上位への憧れと焦燥
「ユイちゃん」
スティアはわたしの腕を引っ張り、無理やりベッドに座らせた。そして、スティアは立ったままわたしを見下ろして続けて言う。
「前にも言ったけど、わたしはこの世界の女神。ほかの世界のことは何も分からないけど、この世界のことはすごいよく知ってるの。……そんなわたしから見れば、カレンちゃんは究極的なイレギュラーだし、わたしにとっても怖い人なの。」
もしかしたら気のせいかもしれないけど、スティアの目は少し潤んでいるように見える。
「女神が恐れるって……何者なの?」
「カレンちゃんは……カレンちゃんの本体はオーリン教会が信じた神の成れの果て。つまり……本物のスティアなの。」
「あ〜??」
(ぜんっぜんわからん……)
何言ってるんだこのふわふわ女神様……
「オーリン教で世界に原初の炎を〜って語られているスティア、約400年前に初代のフィリアに神託を与えたスティア、その女神とわたしは全く別の存在。大昔はほんとにその女神様が存在してたけど、いつの頃か……に色々あっていなくなっちゃった。それはオーリン教でもごく一部の偉い人しかしらない。だから、普通のオーリン教の人たちはそれを知らずに、もういないはずのスティアに祈り続けた……でもその思いの強さが奇跡を起こして、そしたらわたしが生まれたのよ。だから、かつて世界創世をしたすごーい神様はもういない……と思われた。」
スティアは腰を下ろし、まるで空気椅子のような姿勢になってわたしに視線を合わせてくる。目が合うと、やっぱりその目は潤んでいた。
「でも、その本当の女神は……カレンなの?」
「うん。順番に説明する〜。本物のスティアはいつかの時代にいなくなった。その理由は『人に失望して、守る価値も救う価値も、殺す価値すらないと思った』から。国や地域間で争い殺し合い、人が人からものを奪い、自然や生き物、モンスターも意味もなく殺して破壊していく。きっとスティアは思ったはず……『私が作りたかった世界はこんなものじゃない』って。でも、だからといって壊すのはエゴ……だからスティアは関わることをやめて、自らが神であることをやめたの。」
「………」
(……あれ?)
なんか違和感があったような……
「それからたくさんの時間が流れて現代……それまでどこに隠れていたかはわたしにもわからないけれど、スティアは『カレン』として人間の世界にふらっと現れたの。わたしにはすぐに分かった……ユイちゃんと同じよ。世界の人口が異常に1人増えたの。そしてなんの気まぐれか、自身の正体や目的をアルマちゃんに話した……それをあの子が信じたかはわからないけれど。」
「じゃ……あさ、カレンが言ってたよく分からないことも全部なにかの目的があると思うんだけど……結局、最終的にカレンは何がしたいの?」
「カレンちゃんは……神すら超えたもうひとつ上の存在になりたいの。前に少しだけ言ったけど、この世界にはわたしみたいな神じゃなくて、ほかの世界にも干渉できる本当の全知全能の神様がいるのよ〜。カレンちゃんはそれすらも超えて、他の世界にも自由に行き来できる力を得ようとしている……神を超えた神になりたいみたいなの。かつて自分が作ってしまった、失敗作の世界を見捨てて、まだ文明が発達していないような新たなる世界へ旅立って今度こそ理想郷を作るために。」
スティアは長々と語るけど、全く意味がわからない。いきなりスケールが大きすぎる。確かにふざけてるようには見えないけどさ……。
「待ってよ? どこかにいる全知全能の神とカレンは別の存在なの? どうして? 世界創世したカレン=全知全能の神、じゃないの?」
我ながらご最もな疑問。だけど、スティアはそれを無視して言う。
「……この話、ユイちゃんはどう思う?」
何故か本能的に、『この件はこれ以上聞いても教えてくれない 』とわかり、わたしは素直に質問に答える。
「突拍子もない……それに」
(それに……)
「どうしてユイちゃんが必要か……でしょ?」
「うん」
(カレンは前からいつも言ってた。わたしが必要、わたしが欲しいって。それに、他にも理解できないことは沢山ある。カレンの使う人工遺物がなんなのかとか、教会にあったお墓がなんなのかとか……)
「カレンちゃんはユイちゃんがほかの世界から来てるって気がついてる。だからこそ、ユイちゃんはカレンちゃんの欲する力の触媒になると思ってるみたい。ユイちゃんはこの世界でたった1人の異世界から来た人だもん。」
「……その理屈だと、わたし殺される? 殺したあとで材料にされるの?」
恐る恐るきくと、スティアは目を伏せがちに言う。
「だと思う。……ユイちゃんも見たでしょ? 背中に羽の生えたカレンちゃん。あれは本体の近くにいる時にだけなれる姿。本体に少しだけ似てる格好なの。でも、本体は長い間活動してなかったなら力が足りない。そのためには沢山食べたりする必要があるみたいなの。」
「ああ、なるほど……」
カレンがめちゃくちゃ食べる理由も、いくら食べても太らないのもそれなら分かる。カレンの体に入るはずの栄養やらなにやらは全部別の場所にある本体に送られてるんだ。カレンはあくまでも、人の形をしているだけで人じゃない。だからきっと、最悪はその体が壊れても構わないんだ。だから無茶もできる。
「……このままだとカレンちゃんは本当に神を超えた神になっちゃう。それはわたしも絶対に嫌なの。」
スティアは今にも泣き出しそうな顔と声で言う。……やっぱりちょっと可愛いなこの女神。
「だとしても、わたしに何ができるの?
カレンに近づかないようにするとか?」
「ううん、ちがう……霊峰ベルズヴァイン……本物の全知全能の女神様がいる山に行って欲しいの。そこに行けば、きっと何か対抗策がわかるから。わたしも一緒に行きたいけど、わたしを超える神力にはわたしか勝てない。だから、ついていけないの。」
「何から何まで唐突すぎるし……ていうか、わたしそんな暇じゃないんだよ〜? 冒険者として頑張って、ランク上げて借金返さないと……よくわかんない神様より自分の借金の方がよっぽど心配だけど?」
(と、言いつつ……)
カレンが本当の力を取り戻したら多分、借金どころじゃないんだろうな。世界が危ないかも。でも、その世界の危機を知ってるのはわたしとスティアとアルマだけ。もしその霊峰って所にいくならアルマはわたしの事情も知ってるから手伝ってもらえるかも……と思った矢先、スティアが口を開く。
「ベルズヴァインにはユイちゃん一人で言ってもらいたいの。理由は……行けばわかる。近くまでならわたしも行けるから、一緒に行こ?」
スティアはわたしの腕を掴んで、断れないような頼み方をしてくる。断ったら泣いちゃいそうだよ……。
「………みんなはわたしのこと心配してない? 4日もカレンに捕まってた上に、また遠いところに行くなんて……」
「それは平気。こっそり様子を見てきたけど、マリアちゃんは『ユイ様はきっと大変な依頼を遂行しているはずですわ』って思って待ってたし、イブちゃんは『アイツバカだし迷子だろ』って言ってた。リズちゃんと白の人は特に気にしてなかった〜。」
「あ、そう……」
(虚しい)
なんでスティアはエルザだけ名前を呼ばないんだろ?
「それじゃ、行こっか。」
「ちょ」
それは突然。一瞬のうちに、わたしの体は宙に浮き、次の瞬間……




