第46話 オズウィン砦の夜(4)
立ち入り禁止と門の封鎖が解除されてから約一時間後、事件後の混乱が落ち着き、ようやくボクは就寝することができた。――そして、そのまますぐに夢を見た。
夢の中でボクは懐かしい光景を目の当たりにしていた。それは、『来訪者』となる前に、かつて日本に住んでいた時のボクの自宅だった。
しかし、ボクの自宅もその周りの景色も、どこか色褪せていて、輪郭がぼやけているように見えた。それだけボクの中で、かつての故郷の記憶が曖昧になっている、ということなのだろう。
――やあ、『ボク』。初めまして、と言った方がいいのだろうね。こうやって会える日が来るなんて、嬉しい限りだよ。
頭の中に直接響く不思議な声だった。後ろを振り向くと、ボクによく似ている誰かが母校の学生服を着て、気味の悪い笑みを浮かべながら立っていた。
――ねえ、キミはボクの正体が誰なのか分かるかい?
ボクの偽者はニヤニヤと笑いながら、ゆっくりとボクに一歩近づいた。突然、全身に鳥肌が立つ程の生理的嫌悪感を感じて、思わず後退りしていた。それでも、偽者は一歩、また一歩と近づいてくる。
偽者がお互いの手がお互いの首に届く、危険な距離にまで迫った時、ボクは冷静さを失わないように自分を『制御』しようとした。
(使えない。『完全感情制御』が使えない。どうなっているんだ!?)
全く予期していなかった事態に内心焦るボクを嘲笑うかのように、偽者は首を伸ばして顔だけをぐいっとボクに近づけた。
――焦っているのがはっきりと伝わってくるよ。キミは今、こう思っているだろう。どうして『完全感情制御』が使えなくなったのだろう、と。キミのその疑問に対する答えはとても簡単だ。
駄目だ。それ以上は言うな、言わないでくれ。ボクは心の中で必死にそう叫んだが、偽者は止めを刺すかのように次の言葉を口にした。
――ボクはキミの、『加護』の力と負の人格が融合した存在だからさ。キミの考えていることや感じていることが分かるのも、キミが『加護』の力を使えなくなったのも、それが原因なのさ。どうだい、とても醜くて恐ろしいだろう!
視界がぐるぐると時計のように回り始める。ぐにゃぐにゃと歪み、暗転していく。色褪せた記憶の世界が崩壊していく。薄れゆく意識の中で、もう一人の『ボク』がボクに対してこう言い放った。
――ボクはキミで。キミはボクだ。いつか、あらゆる苦痛から逃れるために、キミ自らボクに全てを委ねる日が来るのを、楽しみに待っているよ。あっはっはっはっ!
次回は3月13日に公開予定です。
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