宇宙創世天地開闢万物流転
「……いない!」
スティアと別れて、山をさまよい数時間。なんかいつの間にか、サラッと山頂に着いちゃったけど、女神どころか人も動物もモンスターも、虫の1匹もいない。山頂にもいないとなると、女神なんて居ないんじゃないの? それに、山頂まで来てわかったけど、ここ普通の山だ。なにか神聖な感じもしないし、神社みたいなものがある訳でもない。ちゃんと整備すればハイキングレベルでは?(と思ったけど、これは多分わたしの体力とかも盛られてるからか、標高は高いし……。)
(ただ、だとするとギルドがこの山を『ゴッドランク級』に定めたのも、『霊峰』なんて呼ばれてるのも意味がわからない。普通の山なのに……)
「……ま、最初から信じてなかったけどさ」
だいたい、そんな神様いるわけない。『全ての世界に干渉できる全知全能』なんて、存在自体がむちゃくちゃ。だって、もし本当に居たなら、その女神はこの世界も、わたしがいた世界も、それ以外の世界もみんな知ってることになる。なおかつ『干渉できる』となれば、この世界において誰からも知られていないなんてこと有り得る? それに、どうしてそう都合よくこの世界の、こんな山なんかにいるの? 数多にある世界の中でここになんて……
そして、もうひとつとんでもなく大きな問題。この山……霊峰ベルズバインは『ゴッドランクじゃないと入山が許可できない』んだよ。で、今のわたし……低ランクのくせに無許可で侵入。これバレたらやばくない? それに、仮にイブの話が本当なら(スティアは否定してたけど)、ここには世界を壊すやばい存在がいる訳で……。
「か、帰ろっと……」
カレンのことは気になるけど、気にしてもどうにもならない。わたしがカレンに捕まらないように気をつける、それか……カレンを倒すか。そうだよ、よく考えたらわたしは最強なんだよ、堕ちた神なんてきっと勝てるはず……。
「そこのお嬢さんや、ちょいとお手を拝借しても宜しいですか?」
「は?」
不意に聞こえた、なんとも言えない喋り方の声。横を見ると、山頂から麓に続く道の端に置かれた岩に座る赤と青の瞳の女の子が。それも、妙な格好をしている。和装と洋装が合わさったような、言葉じゃ表せないような奇妙な服。着物とドレスのいいとこ取り? いやいや、なにそれ……。さらに水色の髪は地面に着くくらい長い。座っていてもそれは分かる。
「そんな不思議な顔をしないでくださいな、ワタクシはなにも怪しいものじゃあなくて……ちょいと見せてくださいな。」
「ちょっと……」
女の子はわたしの手を強めの力で引っ張って地面に座らせ、無理やり手のひらを見る。手相占い?
「ふむふむ……」
「…………」
女の子は頷き、手のひらを見たまま言う。
「お嬢さんの手のひらには宇宙創世の神秘が眠っているようで。これはワタクシもひじょーに興味深い。過去も未来も問わずにここにだけ存在する、唯一無二の存在でございます。」
「はいはい、もういい?」
(なんでこんな所にいるかは分からないけど……詐欺師かなにかでしょ)
どうせこの後、手相占いした料金とか言って高額な請求をしてくる。
「あいや、待たれよ待たれよ。左手もぜひお見せ頂きたく思う次第で。」
(なに、この……時代劇みたいな喋り方……)
可愛い感じの、わたしより年下っぽい女の子がこんなふうに喋るの少し面白い。怪しいのに、何故か断れなくてついつい左手も差し出してしまう。
「ふむふむ……これはこれは……なかなかに………」
「今度は何?」
「異界で度を超えた、非業の死を遂げた少女は期せずして身に余る力を授かる……その運命は未だ始まったばかりで因果に身を任すもまた一興……と言ったところですかね、ワタクシに言わせればこれは天命の機とでも言うべきところ……」
「え、あ……え? なんで……」
(バレた?)
今言ってたの、間違いなくわたしのことじゃん。すごい事故で死んで、チートみたいな力貰って……って。どうして……
すると、女の子は笑いながら立ち上がり、言う。
「ふっふっふっ……ワタクシこそお嬢さんがお探しの創世の女神でございます。ええ、そうですそうです、人に失望し世界を捨てた虚構の神を止めるためにはワタクシの力が必要だと。大いに結構。ただしその前にワタクシはお嬢さんのことをもっと知りたい所存。ここはひとつ、長話とでもいきましょう。」
「ほんとぉ?」
(この子が……女神?)
「おっと早速の疑いの眼差し……きっと、ワタクシのこの振る舞いがお気に召さないとみえる。ええ、確かに確かにその通り。お嬢さんの世界でいえば時代劇か、落語か、狂言か……はたまたそれのどれとも違う、紛い物か……いかにしても、世界創世の女神の言動とはかけ離れる……そう思っておるでしょう。」
「その通り……なんで女神がこんな訳の分からない喋り方?」
しかし女神は楽しそうに続ける。
「ご存知の通り、ワタクシは全ての世界に干渉し、人と関わることも可能でございます。ええ、つまりその世界によってワタクシの扱いや存在感は千差万別。しかししっかりと神と扱われることなど稀も稀。どの世界に行こうがワタクシは邪神や破壊神、狂った神として扱われる始末。そして、そう扱われた以上ワタクシはその世界においてはそのように振る舞うしかございません。」
「へぇ……」
(人の認知によって神様のあり方も変わるんだ……)
「しかし、この世界はどうか。なんと全ての世界で唯一、誰からもワタクシは認知されていない。スティアやカレンのような一部の例外こそあれど、そのような状況ではワタクシの自我や個性は無いに等しい。逆に言えばいまからなんにでもなれる。ええ、つまりはそう言うことです。」
自信たっぷりドヤ顔で言われても……
「わからないけど?」
「落語家が演じる噺、演目によってその役柄や喋り方、振る舞いを変えるのと同じことでございます。日本に住んでたお嬢さんにはこの例えがいちばん伝わるかと。」
(落語知らん……)
日本人がみんな伝統芸能しってると思うな…! それに、知ってても多分その例えは伝わらないしおかしいと思う。
「じゃあさ、いきなり全然違う振る舞いもできるわけ? それこそ、落語家みたいに。」
わたしの質問に、女神は急に真顔になって答える。
「当然……我は全知全能の完璧な絶対神。固定された概念などは我の前には無意味に等しい。…………でも、それは叶いません。たしかに貴方の望む通りにわたくしは無限にその有り様をかえ、別の存在のようになりきることは用意です………。しかしまあ、考えてみたくださいな。ワタクシが突然威厳ある絶対神になってカッコよく喋ろうが、気品と母性に溢れる女神を演じたところで、それはお嬢さん達にしか伝わらないと。」
「?」
「ワタクシがいきなり喋り方を変えれば、ワタクシとはまるでベクトルの異なる、さらに言えば高次元の世界の観測者たる者達に無用な混乱を与える結末に、ワタクシがいくら声色をかえて演じ分けようがそれはこの時点ではまったく伝わらんことなんです。だったらせめて、滑稽に、面白おかしく振る舞う方がまだいいわけですと。」
(……あんまり触れない方がいい所がこれ)
まあ、言わんとしてることは何となくわかった。わかったからこそ、黙っておく。
「と、言ったところでそろそろ本題へ参ろうかと。」




