深淵の創成
(薬もらてたってことだよねコレ……)
ベッドのようなものに寝かさて体は動かせないし、叫んでも誰も来ないから、冷静に物事を考える。あの気持ち悪い味の肉を食べた途端意識が遠のいて、気がついたらこれ……間違いない。カレンに何かされたんだよ。あの女……ついにわたしを本気でとらえる気になったのか……いくらわたしがかわいくて、わたしの事が大好きでもこれはダメだよ!!
(なんて冗談も言えないよ……この状況)
仮にこれがマリアだったら、(それはそれでやばいけど)ほんとにわたしの事が大好き過ぎてこんなことしたんかな〜って思うけど、カレンは『好き』の方向性がおかしい。極端な話、ぶち殺して食ってやる……みたいな『好き』でしょあの人の場合。そんなひとに捕まったんだよわたし、終わりでしょ。
「スティア〜せめてスティアなら何とかできなき?? 仮にも神様でしょーー!!」
頼りたくはないけど頼れるとしたらあの謎女神様しか居ない。……けど、そんな叫びも虚しく何も起きない。いや、何起きなくはない。闇の向こうから、声が聞こえる。
「残念ね……貴女の口から紡ぎ出される名前は皆ワタシ以外の名前……紡がれる言葉は現状からの解放……ワタシの貴方を思う気持ちは星のカケラほども伝わっていなかったのかしら。」
「むしろ今までの振る舞いと今のこの状況でどうして伝わるとおもったのか気になるけど! 嫌いになる要素しかない!! 好きになるわけないじゃん!!」
カレンの声はどこから聞こえているかよく分からない。姿も見えないし、声以外の音もしない。わたしが叫び終わると、またしばしの沈黙。そして、不意に周りが明るくなり体も動くようになる。
「なに……」
(……え?)
体を起こし、周りをみる。『どうせ変な実験室みたいなやばい部屋だろうな』と思ってたら、全く違った。
わたしがいる部屋は広い『真っ白』な部屋。それはカレンのイメージとは対極。そして、わたしが寝かされていたベッドから少し離れた所にカレンは椅子に座っていた。でも、その姿……
「……羽?」
いつものドレスを着てるけど、背中には大きな羽がくっついている。蝶のような羽、ステンドグラスみたいに綺麗で少し透けている。
「……まだ少し早かったかしらね。」
「なにが……」
カレンはいつも通りの表情で続ける。
「普通の人間はいくつものエレメントを使い分けることは難しいし光や闇は生まれ持った力…魔法はそういうものよ。でも、ごく稀にその法則から外れたものや、忌々しき勇者のように己の力で新たなる魔法を創成する人間もいる……ふふふ、そしてユイ……あなたみたいにそれら全ての力を内包する、この世界の理から外れた人間もいるのよ。」
「うっ……」
「でも、所詮は人間。神が作って与えたものしか使えない。宇宙の啓示も神秘の法文もそこには存在しない。たとえ貴女のような理の外に存在する人間がいたとしても、それは理の中なのよ。」
「は?」
(ダメだ……意味不明)
カレンは椅子から立ち上がり、わたしに背中を向ける。
「うそ!? なんで…」
てっきりドレスに羽がついてると思ってたのに、違う。その蝶のような羽は紛うことなき本物……要するに、カレンの背中から直接生えている。ドレスの背中の部分は開いていて、よく見ると羽の付け根の周りは肌がひび割れているように見える。え、どういうこと?
「神的創成……でもまだ足りない。この体はまだ70%……そして、ユイがいても90%……そう、まだ足りていない……ふふふ………それに、この体も所詮は仮初……真なるワタシはここでは無い……。」
「帰っていい? 」
(これわたし何を見せられてるの?)
カレンは歩きだし、部屋の扉を開いた。
「引き止めないわ、ワタシの今日の目的は果たしたもの。」
「うわ〜頭おかしい〜」
ついつい声に出てしまった。わたしが言うのもなんだけど、クスリかなにか使ってまで大好きな女の子誘拐しておいて、やることが『自分の体の一部を見せてポエム読む』とかクレイジーだよこの人。
(まあ帰るけど)
ベッドからおり、ゆっくりと扉の方に向かう。念の為、足元に気をつける……罠とかないよね?
「…。ホントに帰るけどいい?」
扉の前、念の為カレンにきいてみる。
「いいわよ……けど、そうね。最後に一つ。貴女と深い関わりを持つもので、隠し事が無い者こそ1番疑うべきよ。」
「えっ」
それはなにを…ときこうとしたけどそれより早く、カレンはわたしの背中を押して外に追い出してきた。気がつくとそこは外ではなく、何故かわたしの家の中。なんで?
(意味不明すぎて何も分からない……)
隠し事がない人が怪しい? 誰のことだ?
(リズとエルザは隠し事ある……怪盗の件。イブは……スティアを信じるなら嘘をついてることになる。で、そのスティアも……わたしに言えないことがありそう。フィリアさんはそもそも教会そのものが怪しい……メルリア姫は立場上言えないことなんて山ほどある……ルイとソフィアさんはそもそも対して関わりがないから微妙……あとは……)
「マリア?」
たしかに、マリアって一番『平凡』だ。わたしのことがやたらと好きなのはわたしのせいで、本来のマリアはきっとそんなことは無いはずだし、わたしのことが好きすぎて隠し事もしてなさそう。
(いやいや、待って待って。前提からおかしい。カレンの言うことを信じる方がどうかしてる)
……と、心で思いつつもなぜか『この人は正しいことを言っている』と思ってしまうわたしもいる。
「あーもう! いみわか……え?」
家のベッドに寝っ転がろうとして、あるものが目につく。それはドアに挟まっていた手紙。遠目でも何となく書かれている文字が見える。届いた日付が書いてあるけど、それは3日後の日付……いや、そうじゃなくてつまり……。
「カレンに眠らせれてから3日経ってたの!?」




