第58話 黄金の蜂蜜薬(3)
シスターの顔はみるみる青ざめていき、逆に神父の顔は怒りで赤くなっていった。神父がシスターに詰め寄ってしっ責の言葉を浴びしようとしたまさにその直前、ボクは素早く二人の会話に口を挟んだ。
「お取込み中失礼します、神父様。突然で恐縮ですが、教会の帳簿を今一度ご自身の目で確認なさった方がよろしいかと。そこのシスター、教会の運営資金と寄付金を横領している可能性があると思われます」
ボクが神父に嫌味なほど丁寧な言葉遣いでにこにことそう言うと、側で聞いていたシスターは首から上だけをボクの方に向けた。シスターの肩は呼吸の乱れで激しく上下し、蒼白な顔面には脂汗が大量に浮かんでいる。
「失礼ですが、この教会は見たところ、運営資金が不足していますよね。シスターが生活費を教会に頼っているのだとしたら、シスターのあの派手なアクセサリーは不自然ではありませんか?」
神父は痛いところをついてくるボクの言葉に頬をひきつらせた。だが、シスターへの怒りを優先させたのか、一度ぎろりとボクを睨みつけた後、思いとどまらせようとしたシスターを押し退けて粗末な事務机の引き出しを乱暴に開け、中に入っていた一冊の帳簿らしきものを瞬く間に読み終えた。
「貴様はこんな誤魔化し方で私を騙せると本気で思っていたのか。とんでもないことをしてくれたなこの愚か者が!」
神父は激昂して帳簿をシスターに投げつけると、そのまま胸ぐらを掴んで華奢な体を壁に叩きつけた。衝撃でシスターの派手なアクセサリーが床に落ち、貴金属の部品がばらばらに散った。
「し、神父様。お気持ちは分かりますがどうか落ち着いてください。いくらなんでもこれはやり過ぎですよ!」
タッドリーの必死な声に神父はわずかながら冷静さを取り戻したのか、怒りで両目を血走らせながら、ゆっくりとボク達とタッドリーの方に向き直った。数秒間、数時間にも感じられる程の気まずい沈黙が教会の中を漂った後、神父は辛うじて柔和な笑みを作りながらようやく口を開いた。
「お客様に見苦しい姿を見せてしまったこと、心よりお詫び申し上げます。代わりと言ってはなんですが、『黄金の蜂蜜薬』を無償で差し上げます。無論、冒険者の方々にも」
だから今日ここであったこと、知ったことは外部には黙っていてくれ。神父はそう言外に匂わせた。それからボク達は神父から、タッドリーはシスターから『黄金の蜂蜜薬』を受け取った。
――少し『煽り過ぎた』ね。でもまあ、結果としては上々だし、良かったんじゃないかな?
ボクの頭の中でもう一人の『ボク』がそんなことを囁いた。が、全く聞こえなかったフリをして、神父からボクへの不気味な視線を背後から感じながら、仲間達と共に足早に教会を後にした。
次回は11月20日に公開予定です。
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