第63話 悪鬼の如く(1)
「そうか、実に残念だよ。ならば今この場で後悔しながら死ぬがいい。愚かな冒険者どもと一緒にな!」
神父はそう言い放つと一気にボクとの距離を詰め、筋肉と血管を隆起させた右腕で真っすぐに殴りかかってきた。
ボクがとっさに姿勢を低くして避けると、間髪入れずに次は右足のキックで顔面を狙ってきた。今度はさすがに回避が間に合わず、神父のキックがボクの左肩に直撃した。左肩の骨が軋む音を耳にしながら、後ろにごろごろと床の上を転がっていった。
「それ以上やらせるかよ!」
さらに攻撃を畳みかけようとする神父を、素早く背後に回り込んだレンが短剣で切りつけた。しかし、神父はレンの攻撃に対して微動だにせず、むしろ胸倉を掴んで片手で壁に投げ飛ばした。
「はははは、無駄だ無駄だっ。この姿になった私を止められる者など、この世界のどこにも存在しないっ。おい、お前もいい加減に戦え、この役立たずめ!」
神父は床の上に倒れたまま体の痛みで動けないでいるボクとレンを無視して、元シスターにそう厳しく命令した。元シスターは命令に従って一番近くにいる花野に襲い掛かろうとした。だがしかし、逃げようとするどころか、逆に腕を掴もうとしてくる花野の『加護』の力を警戒して、そのまま睨み合いの状況が続くことになった。
花野の奮闘を見ていたボクとレンは、痛みに耐えながら必死に立ち上がろうとしていると、澄んだ青色の光が全身を包み込んで、体から痛みがほとんど消え去った。
「ムラカミくん、レン。二人がかりで何とか神父を足止めしてちょうだい。その間に、シスターは私が――!」
ローザはそう指示するやいなや、魔法の詠唱を始めた。彼女を中心に見えない力が光の粒子の渦となって集まり出した。初めて見る魔法だ。万が一にも再生しないように完全に倒すつもりのようだ。立ち上がったレンへの攻撃を避けられた神父は、ローザの詠唱にすぐさま気づいた。
「そこの小娘、今すぐその詠唱をやめろお!」
神父の絶叫が教会の中の空気を震わせた。悪鬼が如く恐ろしい形相で神父がローザに迫ろうとしたが、それよりも早くボクとレンは床に落とした短剣を再び手にして、無防備になった神父の背後にほぼ同時に襲い掛かった。
短剣は変色した肌にあっさりと弾かれたが、神父の足が一瞬だけ止まった。時間稼ぎはそれだけで十分だった。隙を突かれて花野に腕を掴まれ、『加護』の力で身動きが取れなくなった元シスターの胸に炎の矢が突き刺さった。
「ごめんなさい。――さようなら」
ローザがそう言うと炎の矢は真紅の閃光となって、元シスターの体を教会の壁ごと貫いて、夜の闇を切り裂き、虚空の中に溶けるように消えていった。
次回は4月23日に公開予定です。
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