第47話 白き戦場の跡地にて(1)
後味の悪い一夜が明け、冒険者達も、兵士達も、衛兵達も、次々と馬車に乗って、故郷や拠点としている場所へと帰っていく。オズウィン砦に残る者は、元々オズウィン砦の守備を担当している衛兵達と、昨日の防衛戦で戦死した者達の遺体だけである。東の空が微かに明るくなった頃に降り始めた雪は、昨日の戦いの跡を白く冷たく塗り潰していた。
そんな光景を木製の椅子に座りながら目にしていたボクは、いつの日か昨日の戦いも記憶から歴史の一ページへと変わっていくのだろう。ボクが前の世界のことを忘れていってしまうように。と、ここまで考えたところで昨晩の夢のことまで思い出してしまい、ますます暗く沈んだ気持ちになってしまった。
「よう、村上。――どうしたんだよ。せっかく生き残って、堂々と胸を張って帰れるっていうのに、随分としけたツラしてるじゃねえか」
自分の考えごとによほど没頭していたのだろう。自分の名前が呼ばれるのが聞こえ、座ったまま後ろを振り向くまで、背後に誰かがいることにも気がつかなかった。声の主は前の世界からの親友、大野大河だった。
大野はいつもと変わらぬ大らかさを感じさせる笑みを浮かべながら、ボクの側まで歩いてきてどっしりと隣の椅子に座り、さっきまでボクが見ていた方向に視線を向けた。
「昨日の戦いのこと、思い出してたんだろ。まあ、無理もねえよ。前の世界じゃ無縁だったもんな、ああいうことはよ」
数秒間の重い沈黙の後、大野は穏やかな口調でそう言うと、大らかな笑みを曇らせ、再び黙り込んでしまった。
それからほんの少しの間、何かを言おうとして口をちょっとだけ開けたところで躊躇って、また口を閉じるということを、ボクが隣で見ている中で何度も繰り返した。
しかし、それでも最後には覚悟を決めたのか、大野はボクの目をじっと見つめながら、苦しく辛そうな表情で絞り出すように話し出した。
「佐藤と鈴木が死んだ。転移先の場所が悪くて、二人ともこっちの世界に召還された直後に魔物に殺されちまった。俺、二人が殺される前に近くにいたのに、動けなかった。全く何も出来なかった。……助けられなかった」
最後の方は泣きそうな声になっていた。唇を噛み締めながら俯き、膝の上で両手の拳を強く握った。あの時、『勇者』としての力が使えていたら――。そんな大野の想いが痛いくらいに伝わってくる。
「強くなろう、大野。昨日の戦いを経験して改めて思ったけれど、やっぱりこの世界はボク達のいた世界より、ずっと過酷で理不尽なんだ。この世界で生き残るための強さを手に入れる。それだけが、死んでいった人達へのせめてもの弔いなんだよ」
ボクはそう言いながら鉛色の空を見上げると、しんしんと降る雪はただ黙々と、森を、山を、白一色に染め続けていた。冬はまだ終わらない。
次回は3月27日に公開予定です。
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