第54話 スノウリング村(6)
ローザへの『告白』から一夜が明けた。結局あの後、部屋に戻っていざ寝ようとしても中々寝付けなかった。翌朝になってからボクは寝不足で気怠さを感じながらも、温泉宿の一階の食堂まで足を運び、『青い翼』のメンバー全員で朝食をとっていた。
メンバー全員が同席しているというのに、最初の朝のあいさつを交わしてから、誰も重苦しい沈黙を破ろうとはせず、ただひたすら食卓の上にナイフとフォークを動かす音だけを響かせていた。
「やっぱり有名な温泉宿なだけあってさ、朝食もけっこう美味いよな。ほら、この焼き魚とかさ。味付けとか焼き加減がすっげえ絶妙だと思わねえか!?」
レンがやや早口で朝食の味の感想について話し始めて、食卓に漂う暗い雰囲気をどうにかしようとしたが、誰も反応すら示さずにただ黙々と食事を続けた。
「もったいねえな。せっかくの温泉旅行なのに、もったいないぜお前ら! 色々と考えなきゃいけないことが山ほどあるのは分かっているけどよ」
彼はそこまで言うと残り僅かな自分の朝食を一気に平らげ、わざとらしく大きなため息をついた後に、いつもと変わらない陽気な笑顔をボク達に向けた。
「今この時を全力で楽しむのも大切なことだと、俺は思うぜ? というわけで、先に部屋に戻って、雪遊びの道具が使えるように準備しておくぜ! ごちそうさまでした!」
彼は勢いよく席を立ち、そのまま足早に食堂を出ていった。彼のそんな後ろ姿を見送ったボク達は、少しだけ明るくなった表情を見合って、ようやくいつもの雰囲気に戻りつつあるのを感じた。
朝食を終えてからはメンバー全員でスノウリング村の北に向かい、昨晩の新雪が降り積もった斜面を何度も何度も滑って、転げ回って、時には雪玉を投げ合って、雪まみれになりながら思いっきり遊んだ。
童心に帰るとはまさにこのことなのだろうと、ボクは疲れ切って地面に座り込み、まだまだ元気に遊んでいるみんなの姿を見ながらそう思った。そして同時に今朝から重い空気になる原因を作ってしまった自責の念が、ボクの胸の内から少しずつ消えていくのを感じていた。
「おや、そこにいる君はたしか『青い翼』という冒険者チームの、えーと。――そうそう思い出した! ユウヤ・ムラカミ君だったのう!」
聞き覚えのある声が聞こえてきたので、ボクは声がした方に振り向いてみると、元魔法使いの老人タッドリーが、武骨な顔に穏やかな笑みを浮かべながら、孫娘のフランヌと一緒に大きな雪玉を抱きかかえて立っていた。
次回は8月7日に公開予定です。
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