第57話 黄金の蜂蜜薬(2)
スノウリング村の教会は元々、かつての流行り病の影響で、空き家となって朽ちかけていた民家を、約一か月前に神父が買い取って仮の教会にしたものだという。
本格的な修繕や備品を用意するにはお金が足りなかったのだろう。壁や床の一部は修繕されずに傷んだままになっていて、備品も必要最低限しか配置されていない。簡素な祭壇には鍵付きの、おそらくは信者が寄付金を入れるための木箱が置かれている。
シスターはそんな殺風景な教会に釣り合わない豪華なアクセサリーを隠しながら、相変わらずしつこく食い下がるタッドリーへの応対を面倒くさそうに続けると同時に、玄関扉や寄付金用の木箱の方をしきりに見ていることに、ボクは気がついていた。
(あのシスター、状況的にはどう考えても『黒』なんだけど、物的証拠がないからなあ。教会の帳簿でも調べてみたら、一発で何か掴めそうなんだけど)
ボクがシスターや教会内部をくまなく観察しながら、今ここで入手した情報と、今日までに得た知識をフル稼働させ、どうにか譲歩させられないか考えていた時だった。
「おや、お客様がいらっしゃるとは。いやはや、お茶の一つもお出しせずに申し訳ございません。私達の教会へようこそ、迷える子羊達よ」
いつの間にか教会の玄関扉の近くに、黒髪を七三分けにした病的なまでに青白い肌の男が、血色の悪い薄い唇をにやにやと不気味に歪めながら立っていた。
「おお、神父様。どうか私の友人のために、奇跡の万能薬を、『黄金の蜂蜜薬』をお願いします。そうだ、思い出した。友人の信者証明証もこの通り、持参してきております!」
「貴方、しつこいですよ。そんな物は関係ありません。信者の方ご本人以外には販売しないと、あれほど言ったではありませんか。そろそろいい加減にしないと、村の自警団を呼びますよ!」
業を煮やしたシスターは、親切そうな聖職者の仮面を脱ぎ捨て鬼のような形相で、タッドリーだけではなく、話の蚊帳の外にいたボク達をもまとめて強引に教会の外へ追い出そうとした。
「待ちたまえ。信者証明証を持参した者に対しては、例外として薬の販売を許可していたはずだ。まさかとは思うが、持参してきた者達にもそのような応対をしていたのか!?」
しかし、神父がシスターの言葉を聞いた後に、表情を険しくしてそう問い詰めると、シスターは目をはっと見開き、顔を青くして唇を震わせ始めた。それを見てボクは、心の中でほくそ笑んだ。向こうから好機がやってきた、と。
次回は10月23日に公開予定です。
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