第60話 黄金の蜂蜜薬(5)
音と声の発生源は温泉宿の廊下をさらに奥に進んだところにある『120号室』という部屋の中だった。ボクが急いで部屋の中に入ろうとしたら、その直前にタッドリーが乱暴にドアを開けて、顔面蒼白になりながら廊下に飛び出してきた。
「そこにいるのはムラカミ君か。ちょうどよかった。フランヌが、フランヌが『黄金の蜂蜜薬』の中に潜んでいた『パラサイト・リーフ』に――!」
タッドリーの言葉を最後まで聞かず、ボクは『120号室』に足を踏み入れると、割れて床に飛び散ったガラス瓶の破片と黄金の液体のすぐ側で、フランヌが白目をむいて泡を吹き、全身を激しく痙攣させていた。さらに、露出している肌には見覚えのある不気味な黒い斑点が浮き出ていた。
ボクは目の前の光景に対して、ポケットに入れていたもう一つのガラス瓶を強く握りしめた。無意識に唇も強く嚙んでいたのか、鉄さび臭い味が舌の上にじんわりと広がっていった。
嵌めたつもりが、嵌められていた。ローザと花野を呼びに、踵を返して急いで『116号室』に向かった。が、廊下に出た時には、当の本人達が駆けつけてきていて、肩で息をしながら部屋の前に立っていた。
「何の騒ぎかと思ったら、『パラサイト・リーフ』ですって!? いったいどこから侵入してきたの!?」
「『黄金の蜂蜜薬』だ。あの薬の中に潜んでいたんだ。くそっ、やられた。あの神父かシスターのどっちか、あるいは両方が仕組んだんだ!」
ボクとローザが慌てふためいていると、騒ぎを聞きつけて集まった他の宿泊客達に混乱が伝わってしまい、徐々に不安と恐怖が広がり始めた。レンはそんな恐慌状態に陥りそうな集団を追い返そうとしていた。
「『パラサイト・リーフ』なら私に任せて。そいつなら私の『植物操作』の力でなんとかしてみせるわ!」
花野はそう言って床の上で暴れ回るフランヌの側に駆け寄り、黒い斑点の浮き出た腕をぎゅっと力強く握って目を閉じた。しかし、何の変化も起きないまま時間だけが過ぎ、一筋の脂汗が額から流れ落ちた時に手を払いのけられてこう叫んだ。
「駄目っ、レウニグスさんの時の『パラサイト・リーフ』よりも抵抗が強すぎて私だけじゃフランヌちゃんの中にいる奴を操り切れない!」
花野の言葉を聞いてローザも魔法の詠唱を始めながら、今度は二人でフランヌの体を上から押さえつけ、少女の腕を握った。
「『――あるべきものはあるべき形に。あるべきものはあるべき場所に。その肉体と魂に永遠の封印を』!」
ローザの『封印魔法』の詠唱が終わると、フランヌは次第に暴れなくなり、そして、花野の『植物操作』によって『パラサイト・リーフ』はフランヌの体から追い出された。追い出された『パラサイト・リーフ』は体をくねくねとさせながら次の標的を探していたが、タッドリーの魔法による攻撃を受けて、悪臭をまき散らしながら消滅した。
次回は1月15日に公開予定です。
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