第65話 悪鬼の如く(3)
ボクの『加護』の力で、神父の『加護』の力を封じなければ勝ち目は無い。そんなことはもう分かっている。ただ、『あいつ』の言う通りにした瞬間、ボクの全てが奪われるのではないかと思うと、とてもではないが「はい、そうします」とはなれなかった。
「ムラカミくん、そこは危険よ。早く離れて。今度は私の魔法で絶対に、絶対に無力化してみせるわ。だから早くそこから離れて!」
ローザのそんな苦しそうな、あるいは切なそうな叫びが聞こえてきた。その声を耳にして、ボクはむしろようやく決心することが出来た。――目を閉じて心の中で『あいつ』に呼びかけてみた。
(おい、全部聞いていたんだろう。この状況をちゃんと見ていたんだろう。だから一方的に言わせてもらうぞ。確かにボクはお前で、お前はボクだ。この状況を打破するのにあの力が必要なのも事実だ。認めるよ、全部)
目を閉じて足を踏み入れた暗黒の世界には、外からの光も音も、それ以外の全てのものも、入り込む余地は全くなかった。ただ、ボクの腕を引っ張るローザの手の温もりと、満ち溢れんばかりの神父の悪意だけは、暗黒の中でもはっきりと伝わってきた。
(でも、お前にボクの全てを委ねるようなことは絶対にしない。ボクはお前をボクの一部として使う。いや、使いこなしてみせる。だから、使わせてもらうぞ――『ボク』!)
返事はなかった。ただ、小さな舌打ちが聞こえたような気がした。
ボクはそれ以上呼びかけることはせず、そっと両目を開けてみると、神父が目の前で己の勝利を疑わない余裕の笑みを浮かべていた。ローザはボクを後ろに下がらせようと未だに腕を引っ張っている。レンと花野が駆け寄ってくる足音も聞こえてくる。
「ローザ、ボクなら大丈夫だよ。それよりも、ボクを置いて今すぐ、レンと花野さんと一緒に教会から離れるんだ。ボク一人でこいつと――神父と戦わなければ、ボク達に勝ち目は無いんだ。さあ、早く!」
ボクはローザに引っ張られていない方の手である物を床に叩きつけた。すると、ある物は乾いた音を立てて砕け、強烈な光を放ち、ボクの動きに釣られた神父は目を灼かれて絶叫を上げながら悶絶した。
「よっしゃ、今だ。ここはムラカミを信じて、オレ達は一旦教会から離れるぞ。なあに、あいつなら大丈夫だって!」
「うん、私もそう思う。村上くんが勝ち目の無い戦いをする人じゃないっていうのは、ローザだって知っているでしょ。だから早くここから出ましょう!」
三人がボクから離れていく。その前にボクに、レンは自分の短剣を渡してくれた。ローザは躊躇いながらも最後は『強化魔法』をかけてくれた。花野は教会の外からボクと神父だけを残して、植物で出入口と窓を封鎖し、神父が逃げられないようにしてくれた。
ありがとう。今この場で、自分に出来る最大限の援護をしてくれた三人に対して、ボクは心の中でそう呟くと、深呼吸を数回繰り返して精神を集中させていった。すると、昂ぶり荒ぶっていた感情は徐々に凪いでいき、全て無色透明になった。
次回は6月4日に公開予定です。
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