第66話 悪鬼の如く(4)
「なるほど、『衝光石』か。他にも色々と小細工をしたようだが、無駄なことよ。あの女の感情から得たさらなる力で、まずはお前から殺してやろう!」
あくまで落ち着き払った態度で神父は言うと、最初のように右の拳で真っすぐ殴りかかってきた。でも、今のボクにはローザの『強化魔法』がかかっている。神父の拳を紙一重で避けると、次の攻撃に備えて大きく一歩下がった。
神父も同様に後退しながら、魔法の詠唱を始めた。耳にしたことのある詠唱の内容だ。ボクは咄嗟に姿勢を低くして、神父に向かって突っ込んでいった。
そして、先ほどローザが使ったものと同じ魔法、炎の矢の魔法が姿勢を低くして距離を詰めるボクの頭上を通過し、壁に衝突した後に小さな爆発音を発してあっさりと消えた。ローザとは比べ物にならないくらい詠唱が遅い上、狙いも大雑把で回避しやすかった。
距離を詰めたボクは反応が遅れた神父の腹部を、手に持った二本の短剣で素早く切りつけた。やはり変色した肌に刃が弾かれたものの、それでも敵が体勢を立て直す前にさらに二度切りつけた。
「おのれクソガキがっ。調子に乗るなっ。私から離れろ!」
ようやく体勢を立て直した神父は激昂し、魔法の力で作った氷の長剣を必死になって振り回した。太刀筋からしてどうやら多少は剣の心得があるようだが、ローグマンやレウニグスの剣技を見ている者からすれば、あまりにも大振りで隙だらけだった。
振るわれる度に氷の長剣が放つ強烈な冷気にも怯まず、攻撃を回避しては反撃し、反撃してはまた攻撃を回避する。これを何度も繰り返している内に、神父の動きは明らかに鈍くなってきていた。
旅の中で培ってきた経験と、蓄えてきた知識と、『模倣』して磨き上げてきた技の全てを駆使して、一手一手確実に追い詰めていく。そして遂に、好機が訪れた。神父が氷の長剣を力任せに大上段から振り下ろした時、勢い余ってそのまま床に深々と突き刺さってしまったのだ。
神父は両手で必死に引き抜こうとしているが、黄金の液体の効果が弱くなってきているせいで、氷の長剣はびくともしなかった。
長剣を引き抜こうとして柄を握り締めて、無防備になったその両手を、ボクは助走をつけて全力で蹴り飛ばすと、両手の骨が折れる感触が足から伝わってきた。
神父の悲鳴が教会内部に響き渡った。同時に、黄金の液体の効果が完全に切れ、神父の体は急速に元に戻っていった。
「ああっ、『黄金の蜂蜜薬』を飲まねば――!」
苦痛に顔を歪めながら神父は、何とかして両手を動かし顔に近付けようとするが、骨が折れているので動かせるはずもなかった。黄金の液体がどこからともなく出てくる気配も感じられない。
『神父は負の感情を持つ人間が近くにいないと、黄金の液体を作ることが出来ない』というボクの推測は、どうやら正しかったようだ。もし違うというのなら、教会の外にいる人間の負の感情を材料にすればいいのに、わざわざローザが近付いてから『加護』の力を発動したからだ。
両手を攻撃して骨を折り、動かせなくしたのにも理由がある。今夜、ボク達の目の前で神父は『加護』の力を二度使ったが、いずれも黄金の液体は両手から出てきていたからだ。骨が折れた両手を今なお必死に動かそうとしている姿を見る限り、やはり両手以外から黄金の液体を出すのは不可能なようだ。
負の感情を『制御』して黄金の液体の材料を与えないようにし、骨を折って両手の動きを封じた今、ボクの勝利は揺るぎないものになっていた。
次回は7月9日に公開予定です。
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