。前決めましたよね。今完全に忘れてましたよね。」
ていうか、以前にペガサス倒した時にわたしとイブのなまえをいれた張り紙作るとか言ってたのに、まだないし……暇なくせに!
「……まあいいか。 それじゃあわたし帰りますね。」
「ああ、そうだ」
椅子から立ち上がり、部屋を出ようとすると、ギルドマスターが少し小さい声で喋り出す。
「もし、エルザ達に出会っても……創世の女神の話はしないように。俺が言うまでもないかもしれないが……彼女達にそんな話をすると、きっと面倒な事……そう、俺なんかよりよっぽど面倒な事になる……。」
「あ、はい」
(この人、自覚はあるんだよなぁ……)
心の中でツッコミつつ、部屋をあとにする。




