第56話 黄金の蜂蜜薬(1)
神父の薬『黄金の蜂蜜薬』が有名になってきたのは今から約一か月前、ノース・ジブラツィヒのとある病院に入院していた重篤な患者の命を、『黄金の蜂蜜薬』が救ったのがきっかけだった。
一瞬で患者を重い病から解放したその薬を、人々は奇跡の万能薬として買い求め、『黄金の蜂蜜薬』の情報も急速に広まっていった。
しかし同時に、ある問題も発生していた。
「申し訳ありません。現在、薬の在庫を切らしてしまっているのです。神父様が今日、追加の分を持ってこられる予定なのですが、まだいらっしゃっていないのですよ。そもそも、信者の方ご本人以外には販売してはいけない決まりなのですよ」
村の教会を訪れたボク達に対して、薬の販売を担当するシスターは申し訳なさそうにそう言った。
『黄金の蜂蜜薬』は大量生産が可能な代物ではないため、冒険者達がよく使用する即効性の治療薬より遥かに高い値段で、信者に限定して販売されているというのに、買い求める人々が後を絶たないので常に品薄状態だというのだ。
(まいったな。『黄金の蜂蜜薬』があれば、花野の後遺症が少しでも良くなれば、確実にチーム戦力の増強になったのに)
ボクは誰にも気づかれないように落胆のため息をつくと、タッドリーが「そんな決まりは聞いていない」と、友人の現在の病状を再び説明し、日を改めてからもう一度購入しに来るので、それまでに入荷したら、せめて友人の分だけでも売らずに残しておいてもらえないか説得し始めた。
それでもシスターは、タッドリーに対して頑なに首を縦に振ろうとはしなかった。それどころか、徐々に鬱陶しそうな表情を見せるようになっていった。
ここでようやくボクは、目の前のシスターは聖職者にしては少々派手な装飾品を、目立たないようにではあるが身に着けているのに気がついた。
(信じる者と書いて儲かる、か。『黄金の蜂蜜薬』の効果は本物みたいだけど、それによる利益に胡坐をかいている状態か。所詮、宗教家なんて――人間なんてこんなものか)
だが、こういう利益に貪欲になっている人間は得てして自身の利益、あるいはその反対の不利益をちらつかせれば、案外と動かしやすかったりするものだ。
目の前のシスターとこの場にはいない上役の神父の、望む利益と望まない不利益は何なのか。そして、取引を仕掛けるタイミングはいつにするのか。ボクは誰にも悟られないように自分自身を『制御』して、可能な限り人畜無害を装いながら、シスターにとっての利益と不利益を密かに探り始めた。
次回は9月25日に公開予定です。
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