わるいことしないで
(頼みたいこと……なんだろ)
とりあえずどんなことか、話だけでも聞くことにして、奥にある部屋に案内された。そんなに広くない部屋で、机と椅子がある以外は、壁に本棚があるくらいの部屋。なんの本なのかは分からないけど、たぶん宗教に関係することだとは思う。
「で、頼みって何?くだらない事じゃねーだろうな……」
(うわ……やっぱりヤンキーじゃん……)
くちのききかたもそうだけど、椅子の座り方も足組んで、椅子の前の足を少し浮かせてバランスとってる。異世界にもそういうのあるんだ。
「このようなことをいきなり頼むなど、本来ではいいことではありませんが……ユイさんとイブ様になら、きっと……」
(…………)
ま、いいや。
「ボク1人でもできるだろうけど……で、内容は?」
イブは少し機嫌良さそう。単純。
そんなイブを置いておいて、フィリアさんは机の上に地図を広げ、言う。
「この地図の印の着いた場所……ライズヴェル城下町からそう遠くはない場所ですが………この辺りに、『善ではない存在』が巣食っているというはなしをききました。」
「?」
「はぁ?」
なにそれ……
「一般的な表現をするのなら……『野盗』などと言われるの者でしょう。単独で、道行く人や、近隣の小さな村を襲い、人を傷つけ金品を奪う……昔からいる、そういった者のことでしょう。」
淡々と、優しい声ではなすフィリアさんだけど、少し普段と違う感じがする。多分、怒ってるのかな。
「じゃあなに? ボク達にそのバカを退治して来いってこと?」
「放置すれば被害は日々拡大していくことでしょう。それに、以前にライズヴェル城の兵士の方達に相談をしたのですが、『アレは別格の存在だから下手に手を出せない』などと……取り合っていただくことが出来ませんでした。」
「な、なにそれやば………」
「情けない兵士だな、たかだか野盗1人に対してそれかよ。ビビってて、めちゃくちゃダサいよな。」
文句を言いながらも、イブはなんか楽しそう。『自分がそいつを倒す瞬間』でも想像してるのかな。
「という訳ですので……いかがでしょうか、もしおふたりがよろしければ……その野盗を、捕まえてきて欲しいのです。おふたりのような強い方でしたら、きっと……」
装飾品のせいでどんな表情をしているのかは分かりにくいけど、たぶんいまのフィリアさんは信頼の眼差しでわたし達を見ている……はず。その期待、答えない訳にはいかないよね。
「わたしは別にいい……けど、こういうのってギルドとか介さなくていいんですか?」
「それについてはご心配はいりません。ギルドは採取やモンスターの討伐の依頼を主に取り扱う機関。それに対して、今回のような危険な人物や、人々の間での問題を取り扱うのはお城や教会……そのように決まっているのです。」
「へぇ」
「仕組みとかどうでもいいけどさ、捕まえるの? 殺したらダメ?」
「バーサーカーじゃん………」
「いかなる理由があっても、人が人を殺めても良いということなど、あってはなりません。多少の傷は致し方ないとしても、命を守り、捉えることをお願いします。」
(さすが、教会の偉い人………)
不殺主義ですね。
「ま、そういう依頼ならそうしてやるよ。……やりすぎないようには気をつけてやる。」
イブはつまんなそうに言い、地図を持って立ち上がる。もう出かけるつもりだ。
「ユイ。ボクは先に街の出口で待ってるからさ、お前は武器用意してはやくこい。じゃあな。」
そう言い残して、イブは部屋の外に出ていった。やる気があるのはいいけどさ……。
「それでは、どうかお願いいたします。イブさんが暴走しないように……」
「が、頑張ります………」
―――――――――――――――――
一旦家に帰り、武器……金属バットを持ってまたすぐに出かける。街の出口でイブと合流して、地図に記された場所に向かう。
「マジで近くなんだな。むしろよく今まで向こうからライズヴェルに攻めてこなかったな。」
歩きながら地図を見て、イブが言う。
「単独って話だし、いくら強くてもさすがに兵士とかも沢山いる場所に来るほどの勇気はなかったのかな………」
「……どうだろな、そういうまともな思考ができる相手ならいいんだけど。」
「え?」
「………………」
それだけ言って、イブはもう黙ってしまった。
(どういう意味だろ……)
相手は人間……とはいえ、お城の兵士たちがビビって手出ししないような相手……それに、街や村の外にいるってことは、きっとモンスターと出会うこともあるだろうけど……そんなことは問題にならないくらい強いのかな。
「雨が降ってなくてよかったな。」
「え、何いきなり」
「お前のその武器、金属だろ? 雨の中でそんなもん持ってたら、ボクの雷の魔法がぜんぶお前に飛んでただろうな。………ていうかその武器、ほんとに強いのか?」
「………さあ?」
(よく考えたら雨じゃなくても危ない気もする………)
まあいいや、この前平気だったし平気でしょ。
「そこの丘の上。地図だとそこに印がある。……登りきったらいきなり……なんて可能性もある。すぐに動けるように準備しとけよな。」
「……うん。」
目的の場所に近づいた途端、イブは急に真面目になった。普段からいつもこうならイラッとすることも少ないだろうに、残念。
「………いくぜ」
「おっけぃ」
武器を構えて、少しづつ丘を登る。今のところ、人影は見えないし、近くに隠れられそうなものもない。後ろや上を見ても誰もいないから、不意打ちの可能性はほぼない。
そして、そのまま丘をのぼりきると
「………いやがったな」
「普通にいたし……」
そこには、ボロボロの屋根の下に、盗んできたであろうものが沢山置いてあり、そのすぐ横に……女の子がいた。
「…………貴様ら………誰だ………」




