第67話 新たな旅路(完)
スノウリング村での神父とボク達の死闘から、早くも一か月が過ぎ去った。戦いの後に衛兵隊『鋼鉄の盾』に連行された神父は、尋問の末に過去の犯行と将来の恐るべき計画を自白した。
ノースブルク村での『変身魔法』の使用と暗殺未遂事件。オズウィン砦での冒険者殺害事件。さらには、神父を騙って人々の悩みに親身になって接することにより、効率良く『黄金の蜂蜜薬』を生成していたことも明らかになった。
将来的には巨大な宗教団体を立ち上げ、『黄金の蜂蜜薬』と『パラサイト・リーフ』で、リヒテンブルク北部全域を支配するつもりだったというのだから、恐ろしい話である。
しかし、過去の犯行も将来の計画も、全て『加護』の力ありきだったので、両手を自由に使えなくなるように拘束された上に、感情が希薄なタイプのゴーレムに監視されるというのであれば、神父は残された人生の時間を牢獄の中で過ごすことになるだろう。
タッドリーとフランヌのような、神父の悪事による被害者達も、公的な慈善団体によって、無事に社会復帰出来るようになるまで支援されるということだった。
そして今、ボクは港町ノース・ジブラツィヒを一望出来る丘の上で、潮風の匂いに包まれながら道行く人々の流れをぼんやりと眺めていた。
「やっぱりここにいたのね、ムラカミくん。もうすぐ出港の時間よ。そろそろ港に行かないと、貴方だけ置いてけぼりにされるわよ」
ローザは銀髪とローブの裾を潮風になびかせ、言葉とは裏腹にゆったりとした口調でそう言いながらボクのそばまで歩いて立ち止まると、同じように港町の賑わいを見つめたまま、その表情にどこか解放感を滲ませていた。
「私、怖かった。あなたと初めて出会ったあの日から、ずっとずっと怖かった。貴方の中にもう一人の貴方がいると知った時は、今ここにいる貴方が貴方の中から消えていなくなってしまうんじゃないかと思って、気がおかしくなりそうだった」
ローザは唐突にそう口にすると、ボクの方を見て穏やかに微笑んだ。あまりにも突然の言葉だったので、ボクは驚いてどう反応すればいいのか分からず、ただただ戸惑いながら彼女の言葉の続きを待った。
「でも、貴方は消えなかった。だから私ね、正直に言うと今とてもほっとしているの。そして、感謝しているの。自分の意志で、今ここにいる貴方であり続けることを選んでくれた貴方に」
彼女は笑みをこぼしながら、軽やかな足取りで丘の上から港町へと下っていく。今まで彼女が見せたことがなかったそんな姿に、不思議とボクも重苦しい何かから解放された気持ちになった。
「さあ、そろそろ行きましょうムラカミくん。これ以上ここにいたら、先に港に行って待っている二人に申し訳ないわ。ほらほら、早く早く!」
ローザは丘を下る途中で立ち止まり、笑顔でぶんぶんと大袈裟に手を振ってボクを急かしてくる。長い冬の終わりを告げる春風と共に舞う色とりどりの花びらは、まるでボク達のこれからの新たな旅路を祝福してくれているかのようだった。
それらを見ながらボクも彼女に笑顔を返しつつ、ゆっくりと丘を下っていった。
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