第51話 スノウリング村(3)
「このゴーレムはフランヌにとってはな、流行り病で亡くなった両親の代わりに、物心つく前から自分を見守ってくれている家族なんじゃよ」
引退した元魔法使いタッドリーとの世間話の最中に、目当てのゴーレムにまつわるさらなる情報を耳にして、ボクは衝撃を受けた。タッドリーとフランヌにとって、目の前のゴーレムは物ではなく家族であるというのだ。つまり、その分だけ交渉のハードルが高くなってしまったということだ。
しかし、それ以上にボクに衝撃を与えたのは、この期に及んでもまだ、彼らにとって家族の一員であるゴーレムを、どうすれば彼らから――獲ることができるのだろうかと考えた自分がいたことである。
家族の一員を、相手から獲る。自分の中に極めて冷徹で利己的な自分が存在するのは、この世界にくる以前から自覚していた。だが、これほどまでに自分の考えにぞっとしたのは生まれて初めてだった。
あいつの声が聞こえたような気がした。夢の中でボクと同じ姿になって、胸の内のどす黒いものを直視させようとしてくる、もう一人の『ボク』が。
「おい坊主、急に黙り込んでどうした? 顔色が悪くなってきておるぞ。どこか具合でも悪くなったのか?」
「お兄ちゃん。ねえ、お兄ちゃん。どうしたの、大丈夫?」
タッドリーとフランヌの心配そうな声を聞いて、ボクははっと我に返った。我に返ると同時に、ゴーレムに夢中になって忘れかかっていたことを思い出した。
そうだ、思い出した。もうそろそろ、花野とローザがケーキ屋から戻ってくる時間のはずだ。そう思ったボクはケーキ屋の方を見てみると、二人は既にケーキが入っている袋を手にして、ケーキ屋から戻っていた。
「おお、見て見てローザ、ゴーレムだ! しかもあれ、私達がずっと探していた『ウッドゴーレム』じゃん! そうでしょ、ローザ!?」
「ええ、そうね。――ムラカミくん、顔色が良くないけど、何かあったの?」
花野が感動と興奮で目を輝かせながら、鼻息荒く念願の『ウッドゴーレム』に駆け寄っている間に、ローザはボクの側まで歩いてきて、そっと横からボクの顔を覗き込んだ。
ボクはローザに「大丈夫だよ」と言って少し引きつった笑みで誤魔化していると、花野が持ち前の押しの強さでタッドリーとフランヌをたじろかせていた。そして、温泉宿の外の大通りを一人で歩き回っていたレンが、大量の土産物を手にしながらボク達のところに戻ってきた。その光景を目にして、ボクはなんとか落ち着きを取り戻すことができた。
次回は6月5日に公開予定です。
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